775.人造迷宮の、生産設備。

 吸血鬼の始祖である『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のドラキューレさんことヒナさんは、俺の血が『吸血生物』を『聖血生物』に変性させることを知って、驚いていた。


 『吸血生物』が『聖血生物』に変性することによって、強くなったり、アンデッドに特効を持ったりして、人々の役に立つなら、『吸血生物』を作ることに協力すると言ってくれたのだ。


 俺の血は、あくまで『吸血生物』を『聖血生物』に変えることができるだけであって、『吸血生物』自体を作ることはできない。

 だから、『聖血生物』を増やしたいと思っても、『吸血生物』がいないと無理なのだ。

 そして『吸血生物』を作れるのは、上級以上の吸血鬼だけなのである。


 『吸血生物』は、吸血する特徴がある普通の生物を『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』の『種族固有スキル』である『吸血眷属強化』を使って、強化して巨大化したものなのだ。

 魔物ではないが、魔物のように強くなっているのである。


 カーミラさんやヒナさんに、『吸血生物』を作ってもらえれば、『聖血生物』が増やせて、それだけ戦力補強になるので、非常にありがたい。



「そういえば……吸血能力のある生物は他にもいるから、それを強化して『吸血生物』にしたら、『聖血生物』のバリエーションが増えていいんじゃないかしら!」


 ヒナさんが、閃いたという感じで手を叩きながら言った。


「確かに! 確か……吸血フィンチっていう鳥がいるはずだし。あとちょっと気が進まないけど……ヒルはどこにでもいるから、すぐにでも強化ができる。ダニなんかも、やろうと思えばできるけど、小さすぎて面倒くさいから、ちょっとやだなあ……」


 カーミラさんが、首を傾げながら言った。


「吸血フィンチが、一番有望だけど……あの鳥は、どこにいたかしら……。まぁ思い出したら捕まえに行くでもいいけどねぇ……。ちょっと、頑張って思い出してみるわ」


 ヒナさんも、首を傾げている。

 この二人は、親子だけあって仕草も似ている。


 確かに、他にも『聖血生物』のバリエーションが増えたら、いいかもしれない。

 今の話を聞く限り、すぐに増えそうなのは……ヒルだろう。

 微妙すぎる……。

 まぁいいけどさ。

 蚊も『聖血生物』になったら、意外と可愛い感じになったからね。



 ヒナさんは、この『希望迷宮』についても少し教えてくれた。

 ヒナさんは約三千年前から、ダンジョンマスターをしているらしい。

『マシマグナ第四帝国』が滅んだ後に、この迷宮を訪れて当時のダンジョンマスターに会い、引き継いだとのことだ。

 当時のダンジョンマスターは、かなりの高齢で、『マシマグナ第四帝国』が滅んだことにショックを受け、各地の様子を見に行きたいと言って出て行ったのだそうだ。


『マシマグナ第四帝国』が作った人造迷宮の本格稼働迷宮第一号の『希望迷宮』は、帝国が滅びるまでは迷宮として稼働していて、人々にも認知され、迷宮を攻略するために人が訪れていたらしい。

 もちろん人造迷宮であることはオープンにされておらず、普通の迷宮として認知されていたようだ。


 だが帝国が滅び、ほとんどの人間が死んでしまったことによって、忘れ去られたらしい。


 ヒナさんの家にしてからは、攻略者が訪れることは避けたかったようなので、発見されないように隠してきたそうだ。


 ダンジョンマスターはヒナさんだが、ヒナさんの子供たちが代行者として登録されているので、迷宮管理システムのキボウちゃんは、ヒナさんの子供たちの指示には従うのだそうだ。


