574.品定めされている、感じ……。

 やっと最後に、俺の番がやって来た。

 よく言えば、大トリというやつだが……。

 挨拶するのに、これだけ待つなんて……。


 なんか……あえて最後にされたような気がしてならない。


「はじめまして、ピグシード辺境伯家家臣グリム=シンオベロンと申します」


 俺は貴族の礼を取り、簡潔に挨拶をした。


「シンオベロン卿、噂はよく聞いているよ。会えて嬉しいよ……」


 マリナさんはそう言いながら、品定めするような目つきで俺を上から下まで舐めるように見ている。

 なにこの感じ……微妙すぎるんですけど……。


「なるほどねぇ……妖精女神の相棒、凄腕テイマー、避難民の受け入れ体制を即座に構築した手腕、魔物討伐、ユリアの救援、『死人魔物』討伐、巨大魔物討伐によるユフィたちの救援、『正義の爪痕』により拐われた者たちの救出、『死霊使い』及びアンデッド軍団の討滅、『正義の爪痕』のアジトの壊滅及び幹部の捕縛、『ナンネの街』の奪還及びミリアたちの救出、傷ついた市町の体制の整備、商会立ち上げによる雇用の創出及び事業手腕、孤児たちの救済、妖精女神の使徒を指揮しヘルシング伯爵領全域を救った洞察力と指揮能力、それでいて出世・金銭を望まない無欲……。あんたは本当に面白いね。それでいて、こんなに色男じゃねぇ……。好きになるなって方が無理かもしれないね……」


 マリナさんが、俺を凝視しながら独り言のようにブツブツ言っている。


 なんか俺が凄いことをやったように言ってるけど、みんなでやったことだけどねぇ……。

 どっちかって言うと、俺の仲間の方が凄いと思うんだけど。

 チートな俺の能力を使う必要もなく、仲間たちが能力を発揮してくれているからね。


 そんなことを思いつつ、黙って聞いていたが……。


「あんたは、一体どうしたいんだよ。何を目指してるんだい?」


 マリナさんが、駄目な子供を見るような目で尋ねてきた。

 ユーフェミア公爵以外にも、俺にそんな目を向ける人がいるなんて……トホホ。

 なんか……学校の進路指導の先生と話しているみたいな感じなんですけど……。

 何を目指していると言われてもねぇ……


「はい。私は……できれば、この世界をのんびり旅して、見て回りたいです」


 ここは正直に、俺がいつも思っていることを伝えたのだが……


「ハハ、ハハハ、なるほどね……。面白いね。爵位を上げて出世するでもなく、商会で大金持ちになるでもなく、国を取るでもなく、のんびり旅がしたいとはねぇ。ユフィの話じゃ、『コウリュウド王国』を征服できるほどの戦力を持ってるそうじゃないか……。それなのに、のんびり旅をしたいってかい? ふふ、案外そういうものかもしれないね、本当の強者っていうのは。ふふ、認めよう。我が家の者たちを頼むよ」


 マリナさんは、満足そうに頷きながら俺を見つめた。

 よくわからないが……なんか自己完結したみたいだ。


 それは良いのだが……“『コウリュウド王国』を征服できる”とか言うのはやめてほしい。

 その言葉が出た瞬間、セイリュウ騎士たちの視線が俺に突き刺さったんですけど……。


 そして“家の者たちを頼む”と言われても……どうすればいいの?

