565.模擬戦第二戦、パーティー戦、その二。

 『セイリュウ騎士団』格付け第三位の斧士ログアクスさんと第四位の斧士バトアークスさんの腕力コンビは、審判の騎士によって戦闘不能と判断された。


 意識を失ったわけではないが、両足を負傷し立てないことと、ミリアさんが槍の穂先を二人の首筋に交互に当てアピールしたことで、審判のジャッジとなったのだ。


 そしてもう一人、戦闘不能と判断された者がいた。


 それは……ミリアさんと槍の突き合いをしていた格付け第五位の女槍士ランスンさんだ。

 彼女は、ミリアさんを追撃してきたのだが、シャリアさんとユリアさんに迎撃されてしまったのだ。


 あくまで自分のターゲットであるミリアさんを重視し、シャリアのたちのそばを駆け抜けようとしたところを、二人が阿吽の呼吸で迎撃したのだった。

 ランスンさんが通り過ぎるタイミングで小休止状態から復活し、両サイドからシールドバッシュを繰り出したのだ。


 二人が放ったシールドバッシュは、ランスンさんをサンドイッチするかたちとなり、戦闘不能に追い込んだのである。

 強烈なプレスで、ランスンさんは意識を刈り取られてしまったのだ。

 おそらく全身打撲で、何カ所か骨も折れているのではないだろうか。


 実は、決まり手となった二人で行うシールドバッシュによるプレス攻撃は、連携技としてシャリアさんとユリアさんが練習していた技なのだ。

 『シールドバッシュ ダブルプレス』という技名を付けていたはずだ。

 『シールドバッシュ』は、通常、盾をぶつけて相手をノックバックさせたり、弾き飛ばす技である。

 それを二人で両サイドから放つことでプレスするのだ。

 当然、大ダメージを与えることができる。

 連携技というよりも、合体技と言って良いのではないだろうか。


 それにしても……一瞬のことだったが……うまく勝利を引き寄せたようだ。

 見事にセイリュウ騎士三人を戦闘不能に追い込んだ。

 セイバーン家三姉妹の阿吽の呼吸による勝利と言って良いのではないだろうか。


 だが、まだ全体の勝負はついていない。


 護衛官のエマさんが、格付け第六位の剣士スウォードさんと鍔迫り合いをしながら、格付け第七位の弓士ユミルさんの方に近づいている。

 逃げるように走りながら鍔迫り合いをしているので、意図的にユミルさんに近づこうとしているようだ。


 第一王女のクリスティアさんが、弓の連射によってうまく動くことができないので、援護するつもりなのだろう。

 クリスティアさんも、二本の剣を使って矢を弾きながらユミルさんとの距離を詰めているが、連続する矢の隙がなく突進することができないでいるのだ。


 エマさんは走りながらの鍔迫り合いの中、サッカー選手がドリブルで抜き去るときのようなフェイントを入れて、一瞬スウォードさんを引き離した。


 そしてユミルさんに向けて、加速しながらスライディングするように突っ込んだ!


龍尾りゅうび! タアッ!」


 エマさんは、スライディングしながら、剣を横薙ぎに斬り付けた!

 これは『ナンネの街』奪還戦の時に見たエマさんの必殺技だ。

『コウリュウド式伝承剣技 龍尾りゅうび』という技名だったはずだ。


 厳しい体勢の中、必死に繰り出した技だったが、ユミルさんは気づいてジャンプして避けた。

 残念ながら不発だった。


 そこに、すぐに追いついたスウォードさんの攻撃がエマさんを襲う。


「コウリュウド式伝承剣技! 龍閃りゅうせん!」


 下から上に斬り上げる斬撃がエマさんの足を切り裂いた!

 体勢を崩していて、避けきれなかったようだ。

 スウォードさんが放った技は、『ナンネの街』奪還戦の時にセイバーン軍の近衛隊長ゴルディオンさんが使った技と同じようだ。

 エマさんでなければ、もっと重傷を負わされていただろう。


 エマさんは、一気に不利な状況に追い込まれたが……彼女が身を呈して作った一瞬の隙は、大きかったようだ!


 弓士ユミルさんが肩から血を流して倒れている。

 肩に剣が刺さっているのだ。


 ユミルさんが連射を止めジャンプしたその一瞬をつき、クリスティアさんが片方の剣を投げつけユミルさんの肩に突き刺したのだ。


 そのままクリスティアさんは、走ってエマさんの救援に向かって来ている。


 エマさんに、スウォードさんの追撃が迫っているからだ。


 エマさんは、足の傷でうまく立ち上がれないでいる。

 まずい……クリスティアさんが間に合わなければ、追撃によって戦闘不能状態にされるだろう。


 そう思った瞬間——


 ——ドスッ

 ——グボッ


 追撃態勢に入っていたスウォードさんが、吹っ飛ばされた。


 なんと……ミリアさんの攻撃だった。

 ミリアさんが、まさにきて槍の石突きをスウォードさんに打ち込んだのだ。

 穂先ではなく反対側の石突きなので、鎧を貫通することはなかったが、鳩尾みぞおちを突かれ、膝を折って悶絶している。


 ミリアさんは、自身が矢のようになって飛び込んだのだった。


 これにはカラクリがあった。

 シャリアさんとユリアさんの盾に押し出されたのだ。

 これも連携技として、彼女たちが練習していたもので、『シールドバッシュ ダブルプッシュ』という名前をつけていた。


 二人が盾を斜め上方に向けた状態で構え、その盾にミリアさんが飛び乗り、そのまま盾を前方に向けて突き出すのである。

 そのシールドバッシュの推進力で、ミリアさんを矢のように飛ばすのだ。

 盾に乗った状態から、打ち出されるまでの不安定な体勢は、ミリアさんが槍使いということもあり、槍を地面に立てて補助的に支えるのだ。


 大盾なので、ミリアさんの足場の位置が難しく、力が伝わる最適な場所を探すのに苦労していた。

 シャリアさんとユリアさんが、盾を打ち出すタイミングを合わせるのも大変そうだった。


 かなり難しい技だったようだが、練習した甲斐があったようだ。



 これで五人全員を戦闘不能にし、『高貴なる騎士団ノブレスナイツ』パーティーの勝利となった。

 エマさんは、足に大きな傷を受けたが、戦闘不能とは判断されていなかったので、完全勝利と言っていいだろう!


 皆頑張ってくれたが、事実上一人で三人を倒したミリアさんは大活躍だった。


 多分だけど……ライバルのスザリオン公爵家長女のミアカーナさんが、仮面の女剣士として武術大会で優勝したから、対抗意識を燃やしたのかもしれない。


 とにかく素晴らしい勝利だった!


 試合展開が凄すぎて、よくわからなかった観客もいたようだが、いつものように解説がアナウンスされると、改めて大歓声が巻き起こった。


 特に若い男性の熱狂が凄い!

 敗れたセイリュウ騎士たちにも称賛の声が発せられているが、とにかく全体の熱量がすごくてよく聞き取れない感じだ。



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