508.光柱の巫女と、神託。
『メガピンクパンサー』の赤ちゃんたちを愛でた後に、みんなで朝食をとって解散となった。
ちなみに衛兵隊の班長のモルタさんは、昨日の夜の時点で帰っているので朝食にはいなかった。
通常業務に復帰しているはずだ。
これからシャリアさんは、昨日に引き続き守護と衛兵長を伴って、各衛兵への聞き取り調査を行うとのことだ。
ユーフェミア公爵は、何やらやることがあるらしい。
俺たちは、この街の見物をしようと思っているのだが、その前に孤児院にお邪魔しようと考えている。
せっかくの縁なので、何か協力できることがあれば協力したいと思っている。
まずは、『総合教会』に対して寄進するつもりだ。
そのお金は、シスターのテレサさんの裁量で使えるようなので、孤児院の運営にも回せるだろう。
孤児院に対しても、別個に寄付しようとは思っている。
『花色行商団』の皆さんも、教会と孤児院を訪問したいとのことで、俺たちと同行することになった。
教会まではそれなりに距離があるので、守護屋敷から馬車を出してもらった。
行商団の人たちは馬車を持っているのでいいが、孤児院の子供たちと俺たちの分の馬車は無いので、執事さんが用意してくれた。
孤児院の子たちと俺たちだけでもかなりの人数なので、馬車が三台は必要になるが、執事さんが気をきかせて手配をしてくれていたらしい。
俺たちは、馬車に分乗し孤児院に向かった。
馬車から見る街並みは、かなり賑やかで人の往来も多い。
メインの通りを走行しているので当然かもしれないが、賑やかな街並みだ。
少しして、孤児院の前に着いた。
隣が『総合教会』になっている。
その更に隣は、馬車が止められるスペースがある。
教会は二階建て以上の高さがあるが、入り口から見て奥半分は吹き抜けになっているらしい。
手前の方には二階もあり、一階に人が入り切れない場合に、利用するそうだ。
まずは教会にお邪魔することにした。
中に入っていくと奥に祭壇がある。
真ん中に祭壇がある。
それは『中央祭壇』と呼ばれる祈りを捧げる場所のようだ。
その右側には、小さな神殿型の神棚のようなものが五つある。
『主柱五神』の祭壇のようだ。
左側には、同様のものが十個ある。
『日の神十神』の祭壇らしい。
テレサさんの話では、神棚のようなものは『
『絆札』は、御神体として扱われるとのことだ。
『中央祭壇』には、背中から翼が生えた天使のような姿の女性とも男性とも取れるショートカットの綺麗な像が飾ってある。
和服っぽい感じの衣装を身にまとっていて、包み込むように両手を広げている。
主神である『精霊神アウンシャイン』様の像らしい。
大きな教会だと、各神様の像が『神宿』の前に祀ってあるらしいが、地方の小さな教会には主神である『精霊神アウンシャイン』様の像しかないようだ。
地方の小さな教会には、神像を作って寄進してくれたり、お金を出し合って神像を購入してくれるよう者は、ほとんど現れないらしい。
俺たちは、『中央祭壇』に行って祈りを捧げた。
祈りの捧げ方は、厳密な作法はないが、膝をついて両手を胸の前で組むというスタイルが一般的らしい。
俺はその作法に従って、祈りを捧げた。
祈りといっても、仲間たちと共に無事に過ごせていることへの感謝を簡単に述べた程度だ。
話によると今は『お隠れの時代』といわれる神様が現れない時代らしいが、この異世界は元々神様と人が交流していた世界のようだ。
できれば、ここに祀られている神様とも是非お会いしたいものだ。
すでに神様と同様の扱いをされている『大精霊ノーム』のノンちゃんに会えているから、贅沢な要望かもしれないけどね。
大精霊様に会うこと自体も、普通ではありえないことのようだからね。
リリイとチャッピーに至っては、大精霊様を妹扱いして面倒みていたけどね。
それにしても、この教会の中は、神々しいなにかを感じる……。
俺は、なんとはなしに……精霊を見る目の使い方をしてしまった。
薄目で焦点をぼかす……
……す、すごい……小さな光のツブツブが渦巻いている!
まるで……霊域のようだ……。
やはり教会という神聖な場所だから、精霊がたくさん集まってきているのだろうか。
そして、テレサさんの頭からは……光の柱のようなものが出ている。
あれはなんだろう……。
小さな光のツブツブ……精霊も柱の周りで遊ぶように動き回っている。
精霊から好かれてるということなんだろうか……。
俺は思わず……目の前にいるテレサさんの頭の上の光に手を伸ばしてしまった。
「はあぁぁ…………」
え! テレサさんが悲鳴のような声を上げて、俺に引き寄せられるように倒れてきた!
