789.迷宮探しは、穴掘りで。

 翌朝、みんな朝風呂に入っていた。


 昨夜はかなり遅くまで盛り上がっていたのだが、寝坊せずに温泉に入ってさっぱりしたようだ。

 そして、前回参加したメンバーから『ピンポン』がやりたいという話が出て、『ピンポン』大会が始まってしまった。


 負けず嫌いな人たちの集まりなので、大迫力のピンポン大会になってしまったのだ。


 でも今回も『ピンポン大魔王』と化した陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティに、勝てる者は誰もいなかった。

 まぁ八本の腕がある時点で、反則だからね。


 朝食の後、解散となったわけだが、解散するのが結構大変だったのだ。


 国王陛下やビャクライン公爵を始めとした大の大人が、名残惜しそうにして帰りたがらなかったからだ。

 それを俺が諭して、何とか解散することができた。


 みんな仕事があるだろうに……駄々っ子みたいになるのは本当にやめてほしい。





 ◇





 解散してから、俺は独自の動きをしている。

 ほとんどのみんなは、温泉旅館の後、秘密基地『竜羽基地』に移って、毎日行っている合同訓練に参加している。

 国王陛下たちや、領主の皆さんは、それぞれの仕事場に戻って仕事をこなしているはずだ。


 俺は、『正義の爪痕』の首領のアジトだった遺跡に来ている。


 昨日、白衣の男が潜伏していた迷宮遺跡……『ゴーレマー迷宮』を復活させたこともあって、『マシマグナ第四帝国』の遺跡や隠された迷宮について、改めて調査しようと思ったのだ。

 そこに『勇者武具シリーズ』がある可能性も高い。


 俺には、一つ心当たりがあった。

 前にこの首領のアジトを訪れたときに、魔物の領域で魔素が多いのに、迷宮を作らなかったのは不自然じゃないかと感じていたんだよね。

 そしてここを探せば、迷宮が発見できるかもしれないと思っていたのだ。


 落ち着いたら探してみようと思っていたのだが、今日、探してしまうことにした。



 今まで迷宮を発見したときの経験からすれば、小さめの山のてっぺんのようなところに入り口があったり、森の中で一部だけ木が生えていない場所だったりするところが怪しいのだ。

 後は『波動検知』で迷宮をイメージして探して……ダイレクトには見つからないかもしれないが、何かしら直感的に感じるのを待つという方法しかない。


 そこで、まずは小さめの山っぽい場所や不自然に木が生えてないところがないか、『飛行』スキルで飛びながら上空から探すことにした。



 ……アジトのあった場所から、北西に少し進んだところに、小さな山がある。


 あやしい感じだ。

 俺は山頂とおぼしきところに降り立って、『波動検知』で迷宮をイメージし意識を集中する……


 ………………。


 ダメだ……はっきりとは検知できない。


 でもやっぱり……この山が気になるんだよね……。


 俺はいつものように、スコップで掘ってみることにした。


 今までは、三メートルくらい掘り進むと岩盤のようなものに突き当たる感じだったが、今回は五メートル以上掘っても何もない……。


 やはり違うのか……?


 そうあきらめかけた時だった、突然視界が揺れた!

 次の瞬間、見慣れた感じの場所にいた。

 ここはおそらく……迷宮の中のダンジョンマスタールームがある最下層だろう。


 そう判断したところで、ちょうど立体映像の女性が現れた。

 迷宮管理システムのようだ。


 『テスター迷宮』のダリーにそっくりな日本人顔だ。

 金髪で白いマントに身を包んでいる。


 どうやらここは、テスト用迷宮の一つのようだ。

 迷宮管理システムが、同じシリーズだからね。


「私は『システマー迷宮』管理システムです。『システマー迷宮』は、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮『錬金迷宮アルケミイダンジョン』のテスト用第八号迷宮です。我が姉妹迷宮のダンジョンマスター様、よくおいでくださいました」


 立体映像はそう言って、頭を下げた。


「俺はグリム、よろしくね。俺を見つけて転送してくれたのかい?」


「はい。迷宮周辺に探索のアラート情報が入り、波動情報を確認したところ、姉妹迷宮のダンジョンマスターと分かり転送いたしました」


「君が現れられたということは、この迷宮は生きている。そして休眠状態だったということだろう?」


「はい、そうです。完全に封鎖され、休眠状態を維持しておりました」


「俺が穴を掘っていた山が、この迷宮だったのかな?」


「はい、そうなります。あと二メートルほど掘れば、最上部に当たっていたでしょう。この迷宮は地上十階地下三十階ですが、テスト用迷宮であったため早期に封印され、山に偽装された状態になっていました」


「どのぐらい前に、封印されたんだい?」


「封印自体は、約三千百年以上前ですが、『休暇モード』に突入したのは約二千年前です」


 また二千年前か……

 テスト用第二号迷宮の『イビラー迷宮』が約千年前で、それ以外の迷宮は皆二千年前から『休眠モード』に入っていたということだった。


「ほとんどのテスト用迷宮が、約二千年前から『休眠モード』に入っているけど……約二千年前に何かあったのかい?」


「特定の条件を満たさない場合は、『休眠モード』に入るという設定がなされていました。それにより、ほとんどのテスト用迷宮が休眠に入ったのだと思われます」


「その条件というのは、教えてもらえる?」


「いくつかありますが、重要なのは……その時点で、生存しているダンジョンマスターがいるということです。ダンジョンマスターが不在で、ダンジョンマスターの命令コードのみ生きている場合は、様々な処理手順を実行した後に、『休眠モード』に入るという設定がされていました」


 なるほど……そういうことだったのか。

 詳しくはわからないが……何かの安全対策だったのかもしれない……。


「長期の『休眠モード』に入っていたということは、これから『再起動復旧モード』に入るのかな?」


「この迷宮は、現時点でシステムの大きな損傷がないので、このまま休眠を維持することも可能です。ただ、かなり長期の休眠になっていますので、一度『再起動復旧モード』をかけ、万全の状態にすることがベストな選択です。そのためには、ダンジョンマスターの存在が不可欠です。わが『システマー迷宮』のダンジョンマスターにも、就任していただくことを要請いたします!」


 立体映像は、明るくお願いしてきた。


 この迷宮の立体映像は、システムの損傷が大きくないからか、今までと違ってあまり悲壮感がなく、めっちゃ明るい感じだ。


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