791.シェルター迷宮からの、連絡。

 俺は、この迷宮の宝物庫に『勇者武具シリーズ』が無いかと訊いてみた。

 だが、残念ながら無いとのことだった。


 この迷宮の機能が封印されたのは、『マシマグナ第四帝国』の末期よりも少し前だったので、『勇者団』の活動時期とは重ならないようだ。

『勇者武具シリーズ』が無いのは、ある意味当然かもしれない。


 迷宮を封印して外部との交流を絶ったのが三千百年くらい前で、その後も約二千年前の休眠モードに入る時までは、人知れず稼働していたわけだが、そもそも外との交流自体がなかったわけだ。


 ただ封印して外部との交流を断ったとしても、ダンジョンマスターが活動していて、外に出ていた可能性はある。

 もしそうなら、何かしらの物を迷宮に持ち込んでいる可能性もあるので、念のため宝物庫を見せてもらうことにした。


 宝物庫は三つあって、一つは開くが、残り二つは『再起動復旧モード』後でないと開かないらしい。


 開く宝物庫を、一応を確認させてもらった。


 中には、普通サイズの宝箱が三つあるだけだった。

 三つとも、『マシマグナ第四帝国』の金貨が入っていた。

 一つの宝箱に三千枚くらいは入っているので、三つで九千枚くらいだろう。


 九千万ゴルくらいになる。

 日本円にして九千万円になり、古代文明の金貨という付加価値を換算すれば、もっと価値があるが、放出すると相場を崩してしまうので、やはり今まで通りコレクションアイテムとして持っておくしかない。

 まぁそれでも、お宝が手に入るというのは嬉しいものだ。



 俺は最後に、迷宮管理システムに名前をつけてあげた。

 もちろん何も考えず……ダリエイトという名前になった。

 エイちゃんとでも呼んであげればいいだろう。


 そして迷宮を後にした。




 ◇




 俺は、秘密基地『竜羽基地』にやってきた。


 基地の中の訓練スペースでは、みんなが訓練中だ。


 俺は野外にいる。

 野外に魔物と戦うためのバトルステージを作るためだ。


 周辺からは見えないように、森の中に作った。

 周囲の木を残したので、普通には見えないはずだ。


 バトルステージといっても、建物を建てるわけではなく、石で囲んで魔物が逃げられないようにした。

 天然の大岩で囲った闘技場だ。

 自然な感じで、周囲の木々に溶け込んでいる。

 もちろん屋根はない。


 完成して、みんなに披露しようと思っていたところに、念話が入った。


 なんと、『シェルター迷宮』の迷宮管理システムからだった。


『箱船復旧モード』が終了したという連絡だ。


『箱船復旧モード』は、迷宮の移動及び居住空間の維持システムだけに限定した簡易な復旧モードである。

 移動型ダンジョン……第三世代型ダンジョンのもう一つの開発目的である、避難用の箱船としての機能に限定した復旧モードなのだ。


『箱船復旧モード』は、三日から五日程度で終わると聞いていたが、今日で五日目だから予定通り終了したことになる。

 意外と時間がかかるのかと思ったが、ギリギリ予定内で終わったようだ。


 一度来てほしいというので、早速行ってこようと思っている。


 前にダンジョンマスタールームでもらった『ダンジョンマスターの腕輪』を使えば、転移で行くことができるのだ。


『シェルター迷宮』は、この『竜羽基地』とは反対側の竜羽山脈の東端にある。


 俺は『ダンジョンマスターの腕輪』をはめて、「帰還」と発動真言コマンドワードを唱えた。


 すると一瞬で、『シェルター迷宮』内のダンジョンマスタールームに移動していた。


 迷宮管理システムの立体映像が待っていた。

 彼女はテスト用迷宮のシリーズと違って、西洋人顔の金髪美人だ。

 服装も白いマントで全身を覆っているのではなく、近未来的な軍隊の制服っぽい白い軍服のようなものを着ている。


「マスター、『箱船復旧モード』が完了いたしました。特に問題がないようでしたら、このままの状態で、『悪魔の心臓デーモンズハート』に侵食された損傷箇所の修理作業に入ります」


 迷宮管理システムは、俺に許可を求めてきた。


「『再起動復旧モード』に入る必要はないのかい?」


「はい。『再起動復旧モード』に入ることも可能ですが、このままの状態を維持したまま損傷箇所を復旧することができます。復旧作業をしながらも移動したり、居住空間として使用していただくことが可能です。そのほうが有効と考えます」


「わかった。じゃあそうしよう。それから君に名前をつけるよ、シェリーっていうのはどうだい?」


 俺は呼びにくいので、名前をつけることにした。

 この迷宮はテスト用迷宮とは違うので、『ダリ〇〇』という名前にこだわらず、『シェルター迷宮』だからなんとなくシェリーとつけてしまったのだ。


「ありがとうございます。名前をいただけて感謝いたします。今後ともよろしくお願いします」


 立体映像はそう言って、深く頭を下げた。

 そして少し頬が赤らんでいる。

 相変わらず凄い技術力だ。

 照れた表現もできるようだ……。


「それから、この場所にしばらく留まって、復旧した方がいいと思うんだけど、元々あった山の形に偽装することはできるかな?」


「ステルス機能により姿を見えなくすることもできますし、特定の映像を表示して山のように見せることも可能です。以前は実際に土が堆積し山の状態になっていましたが、今は映像で表示することしかできません。近づけば判明してしまいます」


「そうか……ということは、近づかれたらここに移動型ダンジョンがあることがわかっちゃうってことだよね……」


「そうなります。確実に秘匿するには地下施設を作って収納するか、外部に山の形の格納庫を作るしかありません。今のダンジョン機能では、すぐにそれらを建造することはできません」


「そうか……じゃあ当面は映像で誤魔化して、抜本的には大きな基地を作る方法を考えることにするよ。それから……もし悪魔に襲撃されたらどうなる?」


「今のところ……この場所が気づかれているか分かりませんが、もし場所を特定されれば襲撃される可能性が高いと判断します。その際、いきなりダンジョンマスタールームに攻め込むことはできないと思いますが、このダンジョンは現在魔物が存在していない状態です。魔物による足止めはできません。襲撃を受けた場合……90%以上の確率で制圧されると思います」


「そうか……どうするかなぁ……」


 悪魔に襲撃されて、また悪用されるわけにはいかない。

 もちろん俺がいれば、すぐに対処できるが、ここに張り付いているわけにもいかない。

 大森林に移動させた方が、戦力的には安全なのだが……

 大森林を戦場にすることは、できればしたくない……。

 ベストなのは、ここに置いた状態で、防衛できる戦力を配置することだな……。


『アラクネロード』のケニーと相談して、戦力を周辺に配置する方向で考えよう。

 もし悪魔が襲ってきたとしても、すぐに連絡してくれれば、転移で駆けつけることができるからね。

 その時間を稼いでくれれば、充分なのだ。


 とりあえずは、飛竜の里の飛竜たちに、この周辺の警戒に当たってもらおう。

 飛竜の里は竜羽山脈にあるから、すぐ近くだからね。


 俺は、飛竜の里の飛竜たちに念話を入れて、この周辺を警戒し、何かあったらすぐに連絡してくれるように頼んだ。


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