834.共同別荘を、作ろう!
翌日、真祖吸血鬼で始祖のドラキューレさんことヒナさんと、その娘のカーミラさんが、俺たちの屋敷にやってきた。
ヒナさんは元『癒しの勇者』で、約三千年前『守りの勇者』のフミナさんとともに、エメラルディア皇女と戦っていたのだ。
それゆえ、付喪神としてエメラルディア皇女が復活したことを連絡しておいたのだ。
「エメル皇女……また会えるなんて……」
ヒナさんは会うなり、エメラルディアさんに抱きついて泣き崩れた。
「ヒナ、私が死んだ後、あなたの身に何が起きたかはフミナから聞いたわ。大変だったわね。長い年月が経ったけど、またあなたに会えて本当にうれしい……」
エメラルディアさんも、大粒の涙を流した。
少し落ち着いたところで、ヒナさんとカーミラさんに昨日の出来事を詳しく説明した。
「まさか、『アルシャドウ号』が再建されていたなんてね……。あの基地……『勇者力研究所』が残っていたのも、驚きだわ。すごく懐かしい……」
ヒナさんが、感慨深げに言った。
「そうよね。よく今まで残ってたと思って、私も驚いたの」
フミナさんがそう言って、笑顔を作った。
「でも確かにあそこなら、上の城の部分がなくなってしまえば、崖から入り口を探すのは普通はできないもんね。それから……親指将軍の指人形まで回収されていたのも驚きね」
ヒナさんがそう言いながら、『ホムンクルス』のニコちゃんが出した指人形を懐かしそうに見ている。
そんな感じでしばらく盛り上がった後に、ヒナさんを俺の仲間たちや国王陛下、ユーフェミア公爵たちに紹介した。
「私は、エレナ=ヘルシングと申します。始祖様より『ヴァンパイアハンター』を仰せ付かったヘルシング家の者です」
エレナ伯爵が、ヒナさんの前に跪いた。
初代ヘルシング伯爵は、ヒナさんによって育てられ、『ヴァンパイアハンター』としての力と役割を与えられたということだった。
「あなたが今代の『ヴァンパイアハンター』……ヘルシング家の後継者なのですね。こんな綺麗なお嬢さんなのに……『ヴァンパイアハンター』の宿命を背負わせてしまって、ごめんなさいね……」
最初笑顔だったヒナさんは、少し悲しげな表情になった。
「謝らないでください。始祖様により我が先祖は使命を与えられ、代々引き継いできました。『ヴァンパイアハンター』として人々を守ることは、我が一族の誇りなのです。始祖様には、感謝しかありません」
「そう言ってもらえると、救われる思いです。ありがとう、エレナさん」
ヒナさんは、笑顔を作った。
「私もご挨拶させてください。キャロライン=クルースと申します。『ヴァンパイアハンター』をやっています」
今度は、キャロラインさんが挨拶をした。
「あなたも、本当に美しいわね。クルース家の後継者ですね。あなたにも、感謝します。ありがとう。それから、あなたの事もグリムさんから聞いています。あなたは、我々吸血鬼にとっても新しい可能性よ。ぜひ今後も人々を守ってください。そしてグリムさんの力になってあげて下さい」
ヒナさんは、そう言った。
ヒナさんが言っているのは、キャロラインさんが、ヴァンパイアにされてしまったことと、その後に、俺の血を飲んで『聖血鬼』になったことだろう。
みんな一通り挨拶をして、一段落したところで、ヒナさんから『勇者団』の基地だった『勇者力研究所』を見に行きたいとお願いされてしまった。
それに、なぜか国王陛下が食い付いて、みんなで行こうという話になってしまった。
まぁ古代文明の遺跡でもあるし、有名な九人の勇者……『勇者団』の基地だったという場所だから、見に行きたいという気持ちはよくわかる。
ということで、俺はみんなを連れて『勇者力研究所』に行くことにした。
転移の魔法道具に登録してあるので、転移ですぐに行けちゃうのだ。
「ほんとに懐かしいわ。なんだかあの頃に戻ったみたい……。せっかくだから、この基地を有効に活用できたらいいのにねぇ……」
ヒナさんが、懐かしそうに基地の中を見渡した。
「そうね。ただグリムさんには、『竜羽基地』があるから、ここを使う必要はないみたいなんです」
