566.模擬戦第三戦、タッグ戦、その一。
模擬戦第三戦は、タッグ戦だ。
二対二での勝負だ。
『
エレナさんは現状維持のレベル57、キャロラインさんは2つ上げてレベル50だ。
『ヴァンパイアハンター』のエレナさんと『ヴァンパイアハンター』でもあり『聖血鬼』でもあるキャロラインさんが戦うのは、ちょっと反則な気もするが……。
まぁ二人とも純粋な武術勝負をすると言っていたから、大人気無いことはしないと思う。
ただ、少し不安だが……。
エレナさんは、武術系のスキルだけでも『剣術』『格闘』『空手術』『双棍術』『拳法——
さすがに『拳法——
一応事前の話では、武器は使わず素手で、主に『空手術』で勝負をしたいと言っていた。
体術の素晴らしさを改めてアピールしたいとのことだった。
キャロラインさんが、元々持っていた武術系のスキルは『剣術』『格闘』だけだが、今は俺の眷属で『絆』メンバーになっているので『共有スキル』がすごい数ある。
ただ、これを使う気はないようで、純粋に勝負を楽しみたいと言っていた。
二人とも、他のメンバー同様『
対する『セイリュウ騎士団』の出場者は、格付け第一位の槍士と第二位の剣士だ。
格付け第一位の槍士は、ヤーリントン=ジャベリントン伯爵、五十三歳で、レベルは53とのことだ。
セイバーン軍の将軍であり、軍務担当執務官も兼務しているらしい。
セイバーン領で三家しかない伯爵家の一つであり、軍事も任されているということは、この人もユーフェミア公爵の右腕的な存在なのだろう。
年齢的に見ても、領の重鎮であることは間違いないようだ。
物静かな雰囲気の人で、“実直”という感じのオーラをまとっている。
伯爵だけあって気品も感じられ、ロマンスグレーのナイスなおじさまという感じでもある。
青い柄に金の装飾が施された鮮やかな槍を持っている。
穂先は十字形になっている。
鎌槍とか十文字槍の形状だ。
格付け第二位の剣士は、ソードン=サーベルン男爵、四十四歳で、レベルは51とのことだ。
セイバーン軍の副将軍らしい。
ヤーリントンさんとは逆に、くだけた感じの印象で、少しニヤけている。
おじさんなのに悪戯坊主のような雰囲気で……女性にモテそうな感じだ。
黒髪で短髪だが、所々に白髪が混じっていて、ちょっとかっこいいかもしれない。
よくわからないが……こういう人を“ちょいワルオヤジ”と言ったりするのだろうか……。
彼は、通常の剣よりも幅広で長い剣を持っている。
大剣に近いサイズだ。
いよいよ試合が始まった!
両チームとも睨み合っている。
エレナさんは、ヤーリントンさんに視線を合わせている。
キャロラインさんは、剣先をソードンさんに向けている。
ヤーリントンさんは、静かにエレナさんを見据え、ソードンさんは、ニヤけながらキャロラインさんを見ている。
彼らから仕掛けるつもりはないようで、ソードンさんが手招きするような仕草をした。
先に攻撃をしろと誘っているようだ。
これを見て、エレナさんとキャロラインさんは互いに目線を合わせ頷いた。
「では、こちらから攻めさせていただきます!」
「いざ!」
エレナさんとキャロラインさんは、そう言って動き出した。
ヤーリントンさんは、迫るエレナさんを見据えながら相変わらず静かに構えている。
普通、槍の使い手なら懐に入らせないで、距離を保って戦うはずだが、あえて懐に入らせるつもりのようだ。
エレナさんが拳を繰り出す——
——シュッ
——バンッ
ヤーリントンさんは、槍の柄で裁いた。
——シュッ
——バンッ
——シュッ
——バンッ
——シュッ
——バンッ
エレナさんは拳と蹴りを連続で繰り出しているが、ヤーリントンさんは何でもないことのように槍で全て受け流している。
あくまで冷静で静かな槍捌きだ。
当然、実際は激しい攻防なのだが、なぜか見ている方に静かな柔らかい動きの印象を与えるのだ。
それだけ余分な力が入らず、達人級の動きで、いなしているということだろう。
エレナさんの攻撃が剛だとすれば、柔の槍捌きで受け流しているといった感じだ。
今のところ、“柔よく剛を制す”というかたちになっている。
セイリュウ騎士の格付け第一位の槍士だから、もっと豪快で凄まじい攻撃を想像していたのだが……。
でも逆に、凄みがあるかもしれない……老練さというか……。
激しくそして静かな攻防が続いている……
一方キャロラインさんは、ソードンさんと激しく打ち合い、火花を散らすような鍔迫り合いをしている。
ソードンさんも、一癖も二癖もある感じで、俺が想像していたような騎士の姿ではない。
激しい鍔迫り合いをしているのに、楽しそうに時々ニヤけている。
バトルジャンキーなんだろうとは思うが……
いや……バトルジャンキーと言うよりは……子供なのか……?
少年のように目をキラキラさせている。
好きなスポーツをしているときというか……面白いおもちゃを手に入れたときというか……
とにかく……楽しそうなのだ。
キャロラインさんの攻撃も凄まじいはずなのに……戦いの中に楽しさのようなものが混在している。
エレナさんとヤーリントンさんの攻防が、“激しくも静かな戦い”だとすれば、キャロラインさんとソードンさんの攻防は“激しくも楽しそうな戦い”という感じだ。
やはり『セイリュウ騎士団』第一位と第二位は、ひと味違うようだ。
二人とも、おそらく必殺技をいくつも出せるはずだ。
『コウリュウド式伝承武術』の技をかなり身に付けていると思うが、今のところそれを出す気配は全くない。
純粋な打ち合い……それを楽しんでいる感じだ。
自分と同等以上の相手でないと、純粋な打ち合いは楽しめないのかもしれない。
そういう滅多にやれなれない相手との勝負を満喫している感じだ。
何となくわかる気がする……。
俺がやっていたテニスの試合でも、互角の相手といい感じでストロークの応酬ができていると、勝負が決まるよりも、ずっとラリーをしていたいという感覚になることがある。
そんな感じなのかもしれない。
観客も、強者同士の純粋な打ち合いを楽しめている感じだ。
攻防を静かに見守っているのだが、熱気というかボルテージが高い……そんな不思議な空間にすらなっている。
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