699.証拠品、押収。

 俺は、マリナ騎士団長率いる『セイリュウ騎士団』と共に、『領都セイバーン』の領城に転移でやって来た。


 転移した場所は、領城の中庭のひとつのようだ。

 当然俺は、初めて訪れた。


 全体が見れないのでわからないが、この領城はかなり大きいと思う。


 そして、『領都セイバーン』もかなり広いらしい。


 少し見物したい感じだが、そんなことをしている場合ではないので、早速『波動収納』から飛竜船を取り出した。


 ちなみに、牽引してくれる飛竜たちは、転移するときに一緒に来ている。


 マリナ騎士団長の指揮の下、すぐに乗船し出発した。


 人々を驚かせないように、ある程度上空を移動したが、それでも領都の大きさがわかる。


 ピグシード辺境伯領の領都やヘルシング伯爵領の領都とは、比べ物にならない大きさだ。


 倍なんてもんじゃないだろう……五、六倍はあるじゃないだろうか。


 『領都ピグシード』や『領都ヘルシング』は、五千人規模の都市だが、『領都セイバーン』は、三万人規模の都市らしい。


 実際、領都には約三万人が暮らしているそうだ。



 領都を囲む外壁を越えて少し行くと、広い草原のような場所があった。

 この地下に、秘密のアジトがあるらしい。


 俺は、第一王女で審問官のクリスティアさんが聞き出してくれた情報をもとに、入り口を探した。


 そして、すぐに発見し、突入した!


 事前の打ち合わせで、中にいる約三十人の構成員の捕縛はセイリュウ騎士たちが担当し、囚われている女性たちの救出は俺が担当することになっている。


 アジトの中は、密造酒を作る醸造所のような感じになっていた。


 途中残党が襲ってきたが、セイリュウ騎士に任せて、俺は駆け抜けた。


 そして、発見した!

 一番奥のエリアに、丁度五十人女性が囚われていた。


 俺は助けに来たことを告げ、安心するように話をした。


 周囲の状況を確認したが、特に問題はないので、一旦セイリュウ騎士たちの様子を見に引き返すことにした。


 戻ると、全ての構成員は拘束されていた。

 さすがセイリュウ騎士だ。

 あっという間に制圧したようだ。


 俺は、マリナ騎士団長に、女性たちを保護したことを報告した。


 保護した女性は五十名で、拘束した構成員は三十二名だった。

 保護した女性については、マリナ騎士団長が、転移の魔法道具で領城に連れて行って静養させてくれることになった。


 その間、俺とセイリュウ騎士たちで、このアジトを探索をすることになったのだ。

 それなりの広さがあるので、手分けして探索することにした。



 探索が終わり、俺たちは再び集まった。


 探索結果としては……特に目新しい物は、発見されなかった。

 だが『マットウ商会』に、『魔物化促進ワイン』を出荷している証拠は、多く発見した。

 そして『マットウ商会』は、『正義の爪痕』が作った商会であることがはっきりした。

『正義の爪痕』が行っていた人の魔物化に関する研究資料も、押収することができた。


 それから、普通サイズの宝箱が二つあった。

 活動資金のようだ。

 一つには金貨が入っていて、もう一つには銀貨や銅貨が入っていた。


 二つ合わせて、三千万ゴルくらいにはなるんじゃないだろうか。


 お宝というほどではないが、各種の武具も揃っていた。

中級ミドル』階級が多かったが、『上級ハイ』も結構あった。

 全て現代のものだ。


 『正義の爪痕』が開発した『連射式クロスボウ』と『連射式吹き矢』も、それぞれ三十五個づつ押収した。


 あと『魔物化薬』やその前段階の『死人核』、さらに前段階の『死人薬』も相当量あった。


 それから、完成済の異物混入ワイン……『魔物化促進ワイン』が二十樽もあった。

 混ぜる為に仕入れた通常のワインも、三十樽ほどあった。


 これらを全て回収した。


 アジトの探索が終わったタイミングで、マリナ騎士団長が戻ってきた。


 元怪盗と敏腕デカの特捜コンビ、ルセーヌさんとゼニータさんも一緒だ。


 彼女たちは『マットウ商会』の摘発を終えて、報告の為に『コロシアム村』に戻りたいということで、一緒に来たようだ。



 ここで押収した物については、一旦俺の方で回収してほしいとマリナ騎士団長に頼まれた。


 そして押収した宝箱二つについては、俺の戦利品として受け取るようにと指示された。


 俺だけが金銭的な報酬を得るわけにもいかないので、固辞したのだが……またダメな子供を見る目をされて、「鈍い子だね。あんたに戦利品を分ける為に。わざわざ連れてきたってのに……。黙ってもらっときな!」とキレ気味に言われてしまった。


 非常にありがたい話ではあるのだが……どうせなら、このお金を囚われていた女性たちに分けてあげたほうがいいと思うんだが……。

 俺は恐る恐るそんな提案をしてみたのだが……更にダメな子供を見る目つきをされ、腕組みされてしまった。


「あの女性たちのケアは、領の方でしっかりやるから。金銭的な援助も含めて。だから、このお金をしっかり受け取りな。それに女性たちを助けるためにも、このお金は役立つはずだから。ふふふ」


 マリナ騎士団長はそう俺を諭して、最後に意味ありげに笑った。


 こうなると、もう拒否はできないので、ありがたく頂戴することにした。


 ちなみに金銭的なものは、押収してもそれを担当した兵士に配当されることはないのだそうだ。


 だから気にせずに、協力者である俺に対する報酬としてもらいなさいと再度言われた。


 そして押収した武具については、その時の判断で担当した兵士や隊全体に戦利品として配ることが認められているので、今回活躍したセイリュウ騎士たちには、武具を与えるから心配するなとも言われた。


 ただここで押収した武具は、いいものでも『上級』階級でセイリュウ騎士たちにとっては、それほど魅力は無いのではないかと思ったが、そうでもないらしい。

 彼らは大喜びなようだ。

 武具はいくつあってもいいし、頂戴できることは嬉しいらしい。


 『魔物化促進溶液』が混入していない普通に飲めるワイン三十樽については、領での式典の振舞酒に使うとのことだった。


 ここで拘束した構成員三十二人については、『コロシアム村』に連れて行き、第一王女で審問官のクリスティアさんによる尋問を受けさせるとのことだ。


 そういうことで、俺たちは、拘束した構成員を連れて『コロシアム村』に転移で戻ることにした。


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