フミナさんがそう話しながら、俺に視線を向けた。
「そうなんですよね。うまく有効活用できればいいと思っているんですが、あえてここを使う必要は、今のところないですし、活用法も思い浮かばないんですよね」
俺は、そう答えた。
「確かにそうよね。無理に使う必要はないものね。まずは今ある基地を充実させたほうがいいしね。まぁ予備的な感じで、何かあったら使うということでいいかもね」
ヒナさんは、頷きながら明るく言ってくれた。
「基地として使う必要は無いかもしれないが、海も近いしグリムの別荘ってことにして、地上部分にも以前あったという城を再現したらどうだい? 私が褒賞ってことで、この地上部分をあんたに与えるよ」
ユーフェミア公爵はそう言いながら、話に入ってきた。
そして男前な感じの笑顔で、俺を見ている。
「おお、それはいいね! 地上部分に大きな屋敷を作って、みんなで使う別荘にしよう! ここからなら、釣りもできそうだし、楽しそうだね」
「そうですなぁ。いいですね! みんなで鍛錬できる場所も、広く作りましょう!」
ユーフェミア公爵の提案に、なぜか国王陛下とビャクライン公爵が食い付いた。
そして俺が使うかどうかという意思確認をしないまま、なぜかどんな設備を置くかということを話し出している。
そして、盛り上がりだしている……何この人たち……?
「そうだね。面白いから、みんなで案を出して、地上部分に壮大な遊び場を作ろうじゃないか!」
ユーフェミア公爵まで、悪ノリしだした。
すごい楽しそうにしてるんですけど……。
そしてもはや、俺に意思確認をしようという気持ちは無いらしい。
ここにいる全員がノリノリで、打ち合わせに入ってしまった……。
どういうこと……これ?
まぁいいけどさ。
しばらく打ち合わせをして、決定したのは、以下のような内容だった。
○敷地は広大な面積を取り、外部の侵入者がないように外壁を張り巡らせる。
○建物は以前あったというお城のような形状にすると目立ちすぎてしまうので、大型の屋敷という感じのものにする。
○巨大なお風呂を作る。
このお風呂については、温泉旅館のイメージで、内風呂と露天風呂を作るということになった。
いつでも『ピア温泉郷 妖精旅館』に行けるのだから、無理に作る必要はないと思うのだが、もはや大浴場はマストらしい。
○みんなで訓練できるスペースを広く作る。
これも、『竜羽基地』に大きな訓練スペースもあるし、何も別荘にする場所にまで作る必要はないと思うのだが、ビャクライン公爵的にはマストらしい。
○屋敷の中に、畑も作る。
これも無理に作る必要はないし、誰が管理するのよと思ったのだが……なぜかそのまま提案が通っていた。
○プールを作る。
これだけは俺の提案なのだ。
もちろん、プールを割ってロボを発進させるため……ではない。
まぁそういうギミックも、本当はやりたいけどね。
水遊びをするためのプールなのだ。
この場所は海岸線にあるので、海で泳ごうと思えば泳げるから、普通ならプールを作る必要はない。
ただ、ここは崖で、下は岩場であり、海水浴ができるという感じではない。
もっと言うと、この国では、海は危険というイメージがあるから、海水浴を楽しむという文化はないようだ。
海岸線沿いに魔物が出るということはあまり考えられないが、それでも海で遊ぶという習慣はないらしい。
川遊びの習慣すらほとんどないようだから、水に浸かって遊ぶという発想自体がないのだろう。
そこで俺は、プールというものを説明し、そこで泳ぎの練習をしたり、遊んだりという説明をした。
だが……ほとんどの人は、大きなお風呂、冷たいお風呂的な感じでしか理解していないようだった……まぁいいけどさ。
ただ俺が提案したので、多分面白いんだろうという期待はしていたようだけどね。
こんな感じのイメージで、みんなで使う共同別荘を作るということになったのだ。
それから、地上にできる屋敷と地下の基地施設との連絡通路も再建して、行き来ができるようにすることも決定している。
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