688.首領の、部屋。
首領のアジトの宝物庫にあった宝物は、全て『波動収納』に回収してしまった。
俺は『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』のカーミラさんとともに宝物庫を後にし、近くにあるという首領の部屋を目指している。
捕らえた幹部構成員に、案内させているのだ。
大きな部屋の前にきた。
ここの扉は、幹部構成員が開けられるようだ。
中に入ると、最初に目に入ったのは巨大な溶液槽である。
幹部構成員の話によると、首領はほとんどの時間この中にいたようだ。
この中で細胞の劣化を止めて、命を維持していたのだろう。
『波動鑑定』してみると……
『生命維持特殊溶液循環維持システム 第四世代型改良試作機』となっている。
どうも特殊な魔法薬のようなもので、満たされているらしい。
そしてその効果が維持される仕組みの装置のようだ。
怪我の治療や組織の再生、活性化ができるらしい。
生命活動を可能な限り緩やかにして、寿命を伸ばすという使い方もできるようだ。
コールドスリープモードにして、長期間休眠することもできるらしい。
次に目についたのが、コの字型の大きな机だ。
資料がいくつか置かれている。
引き出しの中には、首領が書いたと思われるメモのようなものが数多く残されていた。
ほかにもテーブルのようなものがあり、その上には宝箱が八つ乗っていた。
これはよくある普通サイズの宝箱だ。
中身を確認すると、金貨の入った箱が二つ、銀貨の入った箱が二つ、銅貨の入った箱が二つ、銭貨の入った箱が二つとなっていた。
中に入っていたのは、ほとんど『コウリュウド王国』の硬貨だった。
おそらく普段遣いの活動資金なのだろう。
案内させた幹部構成員の話によると、首領はほとんどの時間を溶液槽の中で過ごしていたので、活動資金などが必要な場合は、ここから持ち出すことになっていたらしい。
各宝箱には、おそらく三千枚ぐらい入っているのではないだろうか。
ここにあるだけでも、かなりの金額だ。
金貨が六千枚あるとすれば六千万ゴルだし、銀貨六千枚なら六百万ゴル、銅貨六千枚なら六十万ゴル、銭貨六千枚なら六万ゴルだ。
合計すれば、六千六百六十六万ゴルになる。
実際に枚数を数えたわけじゃないから、もう少し多いかもしれないし、もう少し少ないかもしれないが、このぐらいはあるということだ。
六千万は自由な活動資金にしようと思う。
奴隷になっている人たちを解放する資金に当てても、いいかもしれない。
六百六十六万は、炊き出しや孤児院や教会への寄付の資金にするつもりだ。
銅貨や銭貨は、五百枚くらいづつ敏腕デカのゼニータさんに渡して、投げ銭として悪を捕らえる武器にしてもらってもいいかもしれない。
部屋の確認が終わったところで、机にあった資料に目を通すことにした。
『マシマグナ第四帝国』時代の資料と、首領が書いたと思われるメモのようなものが混じっていた。
とりあえず、首領が書いたと思われるメモに一通り目を通した。
日記というには乱雑だが、ほとんど日記のようなものだった。
これを読むだけで、かなりのことがわかった。
俺なりにまとめて整理をしてみた。
このアジトは、もともと『マシマグナ第四帝国』の遺跡だったようだ。
『マシマグナ第四帝国』時代には、ラボと呼ばれた研究施設の一つだったらしい。
当時から魔物の領域だったらしいが、魔素が濃いこの場所をあえて選んで作ったようだ。
天然の洞窟をベースに建設されたようだ。
洞窟的な質感の壁と人工的な質感の壁が入り混じっているのが、それを裏付けている。
帝国の滅亡とともに無人となっていたわけだが、後の時代に遺跡荒らしにあって、ほとんど何もない状態になっていたらしい。
ただ一部の区画は、発見されずに手つかずで残っていたようだ。
隠し部屋、隠し施設、隠し倉庫の構造になっているスペースがあったようだ。
首領の部屋もその一つで、首領はここで約三千年眠っていたらしい。
この溶液槽は、コールドスリープモードに切り替えることができるらしいので、そのモードでずっと休眠していたのだろう。
ただその機能が不完全で、完璧なコールドスリープではなかったらしく、ほとんど命は無いに等しい状態だったらしい。
これを何者かが強制的に蘇生させたようだとメモに書いてある。
死ぬ間際にも、正気を取り戻した首領……ニト君が言っていた。
そしてそれが悪魔の仕業だとも言っていた。
強制的に目覚めさせられたのは、二年位前のことのようだ。
そして『人族への復讐のためにすること』というメモを見て、それに沿って、悪の組織を作ったり、人を魔物化させる研究を行ったり、魔法機械神という名の殲滅兵器を再起動させる準備をしたようだ。
そのメモは、『マシマグナ第四帝国』のマッドサイエンティストが残したような体裁をとっているが、悪魔が誘導するために残したものだろう。
首領が残したメモを一通り見ても、悪魔と直接接触した記録は無いので、裏で巧みに誘導していたに違いない。
不完全なコールドスリープで瀕死の状態でギリギリ繋いでいた命を、なにかの術で蘇生させ、人々を殺戮する悪の首領に仕立て上げたのだろう。
それによって命を落とした多くの人たちの怨念を集めて、何かを計画していたに違いない。
首領は、目覚めたものの記憶のほとんどを失い、人間に対する憎悪だけを増幅させていたようだ。
この点も、悪魔による誘導があったのかもしれない。
悪魔が仕込んだメモの通り、計画して実行していたのだろう。
もしかしたら、自分が作った計画と思い込んでいたのかもしれない。
そして、構成員はあくまで利用する道具でしかなかったようだ。
魔法機械神を復活させて、既得権益そのものである現体制を破壊し、人々の新しいユートピアを作るという『正義の爪痕』の活動目的は、完全に嘘だったようだ。
構成員を集めて、従わせるための嘘だったのだ。
構成員たちは、偽りの理想に賛同していたらしい。
もっとも、俺が今まで見てきた構成員たちは、そんな理想よりも純粋に破壊活動を楽しんでいるような悪に染まった者が多かった。
この嘘の理想に賛同して集まったのは、末端の構成員かもしれない。
幹部となっていた者たちは、理想のために戦っているようには見えなかったからね。
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