 俺は、苦笑いしながら頷くことしかできなかった。


「シンオベロン卿、あんたをグリムって呼ばせてもらうよ。いいよね? それから……認めたとはいえ、もう少し詳しく知った方が良さそうだ。今度デートしよう!」


 なぜかマリナさんは、突然そんなことを言って、悪戯っぽく笑った。

 初めて俺にも優しい感じの顔を向けてくれた……ふう。


「「「おばあさま!」」」


 セイバーン家三姉妹のシャリアさん、ユリアさん、ミリアさんが同時に抗議した。


「いいだろう!? ケチケチすんじゃないよ。こういうのは、年の順なんだから。まずは私からだよ」


 マリナさんは、三姉妹に悪戯な笑みを向けた。


 よくわからないが……なんかまだチェックされると言うことなのだろうか……。



 一応そんな感じで挨拶は終わった。


 その後、セイリュウ騎士の皆さんとも挨拶を交わした。


 そしてしばらくの間、お茶とお茶菓子を食べながら歓談した。




 ユーフェミア公爵の発案で、『セイリュウ騎士団』の皆さんも今夜の夕食に招待することになった。


 もちろん……今夜も『カレーライス』だ。

 三日連続『カレーライス』だが……まだ誰も飽きていないようだ……。


 だが俺は……さすがにもう耐えられそうにない……。

 飽きたという意味ではなく……あるメニューを食べることを、我慢することに耐えられないのだ。

 それは……カレーライスの最終奥義……『カツカレー』だ!

 今日解禁しようと思う!

 つまり『とんかつ』をリリースするのだ!


 そしてこれを機に、本格的に『とんかつ』をリリースすることを決意した!


 今日は『カツカレー』のために、やむを得ずという感じだが、今後は本格的に『とんかつ』を広めていこうと思う!


『とんかつ』は、本来カレーのトッピングではない。

 独立した素晴らしい食べ物だ!

 最強と称されてもいい強者の一つなのだ。

 カレーと合わさっては最終奥義となり、丼ものにすればどんぶり界のエース『カツ丼』になる!

 おおっと、やばい、やばい、『ドワーフ』のミネちゃんみたいなことを口走ってしまっている……。

『とんかつ』愛が強すぎて、熱くなりすぎたみたいだ……。


 『とんかつ』……大好きなんだよね。

 分厚い揚げたての『とんかつ』に、シャキシャキのキャベツ、そしてご飯と味噌汁と漬物。

 あゝ……『とんかつ定食』……。

 まずは、王道『とんかつ定食』を広めなければ!


 俺は『とんかつ』専門店を作ろうと思っている。

 ハナシルリちゃんの発案で、カレー専門店を作るが、『とんかつ』も専門店を作って普及したいと考えている。

 もちろん既存の『フェアリー亭』などでメニューに加えるのはありだが、やはり専門店にした方がインパクトがあるし、普及すると思うんだよね。

 そういう意味では、カレーを専門店で広めようと考えたハナシルリちゃんは、中々にいいセンスをしていると思う。


 『とんかつ』専門店は、当面の間、メニューを『とんかつ定食』だけにしてシンプルに広めたいと思っている。

 『とんかつ』を作ったことで、もう一つの黄金メニュー『カツ丼』も作れるのだが、まだ取っておこうと思う。隠し球だ。

 『カツ丼』も強力メニューで、『カツ丼』専門店を作ってもいいぐらいだよね。


 やっぱり飲食事業って面白いなぁ……。


 昨夜、ハナシルリちゃんと話をしたときに、『とんかつ』専門店の構想の話をしたら、大賛成してくれた。

 そして、今日の『カツカレー』に期待を膨らませていた。


 なぜかハナシルリちゃんは……とんかつ屋の名前を勝手に決めていた。

『かつかつ』という名前だった……。

『かつを食べて勝つ』という意味らしいのだが……なんとなく貧乏っぽい感じがして、微妙なんですけど……。

 しかも実際の看板は……『勝負処 かつかつ』にしたいとか言って、勝手に盛り上がっていた。

 “勝負処”って……“食事処”だと思うんですけど……。

 早くも『フードファイター』こと……『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんの影響を受けてしまっているのだろうか……まぁいいけど。


 ちなみにハナシルリちゃんプロデュースでオープンするカレー専門店『イセイチ』のメニューは、イノシシ肉を使った『カレーライス』を『甘口』『中辛』『辛口』の三種類で用意する予定のようだ。

 トッピングは、当面、最小限で『とんかつ』と『唐揚げ』だけにするつもりらしい。

 カレーは、鶏肉や牛肉の使用も含めてバリエーションを増やしやすいが、メニューが少ない方が運営しやすいから、当面はその方針で良いだろう。



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