685.囚われの、真祖の血統。
ベッドに寝かされている状態の十五歳くらいの少女は、黒髪黒目で日本人っぽい顔つきだ。
そして首には『隷属の首輪』が、二つもはめられている。
無理やりに寝かされている感じだ。
必要な時以外は、檻の中で動きを禁じられているのだろう。
『隷属の首輪』を二つもはめているのは、上級吸血鬼だからだろうか?
そもそも二つ使えば、効果が強まるのだろうか……?
この高圧電流のようなものが流れている檻は、いつも力技でこじ開けていたが、今回もそうすることにした。
いつものように一瞬の感電を覚悟して扉をこじ開けた。
かなり痛かったが、しょうがない。
そして、少女に近づく。
体は寝たままだが、意識はあるようで俺の方を見つめている。
『隷属の首輪』で、動かないように命じられているのだろう。
念の為、『波動鑑定』させてもらうことにした。
すると……驚きの結果が……
『種族』が、『真祖吸血鬼 ヴァンパイアオリジン』となっていた。
なんと彼女は、真祖のようだ。
もしくは、『真祖の血統』と言われている者だろう。
真祖であり始祖であるドラキューレの直系の子孫ということだろう。
『名称』が『カーミラ=ヒナタ』となっているので、始祖ドラキューレではなく、その子孫の『真祖の血統』のようだ。
彼女からは邪悪な感じがしないので、すぐに『隷属の首輪』を外してあげた。
「大丈夫ですか。もう心配いりませんよ」
「あ、あなたは……?」
彼女は、声を絞り出すように尋ねてきた。
体も自由が効くようになって、ゆっくり起き上がっている。
「私はグリムといいます。あなたを捕らえていた『正義の爪痕』という悪い組織は壊滅しました。首領も死んでいます。もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます……」
そう答えた彼女だが、元気がない。
かなり衰弱しているようだ。
もしかして……
「あの……あなたが吸血鬼だということは知っています。すみません、勝手に鑑定をさせてもらいました。大丈夫です。善良な吸血鬼がいることも知っていますから。もしかして血に飢えているんじゃありませんか?」
俺は安心してもらえるように、できるだけ笑顔で話しかけた。
「え……どうして……。私が怖くないの?」
彼女はかなり戸惑っている様子だ。
「はい。吸血鬼のみなさんとは、少々縁がありまして。それに事情があって、『真相の血統』の方を探していたんです」
俺が保護した吸血鬼一歩手前状態の人たちを元の状態に戻すために、『真相の血統』の吸血鬼を探し出そうと思っていたのは本当だからね。
その方法を知っている可能性があるからだ。
「そ、そうなんですか……」
やはり彼女は元気がない。
目も虚なままだ。
「とりあえずこの回復薬を飲んでください。やはり……血を摂取した方がいいんじゃないですか?」
「あ、ありがとうございます。確かに、ずっと血を摂取していないので、体に力が入らないんです。でも血を飲むことを絶っているので、必要ありません。できれば……食べ物……お肉はありませんか?」
カーミラさんは、少し言いづらそうだった。
やはり、血の枯渇状態のようだ。
でもあえて、絶っているらしい。
そして、お腹が空いているようだ。
「わかりました。すぐに用意してくるので、このまま待っていてください」
俺はそう言って、すぐに部屋を出た。
そして、部屋の外で待機させていた幹部構成員に食堂に案内させ、肉を焼いた。
俺は彼女の待つ部屋に戻り、たっぷりの焼肉を食べさせてあげた。
静かでお淑やかな雰囲気の彼女だったが、相当空腹だったのか、ガッつくようにして一瞬で食べきってしまった。
「ありがとうございます。だいぶ元気になってきました。あの……どうして私を信じるんですか? 吸血鬼の能力を知っていますよね……」
「あなたからは、悪意を感じませんから。それに真祖であり始祖であるドラキューレさんは、吸血鬼たちが人を襲うことをよしとせずにいたと聞いています。そして自らの手で『ヴァンパイアハンター』を誕生させたことも知っています。実は『ヴァンパイアハンター』の友人がいるのです。あなたは、『真祖の血統』ですから決して邪悪な吸血鬼ではないと思いました」
「そ、そうなんですか……。では私もあなたを信じます。助けていただき、ありがとうございます」
彼女は起き上がると、俺に頭を下げた。
物静かで礼儀正しい子だ。
肩まで伸びた黒髪の先端が、赤く変色している。
元々こういう髪色なのだろうか……。
青いワンピースを着ている。
それにしても、彼女はレベルが50もあるのに、なぜ捕まったのだろう……?
「どうして、『正義の爪痕』に捕まっていたんですか?」
「実は……この近くを通った時に、巨大なゴーレムのようなものを見て、母から聞いた古代文明の兵器ではないかと思い、確認しに来たんです。様子を探っている時に、突然亜空間のようなところに閉じ込められてしまったんです。しばらく経って外に出されたのですが……突然現れた首領に首輪をはめられて、命令に従わざるを得なかったのです」
彼女は、力なく答えた。
彼女の話から推察するに、たまたま近くにいたときに、おそらく『べつじん28号』か『メカヒュドラ』のテスト飛行のようなものを目撃し、調査に来たところを捕まってしまったのだろう。
たぶん『プリズンキューブ』に吸い寄せられ、亜空間に閉じ込められたに違いない。
そしてかなりの時間閉じ込められて、衰弱したところを外に出されたのだろう。
待ち構えていた首領が『隠密のローブ』を使って、姿も気配も消して近づき、『隷属の首輪』をはめたのだと思う。
このやり方なら、吸血鬼の『真祖の血統』でも捕らえられただろう。
しかも確実に従わせるために、『隷属の首輪』を二つもはめたようだ。
これは俺の想像だが……吸血鬼の『真祖の血統』というポテンシャルを考え、戦力に組み込むことは諦めたのかもしれない。
戦いの最中に『隷属の首輪』が壊れるとか、何かあれば、自由になって逆襲されちゃうからね。
そのリスクを避け、上級吸血鬼以上の能力を活用し、吸血生物を無理矢理生産させていたのだろう。
彼女は、『真祖の血統』だけあって、下級、中級、上級全ての吸血鬼の『種族固有スキル』が使えるようだ。
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