808.爆弾が、流通している……。
続いて元怪盗と敏腕デカの特捜コンビ……ルセーヌさんとゼニータさんから報告があった。
まず『正義の爪痕』の残党がいないかという点については、今のところ発見できていないので、おそらく組織としては壊滅させたと判断して良いだろうとの報告だった。
一安心である。
ただ下部組織とも言える『マットウ商会』については、新たな事実が判明したようだ。
セイバーン公爵領内の全市町にある支店を全て摘発し、幹部を逮捕していたが、様々な犯罪行為に絡んでいることがより鮮明になったらしい。
今までの追跡調査で分かったそうだ。
そして、現時点で判明している犯罪ルートの解明がほぼ終了したので、今後本格的に『フェアリー商会』で『マットウ商会』の引き継ぎを始めてほしいとのことだった。
当初の予定通り、『マットウ商会』は取り潰しにならずに、会頭と幹部だけが逮捕されたことにして、存続させるかたちにするのだ。
これにより、未解明の犯罪ルートからの接触などの情報を拾うことになっている。
『アメイジングシルキー』のサーヤを中心に準備してくれていたので、すぐに運営出来るようになっている。
『マットウ商会』の活用の仕方も、考えてあったしね。
ちなみに『マットウ商会』の会頭は俺になるのだが、正体不明の謎の存在として表に出ないかたちにしようと思っている。
セイバーン公爵領で事業をしているので、領に届け出をしなければいけないが、正直に俺の名前を書くと、誰かが見る可能性があるので、偽名を使わせてもらうことにした。
ユーフェミア公爵が許可してくれたのだ。
偽名は、ホテイという名前にした。
もちろん商売の神様から取った名前だ。
謎の商人ホテイとして活動してみても面白いかもしれない。
これから行くの『アルテミナ公国』では、身分を偽って行動する予定なので、当然『フェアリー商会』を前面に出すわけにもいかない。
実際に、謎の商人ホテイとして活動する局面があるかもしれない。
新しい情報というのは、『マットウ商会』が武器の販売もしていたということだった。
当然、武器の販売もしていることは、予想していたし確認もされていたことなのだが、通常の武器とは違うものが出てきたらしいのだ。
特殊な武器が販売された形跡があって、審問官のクリスティアさんに協力してもらって尋問したところ、いくつかの商会や、犯罪組織に流していたことがわかったとのことだ。
その武器というのは……『破裂箱』という呼び名の武器らしい。
話の内容からすると……どうもピグシード辺境伯領の『ナンネの街』奪還戦の時に、『領都ピグシード』を襲った『武器の博士』が使っていた“爆発する箱”のことのようなのだ。
俺の世界の知識でいうところの『爆弾』だ。
魔法道具とかではなくて、火薬を使ったものらしいのだ。
威力は、それほど強力ではない感じだったが、それでも近くにいる人は命を落とす危険なものだ。
そんな爆発物を販売していたということだ……。
よく考えたら……『正義の爪痕』は、あの時以降『破裂箱』を使っていない……。
なぜ自分たちで使用せずに、販売したのだろう?
もしかしたら……何か問題があるのか……?
その辺の事情についてわかったことがないか確認したら、『マットウ商会』はただ単に販売して金を作れと言われていただけだったとのことだ。
そして、販売する武器の中には『正義の爪痕』オリジナルのあの連射式吹き矢や連射式クロスボウといった武器は入っていなかったらしい。
お金が作りたいなら、それらの武器も販売してもよさそうなものだが……。
なぜ爆弾だけ販売したのかよくわからない……。
ただなんとなくの予想としては……自分たちで使うには、それほど良い武器ではなかったということなのではないだろうか。
そうとでも考えないと、理屈が通らない。
さらに突っ込んで尋ねると、ゼニータさんが不確かな情報ではあるがと前置きした上で、仕組みに問題があったようだとの情報を教えてくれた。
遠隔で爆発させる起爆装置が、『武器の博士』が持っていたものだけで、『武器の博士』が捕まって以降は、爆発させる手段は直接火をつけるということになっていたらしい。
非常に使い勝手が悪いし、確実に爆発させるためには一人の人間が自爆テロのように犠牲にならないといけない可能性が高いので、『正義の爪痕』としてはあまり使う意味のない武器になったのではないだろうか。
自爆テロ的な感じで構成員の命を犠牲にするなら『死人薬』を飲ませて『
クリスティアさんの聞き取りによれば、『正義の爪痕』では『破裂箱』は一度作っただけで、新たに作られた形跡はなかったらしい。
それが、この武器を重要視していなかった証拠とも言えるのではないだろうか。
不要になった『破裂箱』を、特別な武器という触れ込みで販売して、活動資金にしたのだろう。
ただ……『死人薬』で『死人魔物』を作って、暴れさせることに比べれば破壊力が少ないといっても、普通の武器に比べれば、この爆弾は十分に強力な武器だ。
特別な武器というのは、決して間違いではない。
もし『破裂箱』が人が密集するところで使われたら、多くの人が命を落としてしまうだろう。
絶対に回収しなければ……。
ルセーヌさんとゼニータさんも、そう思い足取りを追ったらしい。
そして行き着いたのは、西隣のコバルト侯爵領にある商会二つと、マナゾン大河で活動している川賊たちとのことだ。
『マナゾン大河』は、セイバーン公爵領とコバルト侯爵領の領境にもなっている。
セイバーン公爵領側には、川賊のアジトは全くないらしい。
セイバーン軍が徹底的に取り締まりをしているので、いなくなったそうだ。
だが川の反対側のコバルト侯爵領は取り締まりが甘く、川賊のアジトは全てそっち側にあるらしい。
コバルト侯爵領の管轄なので、セイバーン軍としては、アジトには手が出せないとのことだ。
そして、もう一つ報告があったのは、最近コバルト侯爵領からピグシード辺境伯領に移民する人が増えていて、その人たちが『マナゾン大河』で川賊に襲われる事件も発生しているとのことだった。
たまたま巡回していたセイバーン軍の船が通り掛かり、助けたようだ。
俺は、衝撃を受けた。
そんな話は知らなかったからね。
せっかくピグシード辺境伯領に移民してくれようと思っている人たちが、その途中で危険な目に会うなんてことは、見過ごせない!
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