576.一家で、ゴスロリ!?

 俺はハナシルリちゃんと一緒に、ビャクライン公爵とアナレオナ夫人を訪ねた。

 ニアも一緒だ。


『フェアリー商会』でカレー専門店をやることを説明し、ハナシルリちゃんのレシピを使わせてもらう許可を得るためだ。


『カレーライス』は、ハナシルリちゃんが考案した料理ということになっているので、無断で商品化するのはまずいと考えたのだ。

 ハナシルリちゃんは、「私に任せといて」と言っていたのだが、子供任せというわけにはいかないからね。


 ということで、お邪魔したのだが……


「ハナや……なんて可愛いんだ! この服はどうしたんだい?」

「まぁ、ほんとね。とっても素敵だわ。どうしたの?」


『ゴスロリドレス』のハナシルリちゃんを見て、ビャクライン公爵とアナレオナ夫人は驚きつつも、頬を緩ませた。


「これはねぇ、グリムさんの『フェアリー商会』で作ってくれたの。ニア様ともお揃い。これからも、いろいろ作ってくれるって。メイドたちの可愛い制服も、もう頼んであるの」


 ハナシルリちゃんが可愛さ全開で答えた。


「おお、そうだったのかい。こんな素敵な服を仕立てられるなんて……。シンオベロン卿の商会には優れた仕立師がいるようだね」


 ビャクライン公爵はそう言いつつ、頷きながら俺を見た。

 殺気の混じってない視線は、ほっとするが……。


「それにしても素晴らしいデザインね。もしかして……ハナが考えたの?」


 アナレオナ夫人は、少し期待するような感じで尋ねた。


「そうなの。お絵かきしてお話ししたら、こんなに素敵に作ってくれたの。すごいなの!」


 ハナシルリちゃんは、嬉しそうにスカートを摘まんだ。


「まぁそうなの! ハナのアイデアをこんな素敵に仕上げてくれるなんて……。『フェアリー商会』さんとは、これからもお付き合いしたいわね。ビャクライン公爵領には、いつ出店してくれるのかしら?」


 アナレオナ夫人は、俺に期待のこもった眼差しを向けた。


「大丈夫なの。すぐに作ってくれるって。カレー屋さんも作ってもらうことにしたの!」


 ハナシルリちゃんが、ここぞとばかりにカレー専門店の話のきっかけを作った。グッジョブ!


