693.不死の、病。

 『マシマグナ第四帝国』は、当時『千年の呪い』で滅びるのではないかとの恐怖に駆られていた。

 実際に、魔王と悪魔の連合によって、滅亡の危機にさらされていたようだ。


 そんな中、古代文明『マシマグナ第帝国』の遺跡を発見し、勇者召喚ができる魔法道具を発見したのだから、神の助けとも思えるような出来事だったに違いない。


 帝国は、その魔法道具を使い『勇者召喚』に踏み切り、『九人の勇者』を無事に召喚できたらしい。


『勇者団』を結成し、『マシマグナ第四帝国』が全面的に支援し、魔王と悪魔の連合と対決して、辛くも勝利したとのことだ。


 その最終決戦で、『癒しの勇者』だったヒナさんは、魔王による呪いをかけられてしまっていたらしい。

 それは『不死の病ふしのやまい』という呪いらしく、呪いがかけられた状態で命を落とすと、アンデッドに変性し死ぬことができなくなるというものだったそうだ。


 呪いがかけられている事は分かっていたヒナさんだが、思いを寄せていた『斬撃の勇者』ケントさんを庇い、命を落としてしまったのだそうだ。


 そして、呪いが発動し、吸血鬼になってしまったらしい。


 なぜ吸血鬼になったのかは、わからないようだ。

 呪い自体は、不死の存在アンデッドになるというものであって、吸血鬼になるというものではなかったらしい。


 本人のイメージが影響している可能性もあったと、当時のヒナさんとフミナさんは考えていたようだ。


 ヒナさんは当時、ヴァンパイアと人間の恋愛ものが好きだったから、ヴァンパイアになってしまったのかもしれないと自虐的に言っていたそうだ。


 そして、冗談めかしにゾンビものが好きじゃなくて良かったとも言っていたらしい。



 その当時の世界には、吸血鬼は存在していなかったようで、新しい種族として変性したようだ。


 だが当時の過去の伝承には、吸血鬼と思われる存在の伝承もあったらしい。


 娘のカーミラさんが、母親のヒナさんから聞いていた話によれば、当時ヒナさんは、古い時代には吸血鬼が存在していたが、一度滅びたのだろうと考えたようだ。


 そして、吸血鬼となってしまった自分の今後を考える上でも、その情報が欲しいと思い、古い時代の吸血鬼に関わる情報を求めて、様々なところを旅したらしい。


 そんな事情もあって、魔王討伐後のヒナさんは、『斬撃の勇者』のケントさんとともに、『マシマグナ第四帝国』を去ったようだ。


 吸血鬼になってしまったヒナさんは、この世界に残ることを選び、彼女を愛していたケントさんも共に残ることを選んだらしい。


 二人は結ばれ、結婚したようだ。

 ただこの時点では、吸血鬼となったばかりのヒナさんは、子供を設けることができず、縁があった子供三人を養子として迎え、育てたようだ。


 ケントさんは、共に永遠を生きる為に吸血鬼になることを強く希望したらしいが、ヒナさんが認めなかったらしい。


 ちょうどその頃、吸血鬼となっても、清く生きたいと願っていたヒナさんのもとに、『生命神アウンライフ』様の啓示があったのだそうだ。


 五百年休眠することで、人の体に近い状態になり、子供を設けることができるようになると教えてくれたらしい。


 そして、旦那さんのケントさんの転生も助けてくれると約束してくれたようだ。

 その通りに、五百年毎に転生できているのだそうだ。


 吸血鬼同士では、五百年休眠したとしても子をなすことが難しいらしく、そのこともあってケントさんは、人として転生を繰り返しているようだ。


 ヒナさんもケントさんも、『生命神アウンライフの加護』を得ているらしい。


『生命神アウンライフ』様から受けた啓示の中で、ヒナさんやケントさんを始め吸血鬼一族の力が必要になる時が来るので、その時には世界のために尽くすようにと言われたとのことだ。



 それから、はじめはヒナさんは、吸血鬼が増えることを望んでいなかったようだ。

 それなのに吸血鬼を増やしたのには、理由があったらしい。


 当時、人の魔物化が頻繁に起きていて、魔物化するくらいなら吸血鬼になりたいと懇願されたことがきっかけだったそうだ。

 その当時の魔物化は、体にアザのようなものが出て、魔物化しかけていることがある程度わかったらしい。

 そして精神波動が低くなくても、魔物化は起きていたようだ。


 話を聞く限り……今『正義の爪痕』が無理やりに起こした人の魔物化とは、異なる性質のものだったようだ。


 魔物化しかけている人たちから、助けを求められて吸血鬼にしていったらしい。


 吸血鬼として変性してしまえば、もう魔物化することはないのだそうだ。


 ヒナさんたちが、古い時代の吸血鬼の情報を求めて旅をしながら、人を助けるために吸血鬼化するという活動をしている間に、帝国に残っていたフミナさんは陰謀により命を落としたようだ。

 そして、帝国は機械の殲滅兵の暴走により、滅亡してしまったらしい。


 その情報を知って、ヒナさんたちはすぐに帝国に戻ってきたようなのだが、その時にはもう全てが終わった後だったようだ。


 移動型ダンジョンも機械の殲滅兵もいなかったらしい。


 活動限界を迎えたことと、帝国周辺の人族の抹殺が終わったという評価で撤退したのではないかと考えられるそうだ。


 ヒナさんたちは、かろうじて息があった人たちを蘇生し保護したらしい。


 その中に、フミナさんの消息を知る科学者がいて、彼女が策略で殺されたということを聞かされたようだ。


 ヒナさんたちはその後、『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮の一つを発見し、そこに住みついたのだそうだ。


 カーミラさんが言っていた家というのは、その迷宮のことのようだ。


 なんと、本格稼働迷宮の第一号迷宮で、『希望迷宮』というらしい。


 ピグシード辺境伯領の北西にある不可侵領域の中にあるとのことだ。

『ゴーレムの谷』と呼ばれる野生のゴーレムの生息地のすぐ近くらしい。


 そういえば……この世界に来た最初の頃に、『兎亜人』もミルキーたちの家があった不可侵領域……温泉旅館がある場所と同じエリアだが……そこを西にずっと行くと『ゴーレムの谷』という場所があると聞いたことがある。


 ヘルシング伯爵領にも近い位置にある。


 実は、真祖と『真祖の血統』は、意外に近いところにいたらしい。

 もっとも、今まで眠っていたようだけどね。



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