569.模擬戦第四戦、個人戦。
模擬戦第四戦の個人戦が始まる。
これが最終戦となる。
ある意味大将戦とも言える最後の決戦だ。
『
我らがユーフェミア公爵は、言わずと知れたこのセイバーン領の領主で四十四歳とは思えない美貌の持ち主だ。領民からの人気も高い。
登場しただけで、大歓声が起こっている。
ユーフェミア公爵は、レベルを2つ上げて51だ。
他のメンバー同様『
よく似合っている。
公爵の『固有スキル』の『
プリティーかつ癒しの美少女戦士の変身装備のように、キュートでクールだ!
二刀流使いなので、剣を二本装備している。
相対するは、『セイリュウ騎士団』団長のマリナ=セイバーンさんだ。
アンナ辺境伯の実母で、ユーフェミア公爵の義母であり、この領で最強の武人だ。
四十代後半くらいにしか見えないが、年齢は六十三歳で、レベルは54とのことだ。
青色のロングヘアーの美熟女である。
マリナさんは、前々領主の夫人だった頃から、領民に慕われていて、騎士団長の今も絶大な支持を得ているようだ。
登場すると、ユーフェミア公爵を上回るほどの大歓声が沸き上がった。
マリナさんは、槍術の名手ということで槍を装備しているが、形状が独特だ。
穂先が、少し反った片刃の刀のようになっている。
長くて広幅でもある。
槍というよりは、矛もしくは薙刀という感じだ。
二人が対峙し、試合が始まった!
「お
「ふふふ、望むところよ。全力で来なさい、ユフィ!」
ユーフェミア公爵とマリナ騎士団長の会話を、『聴力強化』スキルで強化された聴力が拾った。
「行きます! タァーー!」
ユーフェミア公爵は、裂帛の気合いと共に、襲いかかった。
——バチィンッ
——バチィンッ
——ガンッ
——ガンッ
——バチィンッ
——バチィンッ
ユーフェミア公爵は、二刀流による連続攻撃を繰り出しているが、マリナさんはそれを全て槍で受け流している。
ユーフェミア公爵は、懐に入れない状態だ。
マリナさんの間合いでの打ち合いになっている。
そのまま激しい打ち合いが続く……
この二人の打ち合いも、まるで剣舞を見ているようで、何か美しさすら感じてしまう。
ユーフェミア公爵は、剣撃を止め一度距離をとった。
小休止といったところか……。
「相変わらずキレがいいね、ユフィ。今度は私から行くよ!」
マリナさんはそう言うと、槍の穂先を地面すれすれに低く構えた。
今度はマリナさんから仕掛けるようだ。
「コウリュウド式伝承槍技!
なんと!
マリナさんは、いきなり必殺技を出した。
——ビャンッ
——ビャンッ
——ビャンッ
——ビャンッ
——ビャンッ
——ビャンッ
これは、セイバーン家三女で槍の使い手ミリアさんも出していた必殺技だ。
というか……祖母のマリナさんから教えてもらっていたのかもしれない。
高速の六連突きを出す技だ。
観客のほとんどは、目視することができていないだろう。
連続する“突きと戻し”で、周囲に風が巻き起こるのが特徴で、その感じからしてミリアさんよりもだいぶ威力があるようだ。
凄い速さの突きだが、ユーフェミア公爵は二本の剣をうまく使って、なんとか受けきったようだ。
だが威力というか槍の突き圧がすごくて、ユーフェミア公爵は突きを受けた姿勢のまま地べたを滑るようなかたちで後方に押された。
剣で防いだが、突き圧だけでも体にダメージを受けたようだ。
そこにマリナさんが、追い討ちをかける。
槍を使った突き、斬り付け、なぎ払いが、連続してユーフェミア公爵を襲っている。
かろうじて剣で受け流しているが、防戦一方だ。
マリナさんの攻撃は、全てが流れるように繋がっている。
達人の域である。
このままマリナさんが攻め続ければ、いずれユーフェミア公爵のスタミナが切れ、打ち勝つように思えたが……。
マリナさんは、一気に勝負をかけるようだ。
なぜか槍を天高く放り投げた!
「コウリュウド式伝承武技!
マリナさんはそう叫びながら、両手をクロスさせながら右に回した。
まるで……バイクに乗って登場する仮面の変身ヒーローの変身ポーズのような動きだ。
そして最後は、両掌を前に突き出す動作をした。
これはまるで……俺が好きだったアニメの仙人が、エネルギー波を放つときのポーズに似ている。
亀の甲羅をつけたちょっとエッチな仙人が、主人公に教えた技だ。
だが見た目には、何も見えない。
何となく風が渦巻いているような感じはするが……。
そうこうしてるうちに、ユーフェミア公爵が宙に舞った!
やはりエネルギー波のようなものを、出していたみたいだ。
今は、はっきり風が渦巻いているのがわかる。
ユーフェミア公爵は、そのつむじ風のようなものに巻き込まれ、回転しながら宙に巻き上げられている。
完全に体の自由を失っている感じだ。
そして、かなり上空まで舞い上がり、今度は自由落下で落ちてくる。
巻き込まれていた旋風自体はなくなっているが、先程までの回転を維持しながら落ちてきている。
というか……きりもみ回転のようなかたちで落ちてきている。
マリナさんは、放り投げていた槍を手にとると、落ちてくるユーフェミア公爵に向かってジャンプした。
空中で回転しているユーフェミア公爵に、槍の石付きと柄の部分で打撃を加えている。
——ドスンッ
ユーフェミア公爵は、空中で打撃されたことにより、バランスを取り戻す機会を失い、地面に激突するように落ちた。
かろうじて体をかわして、背中で落ちたようだ。
軽鎧『
ほぼ同時に着地したマリナさんが、槍の穂先を向ける。
へたり込むようになっているユーフェミア公爵の首筋に、穂先が当たった。
マリナさんが審判を見るが……
「参りました。お
なんと、ユーフェミア公爵はあっさりと負けを認めてしまった。
その状況を見て、審判の騎士はマリナさんの勝利を告げた。
俺の予想に反し、早期決着となった。
かなり長引くのではないかと思っていたが……。
でも、それぞれの攻撃を受けるという素晴らしい見せ場もあったし、いい勝負だったと思う。
それにしても、こんなにあっさりユーフェミア公爵が破れるとは思いもしなかった。
一般の観客には、マリナさんの圧勝に見えるかもしれない。
最後に騎士団長が勝利し、『セイリュウ騎士団』の面目躍如といったところだろう。
ユーフェミア公爵が、もし『固有スキル』の『
強化スキルだから、能力値が上がるからね。
ただユーフェミア公爵は、はじめから使うつもりはなく、純粋な武術勝負を挑むと言っていた。
今まで何度かマリナさんに挑んでいるらしいが、一度も勝てていなかったそうだ。
今度こそ勝ちたいと意気込んでいたのだが、残念な結果になってしまった。
でもユーフェミア公爵は、今満足そうな笑みを浮かべている。
純粋な武術勝負の中で、義母の強さを改めて実感したからこそ、素直に負けを認めたのだろう。
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