788.マグロ、尽くし。

 マグロづくしの宴会メニューは、『ツナマヨ』で最初の盛り上がりを見せたが、その次にはマグロの煮物料理とマグロを焼いたマグロステーキ、マグロの唐揚げを出して、みんなの食欲を大いに刺激した。


 特に、マグロの唐揚げは、子供たちに好評だった。


 そしていよいよ、真打ち登場である。


『握り寿司』の出番なのだ。


『魚使い』ジョージが、寿司職人としてスタンバイしてくれている。


 ジョージ専用のお寿司カウンターが作ってあるから、もう握ること自体が一つのパフォーマンスになっている。


 まずは『赤身』の握り、そして『漬け』を出した。

『漬け』はもちろん、事前に仕込んであったのだ。


 お寿司が食べたい人は、並んでとるようにと案内をしたのだが……初めて魚を生で食べる人は様子を窺っている感じだ。

 そんな中、最初に並んだのは……なんと、ビャクライン公爵家長女で見た目は四歳児中身は三十五歳のハナシルリちゃんだった。


 これには周りのみんながびっくりしていたが、俺とジョージ的には当然という感じだった。


 心配そうにビャクライン公爵とシスコン三兄弟が見守っていたが、すぐに一緒に並んでいた。


「お寿司は、すごい食べ物だと思うの!」


 ハナシルリちゃんは、可愛く言うと、素手で赤身の握りをつかみ、醤油をつけると口に放り込んだ。

 小さな口を全開にして、豪快に寿司を放り込んだのだ。


 何の躊躇いもなく確信に満ちた感じで口に入れたので、周りの人たちは一瞬どよめいた。


 口をもぐもぐさせているが、幸せそうな……とろけるような顔をしている。

 見ているこっちまで、幸せになってくるいい顔だ。

 そしてめっちゃ可愛い!


「美味しい! すごい! すごい! すごい! 美味しすぎる!」


 ハナシルリちゃんは、顔をニヤニヤさせながら、その場で抑えきれないといった感じでジャンプしだした。


 これには見ているみんなも、ノックアウトだった。

 超絶に可愛いのだ。

 小さな子供が感情を抑えきれずに、飛び跳ねる姿ってほんとに可愛いからね。

 そして、食べたい気持ちも一気に刺激されたようだ。

 みんな一斉に並びだした。


 一通り『赤身』と『漬け』を食べ終わったのを見計らって、ジョージは『中トロ』と『大トロ』も投入した。


『赤身』と『漬け』で引き込み、『中トロ』で魅了し『大トロ』でトドメといった感じだ。


「凄いのだ! とろとろに溶けるのだ……なくなっちゃうのだ!」


「美味しすぎるなの〜。『中トロ』も『大トロ』もトロトロ溶けちゃうから、何個でも食べられちゃうなの〜。毎日食べたいなの〜」


「マグロ大将は凄いのです! いろんな部位が、いろんな美味しさで攻撃を繰り出すのです! もしかしたら、最強の生き物かもしれないのです! もう大将軍と呼ぶしかないのです! 天下の大将軍なのです! 『中トロ』と『大トロ』は、口の中ですぐに溶けて食べたことを忘れさせようとするのです。恐ろしい幻術なのです! でもミネは負けないのです! 食べたことを忘れたら、それはそれでまた食べられるからいいのです!」


「このとろける美味しさは何かしら……しかもこの酢飯と最高に合う。ご飯の進化系である酢飯と合わせ、醤油という究極の調味料で味を引き締めつつ甘さを出す……どこから研究をすればいいのか……。ここはやはり枝葉にとらわれず、幹を責めなければ……これを提供するグリムさんを研究し尽くすしかありません!」


 一通り食べ終わった後、リリイ、チャッピー、『ドワーフ』のミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが、そんな感想を言っていた。


