540.やっぱりやっちゃう、格闘技興行。

 俺がアンティック選手に提案した要旨は……


 第一に、『セイセイの街』の管轄になるこの『コロシアム村』に、一族で移住するというものである。


 ユーフェミア公爵との話の中で、せっかく作った『コロシアム村』をイベント限定にするのはもったいないので、今後も『セイセイの街』の管轄の特別村として、稼働させようということになっていたのだ。

 ただ、どう稼働させるかや人員などは、俺に考えてほしいと丸投げされていた。

『セイセイの街』の管轄の村というものの、ほぼ独立した運用をしていいとも言われていた。

 いわば特区村のようなかたちだ。

『セイバーン公爵領特別御用商会』の資格を持つ『フェアリー商会』に、特別村『コロシアム村』の運営権と自治権を与えるというとんでもない内容を提示されたのだ。

 もっと言うと、税制の優遇措置が与えられ、緊急時以外は管轄の街である『セイセイの街』の守護の指揮下に入らなくていいというほとんど独立自治のような内容なのだ。

 そのかわり、『コロシアム村』内部の治安維持など本来衛兵隊が行うことも『フェアリー商会』で手配してほしいとのことだった。

『セイセイの街』に所属する衛兵隊は、あくまで『コロシアム村』までの街道及びその周辺の巡回はするが、『コロシアム村』内部については『フェアリー商会』で行ってほしいということである。


 ユーフェミア公爵なりに、色々考えて提案してくれたのだと思う。

 新しく村を作るとしても、このやり方なら『セイセイの街』の負担がほとんどない。

 特に人材を確保する必要がなくなる。

 人材の確保が、実は一番大変だからね。

 それから、俺に『フェアリー商会』の大きな拠点を無理やり作らせることができる。

 まぁこれは、うがった見方かもしれないが……。

 純粋に俺への労いも込めて任せてくれるのだとは思うが……そう信じたい……。

 そして、どうせ任せるなら俺がやりやすいように、なるべく衛兵隊なども中に入らないようにという配慮もあったのかもしれない。

 ……などなどを色々と考えてくれたに違いない。


 俺は、この破格の提案を快く引き受けてしまったのだ。

 何故かというと……結構頑張って『コロシアム村』を作り込んでしまったので、愛着がわいちゃったんだよね。


 この『コロシアム村』の住民として、アンティック選手の一族に移住してもらおうと思ったのだ。

 本来なら移住先として、ピグシード辺境伯領の『イシード市』を薦めたいところだが、今回は案内しなかった。

 なぜなら、アンティック選手の一族は、俺が考えている『コロシアム村』の運営に最適な人材だからだ。

 というか……アンティック選手の話を聞いて、この『コロシアム村』の今後の運用法を思いついてしまったのだ。


 それは……冗談めかしに思いついた……格闘技の興行だ!

 そう……格闘技特区のようなかたちにしようと思いついてしまったのだ!

 午前中に、頭の中で格闘技興行を思いついたときには、心の中でやらないと強く宣言してしまったのだが……本物のプロレスラーを見てしまうと……というか本物のプロレスラーではないが……まぁそんなことはどうでもいいが、とにかく格闘技興行をする団体を作り、この『コロシアム村』で常時興行すれば、人が大勢集まると考えたのだ。

 多くの人々に、喜んでもらえると思うんだよね。


 ということで提案の第二は、『シンニチン商会』で格闘技団体を作って、この『コロシアム村』で定期興行してもらうというものだ。


 アンティック選手の話によれば、彼以外にもヒノキ一族には戦える猛者たちが何人もいるらしい。

 そして『アンティック=ヒノキ』という名前以外にも、伝承されている名前があるそうだ。


 興味をそそられたので、ちょっと訊いてみたら……『ムトゥ』『ヂョウノ』『バシモト』『パンサーマスク』『ダナバシ』『オガダゥ』『ヤァオゥ』『コケシィ』『コリキィ』などという名前だった。

 俺は思わず吹き出しそうになってしまったが……必死でこらえ……「すばらしい名前です! ぜひ承継者を決めて、家門を復活させましょう!」と力強く提案しておいた!


 それにしても……コリキィって……初代様は、プロレスラーかと思ったが……ものまね芸人の可能性も……深く考えるのはやめておこう。

 とにかく……初代様はプロレスをこよなく愛する一人の男ということで、俺は自分の気持ちを無理矢理落ち着けた……。



 話を聞く限り、十分格闘技団体が作れる感じだ。

 一族を挙げて、運営してもらえばいいんじゃないだろうか。

 戦える人は選手として戦い、戦えない人たちは運営や事務方として協力してもらえばいいと思うんだよね。


 アンティック選手の一族だけでなく、外からも出場者を募ったり、別の団体を組織させて対抗戦にしてもいいだろう。


 この世界の『レベルシステム』の問題は、さっき閃いたようにレベルの範囲毎に階級を作ればいいと思う。

 レベル10階級、レベル20階級、といった感じにすれば、いい勝負ができるだろう。

 戦いの種類も……プロレスを含めた体術部門、剣や槍など武器を使う武器部門、剣も魔法もなんでもありの総合部門などを作っても面白いかもしれない。

 そして個人戦のみならず、タッグ戦、団体戦なども盛り上がるだろう。

 なぜか色々とアイデアが思い浮かんでしまうのだ……。

 リングアナウンサーや実況者や解説者の育成とか細かい事まで思い浮かんでしまう……。

 そしてなぜか……ラウンドガールのセクシー衣装まで……ダメだ、思考の暴走が止まらない……抑えろ、自分!

 そもそもプロレスに、ラウンドガールいないし!


 今回の武術大会は入場無料だが、格闘技興行となると入場料を取らなければならない。

 だが、コロシアムの観戦者の熱狂ぶりを見る限り、安く設定すれば大丈夫なような気がしている。

 というか……この格闘技興行、絶対成功する気がする!



 こんな提案をわかりやすくアンティック選手にしたのだが……最初はピンと来てなかったようだ。

 まさか自分たちが戦いを披露して、それが商売になるとは考えてもいなかったらしい。

 だが実際この武術大会に出場してみて、コロシアムの歓声を肌で感じていたので、最終的にはイメージができたようだ。


「グリムさん、ありがとうございます。思ってもみない提案をいただき、本当にありがとうございます。私としては、ぜひお願いしたいと思っていますが、一族に関わる事ですので勝手に判断するわけにはいきません。商会の会頭であり一族の長老でもある私の祖父に、相談してもいいでしょうか?」


 アンティック選手は目を輝かせながら、そして後半は少し言いづらそうに話した。


「もちろん、ぜひ一族の皆さんで相談してください。大きな決断になると思いますので、焦らなくても大丈夫です」


 俺がそう言うと、アンティック選手は安堵の表情を浮かべた。


 そしてすぐにでも相談したいと『ウバーン市』に向かおうとしたので、引き止めた。

 せっかく武術大会に参加したのだから、明日の本選や明後日の決勝戦も見た方が今後のためになると思うんだよね。

 そういう説明をして、『ウバーン市』で待っている長老に宛てた手紙を書いてもらった。

 その手紙を俺の特別のルートを使って届けて、待っているみなさんが『コロシアム村』に来れるように手配をしてあげると申し出たのだ。

 アンティック選手は恐縮していたが、喜んでくれて早速手紙を書いてくれた。

 ちなみに俺の特別なルートというのは、『アメイジングシルキー』のサーヤの転移である。

 すでにセイバーン公爵領の各市町は、サーヤたちが飛竜船を使って密かに訪れているのだ。

 それ故、転移先として登録してあって、いつでも行ける状態なのだ。


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