543.女子力と、女の勘。

 ハナシルリちゃんに、スキルについても教えてもらった。


『通常スキル』の『ステータス偽装』と『速読術』のスキルレベルはそれぞれ2で、『固有スキル』の『女子力』と『女の勘』のスキルレベルは3とのことだ。

 四歳で基本のレベルが5なのに、スキルレベルが2とか3とか……一体どうやってあげたんだろう……。

 密かに使いまくったということなんだろうか……。


 『通常スキル』の『ステータス偽装』は、俺も持っていて仲間たちも使える『共有スキル』にもセットされている。

 『速読術』は、ハナシルリちゃんに会うまでは存在も知らなかったスキルで、名前の通り速読できるというスキルらしい。

 スキルレベル2の現在でも、かなりのスピードで読めてしまうようだ。


 周りの人間は、ハナシルリちゃんがペラペラ本をめくっているので、ただ眺めているだけと思っているらしい。

 溺愛オヤジのビャクライン公爵とシスコン三兄弟は、そんな周囲の目はお構いなしに「この子は凄いスピードで本を読んでいる! 天才だ!」と溺愛ぶりを発揮し、周りの臣下たちから呆れられているようだ。

 ただ……溺愛による思い込みが、実は真実をついているという皮肉な結果になってしまっているらしい。

 本当の意味でハナシルリちゃんの読書力を理解しているのは、母親のアナレオナ夫人とおばあさんだけだそうだ。


 『固有スキル』の『女子力』と『女の勘』というのがすごく気になるので、どんなスキルなのか尋ねてみた。

 『固有スキル』は、その人の魂の願望の表れとも言われていて、切り札的スキルでもあるので、人に教えるべきではないとニアが前に言っていた。

 それ故に、内容を訊くことは自重したかったが、どうしても気になったので訊いてしまったのだ。

 『固有スキル』は、個人的で特別なスキルだから無理に教えなくてもいいという話はした。

 だがハナシルリちゃんは、あっさりスキルの内容を教えてくれた。

 ニアさんも興味があったらしく、ハナシルリちゃんを制止することはなかった。


 『女子力』は……女性としての魅力を高めるスキルらしく、スキルレベルが3なのにスキル内コマンドが十二個もあるらしい。

 スキル内コマンド(技コマンド)は、『料理上手』『掃除上手』『洗濯上手』『裁縫上手』『化粧上手』『着こなし上手』『甘え上手』『おだて上手』『聞き上手』『もてなし上手』『とりなし上手』『あしらい上手』となっているそうだ。


 ハナシルリちゃんの話によれば、この技コマンドを使うと、スキルの効果で上手に出来たり、効率よくできたりするのだそうだ。

 『甘え上手』などのコマンドでは、頭の中にいい言葉や仕草が閃くらしい。


 これらの技コマンドは、おそらく……スキルレベルが上がると、達人級かそれ以上のことができるに違いない。

 『料理上手』一つとっても、もし達人級のスキル補正が入ったなら、超絶美味しいものが作れちゃうってことだよね!

 羨ましいかぎりだ。


 勝手な想像だが……もしスキルレベルが10になって『甘え上手』とか発動されたら……多分みんな言いなりだよね……。

 強力な『魅了』攻撃もしくは精神攻撃をされたのと同じになるのではないだろうか。

 そして『おだて上手』もスキルレベル10とかだと、使い方によっては相手を猛烈にやる気にさせ、ステータスアップさせるとか支援効果が出たりするのかもしれない。

『聞き上手』なんて、第一王女で審問官のクリスティアさんの『強制尋問』スキルと同じようなことができたりするんじゃないかなぁ……。

『もてなし上手』や『とりなし上手』なんかも、ビジネスでも大成功しそうな気がするし……。

 ……なんか勝手な妄想が膨らんでしまう。


 それはさておき、かなりお得なスキルではないだろうか。

 現時点では直接攻撃に使えるスキルではないにしても、技コマンド一つ一つが独立のスキルといってもいいような感じだからね。

 ただ……間違っても『床上手』というような夜の技コマンドは発現しないでほしい。

 もし発現するとしても……成人後に発現することを祈りたい。


『女の勘』は……文字通り勘が働くスキルのようで、今のところ技コマンドは無いようだ。

 常時発動型のスキルなのだろう。

 なんとなく怪しいとか、妙に気になるとかの感覚が突然湧き上がるようで、このスキルによるものだろうとハナシルリちゃんは考えているそうだ。

 そしてスキルレベルが3になってからは、ぼんやりとしたビジョンが突然見えるときがあるらしい。

 起こりうる未来を垣間見ているのではないかと、ハナシルリちゃんは思っているそうだ。


 今回、どうしてもこの『三領合同特別武官登用武術大会』に参加したかったのは、大会の開催情報がビャクライン公爵に報告されるのを盗み聞きした時に、ビジョンが見えたからだそうだ。

 そのビジョンは、男の人の膝に抱えられて観戦しているもので、どうしてもそこにいかなければならないという気持ちになったらしい。

 ちなみに、俺に会ったときに、ビジョンの男が俺だと直感したそうだ。


 そしてもっと恐ろしいことに……別のビジョンでは成長した自分がその男の妻となり、他の妻たちと楽しく暮らしている様子が垣間見えたらしい。

 もちろん一瞬だしぼやけていて、その男性の顔が明確に見えたわけではないそうだ。

 だが……直感的に俺だと思っているらしい……。


 そんなことを言われても……。

 まぁまだ俺だと断定されたわけではないし、そのビジョンも絶対に実現すると証明されたわけでもないので、深く考えるのやめておこう……。

 もし本当に未来のビジョンだとしても……起こりうる可能性の一つを見ただけで、未来は変えられると信じたい……ダメだ思考が引きずられている……考えない、考えない。


 ちなみにこの話を聞いたニアさんは……予想通り、俺にジト目を向けた後に……何やら悪いニヤけ顔になって何度か頷いていた。

 何か……背筋に寒いものを感じたが……。

 むしろ、ずっとジト目を向けられた方が良かった気がする……。


 この『女の勘』という『固有スキル』も、もしかしたらスキルレベルが上がったら凄いことになるのかもしれない。

 現時点でも、ただ勘がいいというレベルを超えてビジョンが見えるんだから、スキルレベルが上がれば、未来予知とかもできてしまうのかもしれない……。



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