これって……なんか、まずいことをしてしまったのか!?
「テレサさん、しっかりしてください!」
俺は必然的に、テレサさんを抱きかかえるかたちになってしまった。
「はあん……ううっ」
テレサさんは、吐息のようなものを漏らし、うっとりと俺にもたれかかっている。
命に関わるような感じではないが……一体何が……。
「ちょっと! いったい何したのよ!」
ニアが、まるでセクハラ男を断罪するような目つきで、俺を見ている。
てか、隣にいたから、俺が何もしてないのわかってるでしょうよ……。
いや……頭の上に手を伸ばしたから……何もしてないわけではなかった……。
直接体に触れてないというだけだ……やっぱり俺が、あの光の柱に触れたせいなのか?
「大丈夫なのだ?」
「心配なの〜」
「「「お姉ちゃん!」」」
リリイとチャッピーと子供たちが、心配そうに覗き込んでくる。
なにこの……いたたまれない感じ……。
「は、はい。受けます……」
俺たちの心配をよそに、突然テレサさんが呟いた。
どういうことだろう……?
「はい。お受けいたしました。あ、ありがとうございます。あ、あの……」
テレサさんは、また呟いたが、言葉の途中で一瞬光った!
そして、頭から光の柱が天に伸びた!
これは俺でなくても見えたようで、みんな驚いている。
それに俺は、先程の精霊を見る目の使い方を止めていたが、それでもはっきり光の柱が見えた。
だが光の柱は、すぐに消えてしまった。
テレサさんは、少しぐったりしている。
俺はテレサさんを抱きかかえ、椅子に座らせた。
「いったい何があったんですか? よければ話してもらえませんか」
俺がそういうと言うと、テレサさんは目を潤ませながら黙って頷いて、呼吸を整えるように大きく息を吸った。
「はい。お話しいたします……」
テレサさんの口から語られたのは、驚きの内容だった。
テレサさんは、突然体に電気が走ったようなしびれを感じ、力が抜けるとともに俺の方に引き寄せられたのだそうだ。
その後は、大きな愛情に抱かれるような至福の感覚があったそうだ。
突然しびれを感じたのはおそらく、俺がテレサさんの頭上の光の柱に触れたときだろう。
そして俺に抱きかかえられていた時に、突然、天声が聞こえたのだそうだ。
その天声の内容というのが……『——『光柱の巫女』の称号を得ました。神託を受けますか?』というものだったらしい。
『光柱の巫女』とは、神託を受けうる者として貴重な存在なのだそうだ。
『神聖魔法』というレアな魔法スキルを発現する可能性が高く、使えるようになると神に祈願したり、神と交信したりすることができるようになるらしい。
究極的には、神を一時的に身に宿らせる『降神』ができるとも言われているようだ。
もっともこれは、単なる伝承に過ぎないとも考えられているそうだ。
『コウリュウド王国』の歴史の中では、確認されていないらしい。
『コウリュウド王国』には、『総合教会』所属の『光柱の巫女』は、二人しかいないそうだ。
普通のシスター、それも駆け出しのシスターであるテレサさんから見れば、雲の上の存在とのことだ。
王都の教会本部にいるらしい。
テレサさんは突然の天声に驚いたが、思わず神託を受けると答えてしまったそうだ。
すると、頭の中に天声とは違う声が、響いたのだそうだ。
その内容は……
『あなたに加護の力を与えます。
何者にも縛られることなく、信じた道を行きなさい。
心に従って、生きなさい。
我が愛しき子らに伝えて下さい。
『魔の時代』が始まります。
混乱の時代ですが、悲観することはありません。多様な彩りの時代でもあります。
『魔の時代』の到来を恐れてはなりません。
恐れの波動を消すのは、喜びであり感謝です。
あなたには、しなければならないことは何もありません。
やりたいことをやりなさい。そして、楽しみなさい』
といったものだったとのことだ。
その声は、女性とも男性ともとれる……優しく包み込むような声だったらしい。
俺は緊急事態と考え、『波動鑑定』させてもらうことにした。
すると……なんとテレサさんの『加護』の欄に、『精霊神アウンシャインの加護』があった。
そして『称号』には『光柱の巫女』がついていた。
テレサさんも自分のステータスを確認したようで……
「あゝ……ほんとに……『光柱の巫女』の称号をいただいています。それにアウンシャイン様の加護まで……あゝ神様……感謝します」
そう言うと、テレサさんは泣き崩れてしまった。
おそらく感動の涙だとは思うが……いろいろな感情が入り混じった涙のようにも思える。
まぁ普通に考えれば……人生が一変するような出来事が突然起きたんだから……自分の感情を処理できないよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます