656.ヒュドラ肉の、凄い効能。
美味しさの渦の中で……大事なことを忘れていた。
ヒュドラの肉を食べたことによって、どうなったのかだ!
ちょっと気になったので、みんなに自分のステータスを確認してもらった。
「おお! すごいぞ! 『毒耐性』が身に付いている!」
最初に声を上げたのは、ビャクライン公爵だ。
ヒュドラの肉の効能を訴えて、食べたいと言い出した張本人なので、めっちゃドヤ顔だ。
我が意を得たりといったところだろう。
「おお! 私はなんと、『自然回復力強化』スキルがあるぞ!」
今度は、国王陛下がドヤ顔だ。
この人も言い出しっぺの一人だからね。
「ミネは『毒吸収』スキルが身についているのです! これで毒のある食べ物とも、同じ土俵で戦えるのです! 毒には負けないで食べ尽くすのです!」
なんと、フードファイターこと『ドワーフ』のミネちゃんには、『毒吸収』スキルが身についたらしい。
なぜに?
耐性系のスキルを通り越して、吸収系のスキルがいきなり身に付いちゃってるわけ……?
普通は、耐性系のスキルを身に付けた後に、無効系や吸収系さらには反射系というふうに、身に付くのが一般的らしいんだけど……ミネちゃんには、そんな常識は通用しないらしい。
そしてフードファイターは、毒までも吸収してしまうようだ。
それから……いくらこのスキルが身についたからって、毒のある食べ物と同じ土俵で勝負したらダメだから!
毒入りの食べ物を食べ尽くすのもダメですから!
『毒吸収』スキルは……毒のあるものから毒を取り出したり、毒に犯された人の毒を吸い取ってあげたりすることができるらしい。
そして自分が毒攻撃にさらされた時も、吸収して無効化できるらしい。
毒の無効化と、毒の治療ができるから……『毒無効』スキルの上位互換といえるだろう。
今のところ発現しているのは、『毒耐性』『毒吸収』『自然回復力強化』の三つだけだ。
ちなみに『自然回復力強化』スキルは、俺の『絆』メンバーには『共有スキル』としてセットされている。
『毒耐性』と『毒吸収』は、まだ取得していないスキルだったのでラッキーである。
ただ『毒耐性』は、『状態異常耐性』というスキルがあるから、あまり意味はないんだけどね。
『毒吸収』が発現したのは、『ドワーフ』のミネちゃんとニアとビャクライン家のハナシルリちゃんの三人だけだ。
『自然回復力強化』が発現したのは、国王陛下、アンナ辺境伯、セイリュウ騎士団のマリナ騎士団長、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんである。
残りのメンバーが、全員『毒耐性』を取得していた。
驚くべきは……スキルが発現しなかった人が、今のところ一人もいないということだ。
これは、たまたまかもしれないが……かなりの確率でスキルを手に入れることができると言っていいのではないだろうか。
取得するスキルは、圧倒的に『毒耐性』が多いようだが、もしかしたら、このヒュドラ肉を何回も食べ続ければ、『毒吸収』や『自然回復力強化』も身に付くかもしれない。
ヒュドラの肉を食べ続ければ、少なくともこの三つのスキルは、身につく可能性があると言えるのではないだろうか。
そしてもう一つ……一度に二つ以上のスキルを取得している人は、今のところいない。
と思ったのだが……よくよく自分のステータスを見てみると……なぜか『毒耐性』と『毒吸収』の二つが発現していた。
どうして俺だけ……?
これを正直に言うと、また変人扱いされかねないので……『毒耐性』だけ取得したと誤魔化すことにした。
それから『基本ステータス』の中の『身体力(HP)』『魔力(MP)』と『サブステータス』の中の『防御力』『魔法防御力』が、一割くらいアップしているのだ。
これは皆同じで、この四つの数値が一割アップしている。
この結果を見る限り、そういう効果があると、確実に言えるだろう。
もちろん、一時的な効果だとは思うけどね。
今の簡単な聞き取り調査を受けて、王立研究所の上級研究員でもあるドロシーちゃんは……
「論文として、発表するべきです! 検証のしようがなくて、謎のままだったテーマが一つ解明できます! グリムさんの研究を一旦差し置いて、このヒュドラ肉の効能について、早い段階でまとめたいと思います!」
と宣言していた。
それはいいんだけど……みんなの前で、“グリムさんの研究を一旦差し置いて”とか言うのはやめてほしい。
その言葉が出たときに、ビャクライン公爵とシスコン三兄弟、それに加えて国王陛下までが俺に軽い殺気を飛ばしたんだよね……。
軽い殺気になってる分、以前よりはマシなんだけど……。
そしてなんか……お約束ネタになっちゃってるような気がしないでもないんですけど……。
それにしても、なんで国王陛下まで加わっちゃってるわけ?
殺気メンバーが増えちゃって……しかも国王陛下だなんて……トホホ。
簡単な検証が済んだところで、食事を続けながらではあるが、国王陛下から俺に提案があった。
ヒュドラの肉を、販売してほしいというのである。
まずは王都の貴族に、国が斡旋して肉を販売するというのだ。
スキルが身に付く可能性が高いという肉だから、皆こぞって買うはずとのことだ。
しかもその内容が『毒耐性』となれば、普通の人よりも毒をもられる危険がある貴族はみんな欲しがるらしい。
貴族だけでなく、兵士や文官たちも、みんな高くても買いたがるだろうとのことだ。
そういうことならば、俺は無償で提供するという話をしたのだが……
国王陛下と王妃殿下からは、少し呆れた顔をされ……ユーフェミア公爵と『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんからは、いつものように……ダメな子供を見る目つきをされてしまった……はて?
「シンオベロン卿、君はほんとに欲がないのだね。よく商会の会頭をやっているものだ、ハハハハハハ」
「ほんとですわ……。クリスティアから聞いてはいましたけど……ほんとなんですのね。ちょっと呆れてしまいますわね。あなたの利益は……私たちが考えて、しっかり受け取らせないとダメみたいね……」
国王陛下と王妃殿下が、笑ながら俺に言った。
王妃殿下は言葉の終わりに、クリスティアさんと視線を合わせて、頷いていた。
よくわからないが……母娘の結束が硬くなっている感じだ。
「まったく、あんたは相変わらずだね。いつも言ってるだろう。いいんだよ、ちゃんと儲けて。貰うべきものは貰う。いつものように、それをあんたのやり方で人々に還元すればいいんだから。紛れもなくあの『亜竜 ヒュドラ』を退治したのは、あんたたちなんだから、ちゃんとお金を取りな」
ユーフェミア公爵が、完全にお母さんみたいな感じになっている……。
「しかしほんとに……聞きしに勝るとはこのことだね。商人だったら、こんな格好の儲け話、逃すはずはないんだけどねぇ……。王妃殿下の言う通り、この子の利益や報償については、こっちでちゃんと考えてやらないとダメみたいだね。まったく世話が焼けるったらありゃしない。人のことは助けるのに、自分のことはからっきしだね。まぁ私が若かったら、そんなところも魅力に感じてしまったかもしれないけどね、アハハハハ」
今度は、マリナ騎士団長からダメ出しだ……。
皆さん身内的な感覚で注意してくれるのはいいんだけど……微妙にいたたまれない感じだ。
俺ってそんなにダメな子かしら……?
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