 この絶妙なタイミングを活かし、俺はハナシルリちゃんのレシピを使って『カレーライス』専門店を作る構想を説明した。

 ハナシルリちゃんも、自分がお店を作ってほしいと頼んだことを説明してくれた。


 その結果…………ビャクライン公爵とアナレオナ夫人は、快く了承してくれた。

 ハナシルリちゃんが開発した素晴らしい食べ物を、世の中に広めてほしいとのことだった。


 そしてビャクライン公爵からは、ビャクライン公爵領発祥の食べ物で、ビャクライン家の天才令嬢ハナシルリちゃんが開発したことを広めてほしいと言われた。

 だが、アナレオナ夫人からは、無理に広める必要はないと訂正された。


 それと、できればカレー専門店は、ビャクライン公爵領から広めてほしいと要望された。

 領都では、既に『カレーライス』の噂が広がりつつあるらしい。

 それ故に、領民に早く『カレーライス』の美味しさを味わせてあげたいとのことだった。

 それに伴って、『フェアリー商会』本体も出来る限り早く進出してほしいとも要望されてしまった。


 どうせカレー専門店をやるなら、ビャクライン公爵領からやってほしいという気持ちはよくわかる。

 本来なら、ビャクライン公爵領の特産品というか、名物の食べ物にしたいところだと思うんだよね。

 そのことを考えずに、全国に広めていいというのは太っ腹だと思う。

 まぁそれだけ『カレーライス』が素晴らしい食べ物で、独占するよりも共有しようと考えてくれたんだろうけどね。


 俺は要望に応えて、ビャクライン公爵領から始めていこうと思っている。

 かなり距離があるが、一度行ってしまえば、その後は『アメイジングシルキー』のサーヤの転移か転移の魔法道具で行けるからね。

 とりあえず領都に一店舗オープンし、その後はできる範囲で広げていけばいいだろう。

 ピグシード辺境伯領とヘルシング伯爵領は、『フェアリー商会』の支店があるから、すぐにでも始められる。

 セイバーン公爵領も『フェアリー商会』用の土地は確保されている状態だから、すぐに始めることができるだろう。

 まずはスーパー銭湯を可能な限り早く出店していくので、カレー専門店はインショップとしてその中に入れればいいかもしれない。



 俺は念の為、レシピの使用料を払わなくていいのか確認したが、やはり必要ないと言われた。

 もともと著作権やアイディア料などについては、あまり権利意識がない世界なので、初めからそこは重要なポイントではなかったらしい。


 ハナシルリちゃんとの事前の打ち合わせでも、レシピの使用料は払う必要がないと言われていた。


 その代わりに、ハナシルリちゃんに特別なプレゼントをするとか、定期的に洋服を仕立てるというような提案をした方が喜ばれるだろうとのアドバイスをもらっていた。

 ハナシルリちゃんとしても、今後も継続的に俺や『フェアリー商会』と関わる状況を作っておいた方が都合がいいとの事だった。


 ということなので、そんな提案を二人にしてみたところ……確かにハナシルリちゃんの言う通り、喜ばれてしまった。


 溺愛オヤジのビャクライン公爵は、俺と関わることを嫌がるかと思ったのだが……ハナシルリちゃんの可愛い新作衣装が定期的に見れるということで、大喜びとなった。

 これは、ハナシルリちゃんがうまくそういう話を匂わせてくれたことも大きい。


 そしてアナレオナ夫人には、夫人のドレスを速攻発注されてしまったのだ。

 しかも……ハナシルリちゃんとお揃いの『ゴスロリドレス』を頼まれてしまった。

 まぁお揃いといっても、全く同じではなくデザインは多少変わるだろうけどね。

 というか……初めから自分なりに変更する予定だったらしく、変更して欲しい点をその場でメモして渡されてしまった。

 ニアが、代わりに要望を聞いてくれていたからいいけどさ。

 てか……妖精女神様を崇拝してるような感じなのに……ドレスの発注は普通に頼めちゃうのね……まぁいいけど。


 そしてその様子を見ていた、ビャクライン公爵にも衣装を発注されてしまった。

 しかもビャクライン公爵とシスコン三兄弟の衣装で、ハナシルリちゃんやアナレオナ夫人と同じようなデザインにしてほしいという滅茶苦茶な内容だった。


 『ゴスロリ』ファッションの男性用を作れということになるが……俺は苦笑いしていたのだが……引き受けてしまった。

 というのは、その会話の最中にハナシルリちゃんから念話が入って、可能だと分かったからだ。

 ハナシルリちゃんが、デザインできるということだった。

 俺が知らなかっただけで、男性用の『ゴスロリ』ファッションはあるらしい。

 そして、渋くて普通にかっこいいらしい。

 ゲームなんかで出てくる『ヴァンパイア』や『ヴァンパイアハンター』などが着ているダークな感じの衣装が、それに当たるらしい。

 そう言われて……何となくイメージができたが……確かにダークヒーローのようでかっこいいかもしれない。

 溺愛オヤジ……ただ溺愛する娘と同じような服を着たいという残念な要求だったはずが……結果オーライだったようだ。……侮れない溺愛オヤジ!


 ハナシルリちゃんからは、かっこいいから俺も着たほうがいいと勧められてしまった。

 そして俺用のデザインまでする気なようだ。

 俺としては、かっこいいならいいけど……。

 ただ……溺愛オヤジとシスコン三兄弟と同じグループと思われるのだけは絶対嫌なので、デザインを大きく変えてほしいと思っている……そこだけは、後で強く主張しておきたい!



 

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