771.号泣の、始祖。

「うえぇぇんっ、フミナァァァァァ」


 突然、ドラキューレさんが、泣き叫びながら起き上がり、フミナさんに抱きついた。


「ヒ、ヒナ……」


『魔盾千手盾』の付喪神フミナさんは、突然のことに呆然としている。


「フミナァ……うえぇぇん……フミナ、どうじでぇ?」


 ヒナさんは、更に強く抱きしめた。


「ヒナ……ヒナァァァァ」


 フミナさんも、泣きながら抱きしめ返した。


 二人が泣いている状態が、少しおさまるまで、周りの俺たちは見守っていた。


「お母さん、起きてたの?」


 カーミラさんが、少し問い詰めるように尋ねた。


「うえぇぇんっ、あなたをびっくりさせようと思って……寝たふりしてたら……フミナがいるし、ニコちゃんやクワちゃんまでいるし……うえぇぇんっ、こ、これは一体何なの……? 夢なの? ティタちゃんもいるし……」


 そう言って、ヒナさんはまた号泣した。

 ニアのことを、ひいお婆さんのティタさんと勘違いしているようだ。


「ヒナ、あなたに会えてよかった。知ってると思うけど、本当の私は死んでるの。今の私は、『魔盾 千手盾』に残っていたフミナ=センジュの残留思念が主人格となって、付喪神化した状態なの……」


「付喪神……? でもフミナが主人格……? もうそれ……フミナと一緒じゃない! 細かいことなんていいの! またあなたに会えて嬉しい! 本当によかった、うえぇぇんっ」


 ヒナさんは、また泣いてしまった。

 感情が収まらないようだ。


 ……少し落ち着いて、今度はゆっくり周りを見渡している。


「ニコちゃん……」


 そして、『ホムンクルス』の少女ニコちゃんに声をかけた。


「ヒナお姉ちゃん」


「あぁ……よかった。あなた生きていたのね……?」


「あい、移動型ダンジョンの生体コアにされていたのを、助けてもらったの」


「とにかくよかった。ニコちゃんと、こうしてまた会えるなんて……」


 ヒナさんは、フミナさんから離れて、ニコちゃんを抱き上げた。


「ドラキューレちゃんや、久しぶりじゃのう!」


 そこに、待ちきれなかったのか、空気を読まない感じで、クワ付喪神のクワちゃんが声をかけた。

 場の空気を軽くするためなのか、あえて明るく呑気な感じのトーンだ。


「クワちゃん、あゝ懐かしい……。どうして、クワちゃんまで?」


「まぁ話せば長いのじゃ。これからゆっくり話してやるからのう」


「ティタちゃんったら、全然歳とってないし……顔の感じがだいぶ変わったね。まさかアンチエイジングのために整形したの?」


 ヒナさんは、完全にニアをティタさんと勘違いしているようだ。

 当時一緒にいたクワちゃんがいるから、尚更そう思ってしまったのかもしれない。

 それにしても……「整形したの?」って聞いてるけど……異世界に整形とかあるわけ……?

 もしかして、ヒナさんて……天然なのか……?


「ええっと……ごめんなさい。私は、ティタちゃんじゃないのよ。ティタちゃんは、私のひいお婆ちゃんです」


 ニアが少しおどけるように言った。


「あら! ティタちゃんのひ孫なの!? 間違えちゃってごめんなさいね。雰囲気がそっくりなのよ。会えて嬉しいわ、お名前は?」


 ヒナさんは驚きつつも、納得という表情をした。


「私は、ニアよ。よろしくね」


 ニアは、ひいお婆さんの友人に対しても、タメ口だ……。


「ニアちゃん、こちらこそよろしくね。ところでティタちゃんは元気なの? 妖精族だから長生きなはずよね……。でもさすがに、だいぶおばあちゃんよね?」


 ヒナさんは、笑顔で、そして楽しそうに首を傾げながら尋ねた。


「あの人が死ぬと思う……? 整形っていうのは、よくわからないけど、アンチエイジングっていうのは、よく言ってたわ。もう凄い若作りしてるわよ!」


 ニアが腕を組みながら、少し呆れるような口調で言った。


 俺も少し気になっていたが、ティタさんは健在なようだ。

 そんな感じはしていたんだけどね。


 それにしても……約六百年前にニアと同じくらいだったとすると……見た目もおばあさんになっているはずだ。

 妖精族は、十五歳まで人族と同じように歳をとり、それ以降は十年で人族の一年分くらい歳を取るということだったから、普通で考えれば八十歳近い見た目っていうことになるはずだ。


 でも、ニアの話からすると、アンチエイジングをがんばって、若作りしているらしい。

 ま、まさか……妖精界の美熟女なのか……?

 俺の中の何かが微妙に反応した気がしたが……まさか美熟女センサー……?

 いや……気のせいだな……深く考えるのは、やめておこう。



 最後に、取り残された感じになっていた俺と『闇の石杖』の付喪神の闇さんが挨拶をした。


 ヒナさんは、素晴らしい杖だと言って闇さんを握り締め、瞬殺で偏屈じいさんの闇さんの心を鷲掴みにしていた。

 闇さんは、喜んで浮かれていたのだ。

 本当に美人には甘いというか……弱いらしい。


「グリムさんて、いうのね。よろしく。あなたは……特別な存在なようね。もしよかったら……話せる範囲でいいから、あなたたちのことも聞かせて。協力できることは協力するわよ。前回の活動期間は、ティタちゃんたちに協力してあげたんだけど、今回は……どうもそれとは比べ物にならないことが待っていそうね……。夢の中に、『生命神 アウンライフ』様が現れて、私の力も必要って言ってたのよね……」


 ヒナさんが、そんなことを言った。

 どうも俺たちに、協力してくれるつもりでいるらしい。


 そして夢の中に『生命神 アウンライフ』様が現れるなんて……。

 確か……カーミラさんの話では、『生命神 アウンライフ』様にいろいろ助けてもらって、休眠すれば子供が産めるようになるとかの知識も教えてもらったということだった。


 夢の中でも交流できるなんて、凄いなぁ……ある意味、巫女じゃないのか?


「ありがとうございます。実は私たちの仲間には、『ヴァンパイアハンター』もいるのです。長くなっても構わなければ、今までのことをいろいろお話しいたします」


 俺は、そう答えた。


「まぁほんとに! それは楽しみだわ。時間はいっぱいあるもの、ぜひ聞かせて」


 ヒナさんが目を輝かせた。


「お母さん、今代のヘルシング家の『ヴァンパイアハンター』は、素敵なのよ! 綺麗で強いのよ! 他の『ヴァンパイアハンター』の子も、綺麗なの。実はその子には、面白いことが起きていてね、それもグリムさんが説明してくれると思うけど」


 カーミラさんは楽しそうに言って、最後には俺を見て悪戯な笑みを浮かべた。


 カーミラさんが言っているのは、もちろんヘルシング伯爵領領主のエレナさんと、その執政官のキャロラインさんのことだ。

 そして面白いこととは、キャロラインさんが『聖血鬼』になっていることを言っているのだろう。


 実は、カーミラさんにはその話をしていたのだ。

 カーミラさんは、かなり驚いていた。

 そして母親のヒナさんにも、ぜひ伝えたいと言っていたのだった。


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