700.『マットウ商会』を、真っ当な商会へ。
『魔物の博士』と『酒の博士』のアジトを制圧した俺と『セイリュウ騎士団』は、元怪盗ラパンのルセーヌさんと敏腕デカのゼニータさんの特捜コンビとともに、『コロシアム村』に転移で帰還した。
俺の屋敷の広間に集まり、お茶を飲んで休憩することにしたが、すぐに他のみんなが集まって来たので、同時に報告を行うことにした。
はじめにマリナ騎士団長から、アジトの制圧及び探索について報告がなされた。
拘束した三十二人の構成員については、第一王女で審問官のクリスティアさんに尋問をしてもらうことになった。
新たな情報が聞き出せる可能性は低いが、一応全員に尋問してもらうようだ。
いつものことながら、人数が多いから大変そうだ。
後で甘い物でも差し入れしてあげよう。
保護した五十人の女性については、領城でしばらく手厚く保護してくれるという話だった。
マリナ騎士団長が簡単に調べたところによると、五十人中四十人は奴隷だったらしい。
その報告を受けた俺は、どういう経緯で奴隷になったのかわからないが、必要なら奴隷契約を解除してあげるという申し出をした。
俺の突然の申し出に、みんな驚いていた。
よく考えたら……俺が『契約魔法』の『奴隷契約』のスキルを持っていることは、公開していなかったんだよね。
エレナ伯爵などには、ニアが妖精族の秘儀で奴隷紋を消せるとか、適当な説明をしていたのを思い出した……。
元々俺が奴隷契約を解除する方法を探していたことを知っている人たちは、いつの間にか自分でできるようになっていたから、驚いたのだろう。
やっちまった感があるが……時すでに遅しだった。
「あんた、奴隷契約の解除までできるのかい!? ……まぁ今さら驚かないけどね」
マリナ騎士団長に、呆れられてしまった。
「はい。どうしても奴隷契約を解除する方法を身に付けたくて、『契約魔法——奴隷契約』のスキルレベルが9以上になれば解除できるということを知り、ニアにお願いして妖精族の秘儀で特訓してもらったんです……」
俺は、またもや“妖精族の秘儀”というキラーワードで、適当な説明をしてしまった……。
我ながら……無理がある説明だ……。
普通に考えれば、スキルレベルを特訓で一気に上げることができる秘儀なんて、無茶苦茶だけどね。
それ以前に、『契約魔法——奴隷契約』を身に付けたいからといって、すぐに身に付けてしまっていること自体がありえないことだし……。
俺が苦笑いしていたからか、それ以上は誰も突っ込んでこなかった。
助かったのだ。
「保護した人たちは……どうだい、いつものように『フェアリー商会』で面倒見たら? もちろん本人の希望が第一だけどね」
今度はユーフェミア公爵が、そう提案してくれた。
「はい。もしその人たちが希望してくれるようであれば、『フェアリー商会』で働いてもらおうと思います。人材募集をかける必要がありましたので、逆に助かります」
俺はそう言って、引き受けた。
今後のことは、いつものように『アメイジングシルキー』のサーヤに任せようと思う。
領城に行ってもらって、いつものように、一人一人ケアをしながら話を聞いてもらうことにしよう。
「あんたに戦利品として渡した金貨の使い道も、できたじゃないか。あのお金を使って、その人たちの住む所でも用意してあげればいいさ」
マリナ騎士団長がそう言って、ニヤッと笑った。
どうもマリナ騎士団長も、あの保護した人たちを『フェアリー商会』で雇用すればいいと考えていたようだ。
さすがユーフェミア公爵の義母だけある。
押収した『魔物化薬』やそれについての研究資料については、王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが解析に当たることになった。
次に、特捜コンビのルセーヌさんとゼニータさんから、『マットウ商会』の摘発に関しての報告がなされた。
領都にある『マットウ商会』の本部を捜索し、全従業員を捕縛したらしい。
相変わらず『マットウ商会』自体には、『正義の爪痕』との繋がりを示すものは無かったようだ。
だが、俺と『セイリュウ騎士団』で制圧したアジトから、『マットウ商会』に関する資料も出ているし、『正義の爪痕』が作った商会であるという証拠品も抑えたので問題ないだろう。
