570.模擬戦、グランドフィナーレ。

 マリナさんの必殺技の発動によって、勝負はついた。


 素晴らしい勝負に、観客は酔いしれ、ユーフェミア公爵、マリナ騎士団長それぞれに、大きな声援が飛んでいる。


 模擬戦の最終戦が終わったことを惜しむかのように、大歓声が続き、一向に収まらない。



 それにしても……マリナさんが放った最後のあの攻撃……。

 何か反則にも思える技だったが……。


 隣で観戦しているビャクライン公爵夫人のアナレオナさんに聞いたところ、『コウリュウド式伝承武技  龍の息吹ドラゴンブレス』は、『コウリュウド式伝承武術』の中でも極意技と呼ばれる最難関の技だそうだ。

 現在のコウリュウド王国にあの技を使える者は、三人しかいないらしい。

 マリナさんは、そのうちの一人ということになるようだ。


 己の内なる生命エネルギーを衝撃波として放出する技らしく、その技を使うと大きく『スタミナ力』や『気力』が失われてしまうとのことだ。


 それ故に、普通の戦いでは中々使えない技でもあるらしい。

 最後の大勝負に出るときに、残りの『スタミナ力』や『気力』と引き換えに放つ隠し技として使うのが一般的なようだ。


 ちなみにこの技が使えるあと二人というのは、王都の『近衛騎士団』団長と、なんとビャクライン公爵らしい。

 アナレオナ夫人が、少し誇らしげに教えてくれた。


 あの溺愛オヤジ……ただの脳筋バトルジャンキーではなかったようだ。

 達人だったらしい。


 元々ビャクライン家は、武門の誉の高い公爵家なのだそうだが、その歴代の領主の中でも、この技を身に付けられた人は多くなかったとのことだ。

 これも、アナレオナ夫人が嬉しそうに話してくれた。


 ちなみに四公爵家には、代々得意とする素養があって、それにちなんだ呼び方がされていたらしい。

 守りのゲンバイン、武のビャクライン、魔法のスザリオン、技のセイバーンと呼ばれていたそうだ。

 ただ最近では、各家で多彩な才能を輩出しているため、この呼び方はほとんど使われないらしい。


 まぁ一つわかったことは、脳筋溺愛オヤジは、ただの“残念なオヤジ”ではなく、武術の分野においては、かなり“できるオヤジ”だということだ。

 俺の中のビャクライン公爵の株が、やっと少し上がった。



高貴なる騎士団ノブレスナイツ』と『セイリュウ騎士団』の模擬戦は、『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の三勝一敗という結果で幕を閉じた。


 模擬戦ということで、勝ち負けはそれほど重要ではないのだが、やはり勝った『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の人気が凄い!


 今大会だけの期間限定の特別騎士団ということは告知されていて、それを惜しむような声も聞こえる。

 このセイバーン領の領主のユーフェミア公爵が率いる最強美女軍団ということもあり、大フィーバー状態だ!


『セイリュウ騎士団』のマリナ騎士団長に促され、セイリュウ騎士全員と『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』のメンバーが闘技場の中央に出てきた。

 まるで演劇のグランドフィナーレみたいな感じで、観客が熱狂している!

 更なる盛り上がりで、凄まじいボルテージだ。


『セイリュウ騎士団』は、今回出場した格付け第七位までの騎士を含めて、合計十三人いるらしい。

 出場しなかった六人も含めた十三人全員、団長のマリナさんも入れると十四人全員が出てきて、手を振っている。

 怪我をしたメンバーも、治療を終えて完全回復している状態だ。


 セイリュウ騎士たちは、改めて『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』のみんなとお互いの健闘を讃え合い、一緒に観客の大歓声に応えている。


 更に観客席がどっと沸き上がる!

 観客の皆さん……声が枯れないんだろうか……少し心配になった。


 こんなことなら……喉にいい生薬を用意しておけばよかった。

 てか、のど飴を商品化しておくべきだったか……。


 そして…… 『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の記念グッズも作ればよかった……。

 凄く売れたに違いない……。

 そして、みんな買いたかったに違いない……。


 大きな商機を逃した気分だ。

 ありがたいことにお金には困っていないので、無理に商売に結びつける必要はないのだが……。

 なんとなく疼いてしまったのだ。


 大会は、表彰式が行われる明日まで続いているから、今からでも何か作れないか考えてみようかなぁ……


 『精密画』があったら、絶対売れるのに……。

 俺がスキルを持っていない以上、今からでは間に合いそうにない。


 記念メダルでも作るかなぁ……

高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の紋章を刻んだものなら、すぐに作れそうだ。


高貴なる騎士団ノブレスナイツ』の紋章は、花束のようなデザインになっていて、専用装備の『高貴なる鎧ノブレスアーマー』に刻んである。

 この紋章は、ニアの発案によるもので、『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』のメンバーを花に見立て、綺麗な花が集まったというイメージで花束のデザインになっている。

 なかなかにいい感じなのだ。

 ユーフェミア公爵を始めとする騎士団メンバーも、気に入ってすぐに採用されたのだった。

 ニアさんて、時々いい仕事するんだよね。


 紋章を刻むだけなら、すぐできる。

 それを今回は時間がないから、自主規制を緩和してスキルでコピーしてしまおう。

 俺の『固有スキル』の『波動』の『波動複写』コマンドを使うのだ。

 まぁもともと自主規制は、他の人が作ったものを勝手にコピーして販売したりするのを自分で規制していただけなので、俺自身が作ったものをコピーすることは規制していなかったけどね。

 ただ商品とかは、万が一俺に何かあったときでも続けられるように、通常生産するようにしていたのだ。

 今回は、その例外ということになる。

 メダルの素材は、あまり高価なものだと安く販売できなくなるので、川サメの歯にしようと思う。

 巨大サメの歯なので、かなり大きいから、それを丸く削ればいいだろう。




 大会三日目は終了となるので、最後にコロシアム内に明日の予定がアナウンスされた。


 最終日となる明日の大会四日目は、午前中で終了する予定だ。

 まず武術大会の表彰式を行う。

 その後、祝賀イベントが行われる。

 最後に『光柱の巫女』テレサさんのお披露目式典が行われるのだ。


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