695.勇者武具、シリーズ。

 「わぁ! ラブリー、私のこと覚えてる?」


 『魔盾 千手盾』の付喪神フミナさんが、突然音声応答を始めた『魔具 ラブオーナメント』に話しかけた。

 驚きつつも、とても懐かしそうだ。


 この『魔具 ラブオーナメント』は、『愛の勇者』が使っていたもので、『勇者武具シリーズ』と呼ばれる武具の中で、最強との呼び声が高かった武具とのことだ。


「……識別困難。識別困難。『魔盾 千手盾』の波動情報及び『守りの勇者』フミナ=センジュの波動情報あり。その他多くの波動情報あり……情報複雑……識別困難……」


『魔具 ラブオーナメント』は、無感情な機械的な音声で、そう答えた。


「そうか……。私は『魔盾 千手盾』が『守りの勇者』フミナ=センジュの残留思念を主人格として実体化した付喪神なの。新たな仲間として認識しておいて」


 フミナさん、現在の状況を説明してあげたようだ。


「マスター、フレンド申請を受け付けました。申請通り登録いたしますか?」


 俺に訊いてきた。

 俺が魔力を流したから、マスターになってしまったようだ。


「そうだね。登録しといて」


「命令を受諾。フレンドとして登録いたします。それから呼称はラブリーのままでよろしいですか?」


「いいよ、それで」


 ラブリーという愛称は、おそらく『愛の勇者』がつけたものだろう。

 可愛いからいいんじゃないだろうか。

 ただ受け答えは、本当に機械的なので……ラブリーという可愛い印象は0%だけどね。


「命令を受諾。私ラブリーは、音声応答型魔法AIです。必要とされた場合のみ、起動いたします。通常は、普通のペンダントの状態です。音声応答システムはスリープ状態でも、情報収集システムは稼働しています。今後はマスターに従います」


「わかった。今後ともよろしくね」


 俺がそう言うと、ラブリーはなぜか返事をせずに、一瞬柔らかく光った。

 了解ということなんだろうか……?

 別に返事をしてくれてもいいと思うんだけど……まぁいいけどさ。


 俺は改めて『波動鑑定』をしてみた。


 それによると……三つのコマンドがあるようだ。


 一つ目のコマンドは、『愛の誘惑』というようだ。

 これは、敵に対しての魅了攻撃を行うらしい。

 魅了された対象は、『愛の奴隷』となり指示を忠実に実行するようになるとのことだ。


 これって……魔物にも有効なんだろうか?

 魔物に対しても、魅了攻撃を使えるんだから……有効なはずだ。


 そうすると……『兎亜人』のミルキーが手に入れた『バニーガールアーマー』の魅了攻撃と同じようなものかもしれない。

 ミルキーは、一時的に魔物を戦力として使役していたからね。


 あれと同じことができるなら……かなり強力だ!


 二つ目のコマンドは『愛は与えるもの』だ。

 これは、任意の味方の全ステータスをアップさせる支援コマンドのようだ。


 ビャクライン公爵家長女のハナシルリちゃんが、『神獣の巫女』になることで取得した『強化術』と同じようなことができるコマンドということだろう。


 このコマンドは一割しかアップされないようだが、三回まで重ねがけできるらしい。

 ちなみに、ハナシルリちゃんの『強化術』は、スキルレベルが上がるとアップ率も上がるようだ。

 スキルレベル1の状態で、一割アップだったはずだ。


 この『愛は与えるもの』コマンドは、ハナシルリちゃんの『強化術』スキルを知った後なので、あまり凄いという印象を受けなかったが、冷静に考えるとすごいんだよね。

『基本ステータス』の『身体力(HP)』『スタミナ力』『気力』『魔力(MP)』と『サブステータス』の『攻撃力』『防御力』『魔法攻撃力』『魔法防御力』『知力』『器用』『速度』の全ての数値を、アップさせちゃうんだからね。


 三つ目は『無償の愛』というコマンドだ。

 一定威力までの物理攻撃と魔法攻撃を反射できるらしい。

 反射可能な攻撃の威力は、使用者のレベルと魔力量によるということのようだ。


 これはかなりすごい……。

 物理反射と魔法反射ということだからね。


『物理反射』については、『エンペラースライム』のリンが身に付けてくれたので『共有スキル』に入っている。

 だが、『魔法反射』については誰もスキルを身に付けていないので、『共有スキル』にはセットされていないのだ。


 反射系のスキルは、かなり取得が難しいので、それを補う魔法道具というのはかなりすごい。


 そして反射で対応可能な攻撃の威力が、このアイテムの使用者のレベルと魔力量によるというのは、重要なポイントだと思う。

『限界突破ステータス』の俺が使えば、魔王や上級悪魔の攻撃も反射できてしまうということだろうか……。

 もしそうだとしたら……ほんとにすごいんだけど……。


 なんかもう……何もしなくても勝てる気がしてきた……。

 まぁ実際は、そんなに甘くはないかもしれないけどね。

 でもちょっと嬉しい!

 周辺被害が出ないような場所だったら、反射してしまうのが楽でいいなぁ。

 俺の性格の基本性能は……楽ができると嬉しいようで……我ながらニヤニヤが止まらない。


 この『魔具 ラブオーナメント』は、音声応答システムを起動して、ペンダントトップを分離して活動させることができるようだ。


 そして、ターゲットを指定して、各種のコマンドを使わせることができるらしい。


 なんか色々と便利だ!

『勇者武具シリーズ』中、最強との呼び声が高かったというのも頷ける。


 俺は、この魔法の武具をめちゃめちゃ気に入ってしまった!



 そして思い出したが、首領のアジトで発見した『魔槍 フタマタ』も、『勇者武具シリーズ』である可能性が高い。


 その時一緒にいた『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんが、母親である元『癒しと勇者』のヒナさんから聞いていた情報をもとに、『突撃の勇者』の使っていた槍ではないかと指摘してくれていたのだ。

 フミナさんに確認しようと思っていたんだよね。


 俺は早速取り出して、フミナさんに見せた。


「これは……ソウジ君の槍……。これも間違いありません。『勇者武具シリーズ』です。『突撃の勇者』が使っていた槍です」


 フミナさんが驚きながら、そしてまたもや懐かしそうに教えてくれた。

 そしてやはり……少し悲しそうな顔をしている。


 気になるが……今尋ねるのはやめておこう。

 なんとなく……悲しい思い出っぽいからだ。



 奇しくも俺は、『勇者武具シリーズ』を三つも集めてしまったらしい。


 こうなると……コレクター魂が疼きだしてきた。

 当然ながら……九人の勇者の武具をコンプリートしたくなっちゃうよね。


 どうやったら見つけられるんだろう……?


「フミナさん、他の『勇者武具シリーズ』も、見つけることは可能でしょうか?」


 思わず尋ねてしまった。

 ただ冷静に考えてみると、フミナさんが知っているはずもないのだが……。


「すみません。わかりません。三千年も経ってますから……。ただ『癒しの勇者』と『斬撃の勇者』が使っていたものは、ヒナが持っているんじゃないでしょうか」


 フミナさんはそう言って、視線をカーミラさんに向けた。


「ええ、父と母が使っていた武具は、家にあります」


 カーミラさんがあっさり答えた。


 ということは……これで五つはあるということだ。

 残り四つ……どうにかして、出会うことを祈りたい!

 手に入りにくいとなると、尚更コレクター魂が疼いてしまうのだ。

 コンプリートしたいなぁ……。


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