632.魔物の、濁流。

 俺は不時着しているヤドカリこと……『マシマグナ第四帝国』の遺物であり、殲滅兵器の中核である移動型ダンジョンの入り口を目指している。


 共に侵入するのは、『魔盾 千手盾』の顕現精霊である『付喪神 スピリット・シールド』のフミナさんだ。

 彼女は、古の英雄譚『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる『守りの勇者』の残留思念体でもある。

 正確には、千手盾に残っていた『守りの勇者』の残留思念が、主人格となって付喪神化したのが、今のフミナさんなのだ。


 まだ詳しい事情は聞けていないが、約三千年前に滅んだとされている『マシマグナ第四帝国』の末期に、『九人の勇者』の一人として命がけで国を救ったようだ。

 それにもかかわらず、謀略により命を落としたらしい。


 その時に、弟のように可愛がっていたニトくんが、恨みの念を増長させ『正義の爪痕』の首領になっていた。

 彼は、人造人間『ホムンクルス』であるが、フミナさんを本当の姉のように慕っていたようだった。


 フミナさんがニトくん同様に、妹のように可愛がっていたというニコちゃんが、あの移動型ダンジョンの生体コアになっている可能性が高いらしい。

 フミナさんは、死にゆくニトくんから、ニコちゃんを救ってほしいと頼まれていた。

 彼女本人にも、なんとしても救いたいという強い決意が見てとれる。


 このヤドカリのような形状の移動型ダンジョンに、どうやって侵入するかが問題である。

 確実にわかっている入り口は、貝殻状になっているダンジョン本体と思われる部分のてっぺんだ。

 そこから機械の殲滅兵が、放出されていた。


 そしてもう一つは、その反対側となる地上近くのヤドカリ部分の口だ。

 ダンジョン本体と思われる渦巻き貝殻形状の巨大パーツの下の部分に、台座のような形でヤドカリに似たメカが付いているのだ。


 ヤドカリの顔、胴体、足がついていて、大きなハサミ形状の腕も二本前に向かってついている。ヤドカリの顔だけは、ドラゴンのような造形になっているが。

 このメカヤドカリとも言うべきものが、四方についているのだ。

 つまり四体のメカヤドカリが作る台座のようなものに、貝殻形状のダンジョン本体が乗っている構造なのだ。


 そして、その四つのメカヤドカリが口を開けて、魔物を放出している。


 このメカヤドカリ部分は、別パーツとも思えるが、出てきている魔物の数が多いので、おそらく貝殻形状のダンジョン本体と繋がっている可能性が高い。


 そうだとすれば、このヤドカリの口から侵入するという手もあるのだ。


 俺は、魔物の数を減らすためにも、このメカヤドカリの口から侵入を試みることにした。


 未だに大量の魔物が暴走状態で出てきているが、一つの口から侵入することにした。

 その過程で、その口から出てくる魔物は全て倒してしまおうと思っている。


 溢れ出てくる魔物は、種類も様々だ。


 バファロー魔物、猪魔物、大ウサギ魔物、大ネズミ魔物、カラス魔物、タカ魔物、トンボ魔物、蛾魔物、ハチ魔物、バッタ魔物、ゴキブリ魔物、ムカデ魔物、カエル魔物などが多い。


 ざっと見たところ、レベルはばらけていて20〜45くらいのようだ。

 だが暴走状態だから、普通の状態よりも強いのかもしれない。


 早く移動型ダンジョンの機能を停止させたいので、最短距離で走っているが、斬れる範囲の魔物は全て両断しながら走っている。


 右手に『魔剣 ネイリング』、左手に『魔力刀 月華げっか』を握り、平泳ぎの手の動きのような斬り付けを繰り返している。

 魔物の濁流に逆らって泳ぐように、掻き分けながら進んでいるのだ。


 魔剣と魔力刀から放つ斬撃は、衝撃波を発生させ、周囲の魔物をまとめて薙ぎ倒している。

 我ながら無双状態である。


 フミナさんは、顕現状態から一旦『魔盾 千手盾』の中に戻り、盾として俺に背負われている。


 フミナさんは付喪神化したばかりで、レベルが1なので、いくら元勇者の残留思念体とは言えまともに戦うのはきついと考えたのだ。


 ただ盾の状態に戻っても、彼女は話ができるし、周囲の状況も把握できるようだ。

 俺の背中から、魔物に攻撃を加えている。

 俺の斬撃の衝撃波で薙ぎ倒された魔物で、生きているものにトドメの一撃を食らわしているのだ。


 彼女の『固有スキル』の『サウザンドアームズパンチ』で、攻撃している。

 人間型に顕現していなくても、スキルは使えるようだ。

 このスキルは、盾から千本の腕を打ち出して、防御したり、攻撃したりできるもので、彼女はとりあえず百本程度の腕を打ち出し、トドメを刺している。

 朱色の腕が、百本乱れ飛んでいる状態だ。


 普通で考えれば、レベル1の攻撃だから威力は無いはずなのだが、十分効いている。


 もともと盾として使っていた時は、俺が命じて敵を殴ったり防いだりしていだが、かなり強力だった。

 そもそもの……『魔盾 千手盾』として備わっていた基本性能で、戦えているのかもしれない。


 よくわからないが……顕現体として独自に剣を振るう場合は、レベル1の威力なのかもしれない。

 また魔法の武器の威力は、使う人間の魔力やレベルにも影響されるようなので、俺が背負って魔力を流しているのがいいのかもしれない。



 俺とフミナさんの連携によって、ターゲットにしたメカヤドカリ頭から出てくる魔物はかなり駆逐している。

 だが、いまだに魔物の放出が続いている……。


 おそらくダンジョン内の魔物を、全て放出するつもりなのだろう。


 一体どれだけの数の魔物がいるのか……


 このヤドカリのような形状の移動型ダンジョンは、普通に存在しているダンジョンと比べれば、小さいのだと思うが、それでも魔物は相当いるようだ。


 ヤドカリの貝殻に相当するダンジョン本体部分と思われるところだけ見ても、おそらく三十から五十階層くらいはあるのではないだろうか。

 正確にはわからないが……感覚的には貝殻形状の真ん中より少し上のあたりで、一般的なドーム球場と同じ位の大きさだと思う。

 上に行くほど小さくなり、下に行くほど大きくなるという構造になっている。


 この大容量から繰り出される魔物の濁流のお陰で、微妙に時間がかかってしまったが、それももう終わりだ。


 他のメカヤドカリ頭から放出されている魔物は、残る仲間たちや神獣の巫女のクリスティアさんたちを信じて任せる。


 俺は、メカヤドカリの口に突入する——



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