 そして今回、俺たちのことを友人という枠に登録してくれるそうだ。

 これによって、俺たちがこの迷宮に訪れた際に、迷宮管理システムが現れて、最下層に転送してくれるとのことだ。


 また今は一般には公開されていない迷宮だが、俺たちにはいつでも利用してくれて構わないと言ってくれた。

 迷宮探索をして魔物を倒してレベルを上げたり、魔物の素材を持ち帰ったり、現れた宝箱の宝物を持ち帰ったり、自由にしてくれていいというのだ。


 非常にありがたい。

 せっかくなので、フミナさんたち『チーム付喪神』のレベル上げは、ここでやったらいいかもしれない。


『希望迷宮』にランダムに出現する宝箱には、武器、宝石、魔法薬などが入っているらしい。

 上層のボス、中層のボス、下層のボスを倒すと、まとめて複数の宝箱が一気に出現するとのことだ。

 ちなみに下層のボスは、ダンジョンマスターではなく、ダンジョンマスターに挑戦するための最後の壁として立ちはだかるボスモンスターとのことだ。


 宝箱に入っている、武器、宝石、魔法薬などは、全てこの『希望迷宮』のシステムで製造して、ランダムに宝箱に配置しているらしい。

 それらの物は、ダンジョンマスターのヒナさんが指示をして、自分が使う為に生産することもできるとのことだ。


 今の世界でも、相当な価値があるものだろうと言っていた。



 武器は、『黒金鋼クロガネハガネ』といわれる特殊な鉄でできているとのことだ。


黒金鋼クロガネハガネ』は、『マシマグナ第四帝国』時代に一般的に使われていた武器などに使う合金らしい。

 鉄をベースにできている鋼に、様々なものを配合させたものなのだそうだ。

 安価でそれでいて強度もあり、優れた合金のようだ。

 現代にも同じような合金はあるらしいのだが、この『黒金鋼クロガネハガネ』は、『マシマグナ第四帝国』の滅亡とともに、一般的には失われたものとなっているらしい。

 それがこの迷宮に残っているというのだから、それだけで古代文明の遺産だ。

 凄い!


 剣、槍、長柄斧、戦斧、弓、小盾、盾などが、それぞれ鋳造で作られるらしい。

下級イージー』から『上級ハイ』まで、選んで作ることができるそうだ。

 魔法の武器ではなく、通常の武器らしい。


 特別な武器として、『魔鋼』の武器の『上級』と『極上級プライム』も生産することが可能とのことだ。

 これは、魔法の武器らしい。

 もっとも魔法の武器といっても、単純に魔力を通すことができて、それにより強化できるという程度で、コマンドがあるような特殊な魔法の武器は作れないとのことだ。

 これも鋳造で型にはめて作る形式のようで、複雑なことはできないらしい。

 この『魔鋼』で生産スロットに設定があるのは、剣と槍と長柄斧、戦斧、長柄鎚、戦鎚、小盾、盾、大盾とのことで、弓はないそうだ。


 リリイが使っている『魔鋼のハンマー』は、かなり使える武器なので、ここで生産されているものも、すごいのではないだろうか。


 話によると、ボスモンスターを倒した場合などに出現させるもののようだ。

 ダンジョンマスターの判断で、遊び心で、隠し宝箱のようなかたちで、発見しにくい場所に設置しておくことも可能らしい。

 そんなのを見つけた日には、お宝発見で、冒険者は大喜びだよね。


 ちなみに、『魔鋼』自体は現代でも生産技術があって、作られている武器ではある。

 だが、『鋼』に魔物からとれる『魔芯核』を混ぜて作るので、コストもかかるし、技術も必要なのだそうだ。

 そして現代に伝わっている武器の作り方は、基本的に鍛造なので、大量に生産するということも難しいらしい。



 宝石は、通常の宝石とは違い人工的に作り出す特別な物らしい。

 『クリスタルジュエリー』と呼ばれていて、ガラス玉をかなり高級にした感じのものということだ。

 様々な色のものが作れるらしい。

 輝きは、通常の宝石に負けていないようだ。

 人造クリスタルともいえるものらしい。


 原石として宝箱に入れる場合もあれば、加工した装飾品にしてから宝箱に入れることもあるそうだ。

 指輪、ネックレス、腕輪、髪留め、ティアラなどの標準仕様の型が登録されていて、いつでも作れるらしい。


 ヒナさんによれば、『クリスタルジュエリー』の形成には『魔芯核』も使っているようで、『魔芯核』の割合を多くすると、透明度は落ちるが魔力を帯びるので、魔法石の代用品としても使用可能になるらしい。

 魔法の装飾品を作ることも、可能ということのようだ。

 ただ、持たせる魔法の効果の組み込みは、この迷宮の生産プログラムの中にはないので、魔法道具作りができる人間がいないと実際には作れないとのことだ。


 魔法薬は、『身体力(HP)回復薬』『スタミナ力回復薬』『気力回復薬』『魔力(MP)回復薬』という『基本ステータス』を回復するものと、『解毒薬』『麻痺解除薬』が生産できるらしい。

『下級』から『上級』までが、生産可能とのことだ。


 これらの武器、宝石、魔法薬の生産設備も、最下層にあるのだそうだ。

 今度ゆっくり見学させてもらうことにした。


 そして、現在は迷宮攻略を目指す者が訪れないので、ストックが大量にあるらしい。

 生産設備の稼働チェックも兼ねて、定期的に生産を行っているからとのことだ。


 そんなこともあってか……一通りの武器と宝石と魔法薬を、なぜかプレゼントされてしまった。

 せっかくの厚意なので、ありがたく頂戴した。


 ただ今回もらったものは、基本的に俺のコレクションとしてしまっておくことにした。

 普通なら、欲しいという仲間に分けたり、相性が良さそうな仲間に与えたりするのだが、これからこの迷宮でレベル上げをしたり、利用させてもらうつもりなので、その攻略というかレベル上げの時に宝物としてゲットした方が楽しいと思ったからだ。


 まずは『チーム付喪神』がレベル上げとして利用させてもらう予定なので、みんなが何をゲットしてくるか楽しみに待とうと思う。


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