一応、全従業員を一旦捕縛したが、取り調べをして純粋に雇用されているだけと判断された従業員については、解放する予定のようだ。
各市町にある支店も同様に、摘発したとのことだ。
『マットウ商会』は、当然のごとく全資産を没収された上、取り潰しになるそうだ。
ここでユーフェミア公爵から話があった。
「『フェアリー商会』で『マットウ商会』を引き継いだらどうだい? 引き継ぐなら土地建物や資産を全て提供するよ。あんたたちへの褒賞の一部という意味も込めてね」
ユーフェミア公爵の提案は、俺たちの働きへの褒賞という意味が強いようだ。
ありがたい話ではあるのだが……既に各市町にはユーフェミア公爵が手配してくれている『フェアリー商会』の用地もあるし……『マットウ商会』の土地建物を無理に引き継がなくてもいいと思うんだよね。
「ありがたいお話ではあるのですが……すでに『フェアリー商会』用の場所は確保していただいてるようですし……我々が引き継がなくても……」
俺がそう言葉を濁したところで、突然、ゼニータさんが声を上げた。
「口を挟んでしまい、申し訳ありませんが、私も引き継ぐことをお願いしたいのです。現在調べている最中ですが、『マットウ商会』は様々な分野で悪事を働いています。ですが明確な証拠を残しておらず、現時点では悪事に繋がる者たちを全て摘発することは難しそうなのです。できれば、しばらくの間、『マットウ商会』の名前を維持していただけないでしょうか。そうすれば相手方から再度接触してくる可能性があります。それを利用して、悪事を働いている関連商会や不正役人などを取り締まりたいのです」
なるほど……ゼニータさん的には、捜査上『マットウ商会』の存在を、しばらく維持したいということのようだ。
明確な証拠がつかめないから、関連している悪い繋がりの相手方から接触してくるのを待つという作戦なわけね。
「そうかい、なるほどね。この際だから、悪い奴らを根こそぎ捕まえてしまいたいからね。これをうまくやれるのは、やはりお前さんとこしかないと思うけどね。『マットウ商会』を引き継ぐといっても、もちろん悪い事をする必要はない。真っ当な商会にしてほしいが、悪い奴らが接触してきた時には、悪い商会の体でうまく対応する必要があるんだよ。やってくれないかいグリム、どうだいサーヤさん?」
ユーフェミア公爵は、俺とサーヤを見ながらお願いしてきた。
最近サーヤとよく話してるし、『フェアリー商会』を取り仕切っているのがサーヤだと知っているから、あえてサーヤにも振ったのだろう。
「はい。私は構いません。この件がなくても、『マットウ商会』を引き継ぐ場合は、名前をそのまま残した方がいいと考えていました。実態は、『フェアリー商会』傘下のグループ商会となりますが、表向きは今まで通り独立の商会として運営した方が、今後いろんな可能性があると考えていました。『フェアリー商会』が目立ちすぎるというのもありますし……。従来の悪い繋がりの者が接触してきた場合には、それなりに対応できるようにスタッフを教育するつもりです。それと、一番接触してくる可能性がある領都の本部には、時間がある時だけでもルセーヌさんにフリーのスタッフとして入ってもらってはどうでしょうか? もちろん旦那様がよろしければの話ですが」
サーヤは、ユーフェミア公爵にそう答えながら、最後に俺に視線を流した。
まぁそういうことなら、協力するか!
何よりも、サーヤが乗り気だからね。
「わかりました。それでは、協力させていただきます」
俺がそう答えると、みんな笑顔になった。
「私もできるだけ時間を見つけて、手伝うようにします。商会の運営スタッフとしても、がんばりますから!」
ルセーヌさんが、元気よくそう言った。
なんだか楽しそうだ。
もしかしたら……ルセーヌさんは、本当は商会の運営とかをやりたいのかもしれない。
今までは行商をしていて、ちゃんとしたお店は持っていなかったようだから、お店を持つのが楽しいのかもしれない。
というか……実際、お店を持つのって、楽しいんだよね。
『マットウ商会』を真っ当な商会に再生しつつ、悪いお友達を一網打尽にしますか!
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