 大満足してくれたようだ。

 相変わらずツッコミどころ満載だが、今はやめておこう。



 次にジョージは、軍艦巻きを出してくれた。

『ネギトロ軍艦』と、『ツナマヨ軍艦』だ。


 これも大好評だった。

 ちなみに『ツナマヨ軍艦』は、別バージョンとしてジョージが作った『わさびマヨネーズ』であえた『わさびツナマヨ』も出され、これまた好評を博していた。


 最後に登場したのは、『中トロ』と『大トロ』の炙り寿司だ。


 前回はリリイが魔法を使って炙ってくれたのだが、今回は炙るための魔法道具があるのだ。


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが作ってくれたもので、魔力を流すと火力の弱い火が吹き出すというものだ。

 前にミネちゃんが作った火炎放射器の最弱版とも言えるものなのだ。


 まぁ俺的には、よくお寿司屋さんで使われているカセットガスのガスバーナーのようなものだ。


 魔法銃の形状になっている。


 『名称』は、『魔法の火銃 アブリーナ』となっている。

 銃口が、かなり長めだ。

 これは野外で火を起こすときの、着火用の装置としても使える優れものなのだ。

 これを安く普及することができれば、一般の人でも火起こしが楽になると思う。


 ただ簡単な作りとはいえ『階級』が『中級ミドル』になっているし、完全な魔法道具なので、そんなに安くは販売できないんだよね。

 もっとも魔法道具市場の価格破壊をする気なら、できるんだけどね。


 ちなみに炙る作業は、この魔法道具を使って今回もリリイが行っていた。

 リリイは、やりたかったらしい。


 そしてせっかく魔法道具があるのに、途中からはノリで、前回同様『火魔法——火弾ファイアショット』を極小の威力で放ち、寿司ネタの上を通過させて炙るという凄技を披露していた。

 もはや大道芸的なノリである。

 だが、みんな大いに沸き上がっていた。


 炙り寿司は、もちろん大好評だった。

 また違った美味しさがあるし、生に抵抗がある人も食べやすいからね。


「父上、この炙り寿司を食べ続けたら、火に炙られても大丈夫かもしれません。『火耐性』が身に付くと思います! そしてレベルが上がる気がします!」


「じゃあ僕は、炙り寿司を食べ続けます!」


「僕は、炙る訓練をします!」


 ビャクライン公爵家のシスコン三兄弟、イツガくん、ソウガくん、サンガくんは、炙り寿司がかなり気に入ったようで、目を輝かせながら父親のビャクライン公爵に宣言していた。


 相変わらずズレていると思うが……誰か修正しようよ……。


 一応、ツッコンでおくと……炙り寿司を食べたからって、『火耐性』は付きませんから!

 炙られているのは、君じゃなくてマグロの方だから!

 そしていつも言ってるけど、食べることでレベルは上がりませんから!

 食べ続けたら、お腹を壊すだけだから!

 そして、炙る練習すると、下手したら放火魔になっちゃいますから!


 まったくこの三兄弟……ある意味ブレなくてすごいけど……。

 そのうち、ほんとに食べることでレベルを上げだすんじゃないかと、一抹の不安を感じちゃうよ……。



 ジョージの寿司コーナーは、大盛況のうちに終了した。


 そしてマグロづくし最後のメニューとして……『カブト焼き』を登場させた。

 俺的には、見た目がグロテスクなので……最後までどうしようか悩んだのだが、結局は出すことにした。

 グロテスクといっても俺の感覚がそうなんであって、こっちの世界の人はそれほどでもないようだった。

 酒のつまみに、ちょうどいい感じになっていた。


 ただ目玉の部分は誰が食うかということで、ジャンケンで勝った人が食べるというジャンケン大会になっていた。


 こっちの世界には、ジャンケン自体はあるがほとんど行われないということだった。

 だがこの宴会では、大の大人が真剣なジャンケン勝負を繰り広げて、大盛り上がりだったのだ。

 そして、勝ったのは……ビャクライン公爵だった。

 勝負事には勝ちたいようで気合を入れてジャンケンをしていたのだが、最終的に優勝したときには、喜びながらも微妙な顔をしていた。


 そして……男気を見せて……というかヤセ我慢をしながら……目玉を食べていたが……涙目になっていたような気がする……。

 がんばれ溺愛オヤジ!


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