790.テスト用、第八号迷宮。
「いいよ。もういくつもやってるからね。『再起動復旧モード』が終了するには、やはり一年ぐらいかかりそうなのかい?」
俺はいつものように、ダンジョンマスターの就任を頼まれたので快く承諾した。
「大きな損傷がないので、それほどはかからないと思いますが、数ヶ月を要する可能性はあります。ただ早ければ数十日で完了します」
なるほど……『イビラー迷宮』と同じように、早く完了する可能性もあるわけね。
「わかった。じゃあダンジョンマスターに就任するから、早速『再起動復旧モード』に入って。ただその前に、いくつか聞きたいことがあるんだ……」
俺は、いつものようにいくつか質問をした。
まずこの迷宮が何のためのテスト用迷宮なのかということについて質問した。
迷宮システムの改良・バージョンアップのためのテスト用迷宮とのことだった。
迷宮には様々なシステムが稼働しているが、その中でも特に迷宮管理システム自体のバージョンアップ用のテスト迷宮らしい。
特別な役割だと迷宮管理システムが誇らし気に言っていた。
この迷宮が、テスト用第八号迷宮と言っていたから、俺がダンジョンマスターになっていないテスト用迷宮がもう一つあるということになる。
第七号迷宮があるということだ。
もちろん現存していればと言うことではあるが。
その点についても確認してみたが、やはり場所や名前についてはプロテクトがかかっているらしく、わからないようだ。
だが自分の存在が第八号迷宮であることから、少なくともテスト用迷宮は八つ存在しているということは確かで、おそらく自分が最後のテスト用迷宮ではないかという情報を教えてくれた。
これは前に『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんが、『マシマグナ第四帝国』が作ったテスト用迷宮は八つ以上あったと帝国の人間から聞いていたという話とも符合する。
ミノショウさんは八つ以上と聞いていたようだが、八つで打ち止めだった可能性も十分あるからね。
そして今回は、更に突っ込んだ情報があった。
情報というか……お願いでもあった。
テスト用第七号迷宮を発見してほしいというのだ。
そしてダンジョンマスターに就任してほしいとも依頼された。
このテスト用第八号迷宮の迷宮管理システムが、テスト用迷宮のすべてのダンジョンマスターの波動情報を取得した場合に、特別な機能が発動するらしいのだ。
どんな機能なのかは、現時点ではプロテクトがかかっていて公開できないようだが、テスト用迷宮にとって重要なものらしい。
内容はよくわからないが、迷宮管理システムがこんなに積極的に情報を出してくるからには、かなり特別なことが起こるのだろう。
まぁここまできたら、一つだけ発見できないというのも気持ち悪いから、見つけるしかないよね。
それから、この迷宮の特別な機能として、迷宮管理システムが立体映像ではなく実体として現れることができるということも教えてくれた。
最初は何を言っているのかわからなかったが、実物を見てよくわかった。
立体映像で写し出されていた姿が、リアルに普通の人と同様の姿になって現れたのだ。
『アバターボディー』という技術で、人間のような外見になることができるとのことだ。
この『アバターボディー』というのは、『ホムンクルス』を作る技術を応用し開発されたものらしい。
人工的な骨格に細胞培養で作った組織を張り合わせるかたちで作くられるそうだ。
『ホムンクルス』のように、純粋に細胞培養していくと成長過程で、魂が宿ってしまうらしい。
この魂が宿るタイミングと原理については、解明できていないが、そこがブラックボックスのままでも『ホムンクルス』や魔物の培養生産はできるので、『マシマグナ第四帝国』では未解明のまま生産していたとのことだった。
帝国のクローン技術、バイオ技術は原理はわからないものの、肉体を作っている過程で自然と魂が発生するということが前提のシステムだったようだ。
ただ、『アバターボディー』を作る場合には、魂が発生してしまうと困るので、あえて魂が発生しないように工夫して構築されているのだそうだ。
そうして作った『アバターボディー』に、迷宮管理システムがデータを送って操るかたちで運用するらしい。
『アバターボディー』には、魔法AIも組み込まれていて、迷宮管理システムが直接稼働させない場合に、魔法AIに基づいた自律行動をさせることも可能らしい。
まぁ迷宮管理システム自体が魔法AIの発展形みたいなものだから、迷宮管理システムの簡易版のような魔法AIがセットされていて、保険として稼働するということなのだろう。
自律型人工ゴーレムの一種とも言えるのではないだろうか。
立体映像ではなく、実体があって握手したりできるのは、素晴らしいことだと思う。
ただこの技術は、あくまでこのテスト用迷宮だけのもので、本格稼働迷宮には採用されなかったとのことだ。
迷宮管理システムとしては、わざわざ実体的な身体を持つ必要はなく、立体映像の方が機能的だという結論になって、採用が見送られてしまったらしいのだ。
それはそうかもしれないが……。
迷宮管理システムということだけ考えれば、どこにでも出現できる立体映像の方が制約がなくていいのだろう。
だが、別に実体があっても、必要な場合は立体映像に戻ればいいんだから、装備してもよかったんじゃないかと思う。
当時の判断に、異議を申し立てたい気分だ。
ダンジョンマスターの立場からすれば……リアルな立体映像だけより、実体的な体があってくれた方が、親しみやすくていいと思うんだよね。
ふと思ったが、俺が持っている『
『
『感覚共有』しているときは、当然移動するなどの操作もできる。
『アバターボディー』と言えなくもないと思う。
そう思ったので、『
だが、おそらく同系統の技術ではないかと言っていた。
そして、迷宮管理システムの予想としては、『マシマグナ第四帝国』のものではないだろうとの事だった。
機能的に考えても、小型化されていることから考えても、『マシマグナ第四帝国』の技術とは考えにくいので、それ以前の魔法機械文明の遺物ではないかとの予想だった。
確かにそう言われれば、そうかもしれない。
今までは便利だという意識でしか使っていなかったが、『
自律行動させられるし、距離が離れていても念話で繋がるし、『感覚共有』できるし。
自分の目と耳で把握するのと同じように、事態を把握できるからね。
おまけに俺の『
改めて考えると……めちゃめちゃ凄いことなんだよね。
魂がないのに、なぜ『絆』メンバーに入れるんだろう……?
たまたま俺と『
まぁ現時点ではいくら考えてもわからないから、ありがたいと感謝だけしておこう。
『
もしくはもっと前の……一番発展していたという最初の『マシマグナ帝国』の遺物だったりするのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます