503.美女と亜人子供の、花色行商団。
ユーフェミア公爵は、デラウエ騎士爵に人々のためになる償いの仕方を提案したようだ。
それは、この街の弱い者たちへの奉仕活動だった。
炊き出しを行ったり、孤児院への寄付や奉仕活動、街の清掃などを一族総出で行うというものだ。
話によるとデラウエ騎士爵は、この街の荘園の約半分の管理を任されていて、その報酬というかたちで禄を与えられているらしい。
それによって貴族としての生活をしているわけだが、それほど多く与えられているわけではないようだ。
それゆえ、後継者以外の成人した子供は、働かなければならない状況のようだ。
貴族といっても下級貴族であり、基本の禄高は多くないらしい。
その多くない禄の中から、今後一割を貧しい者たちへの食事の提供などに充てること、そして体を使った奉仕活動として街の美化などを行うことを約束させられていた。
これによって、あのゲス衛兵である三男の罪は、反逆罪でない限り親族には及ばないと約束してくれたようだ。
ゲス衛兵の問題行動は、これから白日の下に晒されると思うが、それについては厳正に処断されるとのことだ。
まぁどう見てもあいつは小悪党だから、命を失うほどの罪は犯してないだろう。
ただ、衛兵として残ることは絶対にないだろう。
子供に向けて、剣を振り上げた時点で衛兵失格だからね。
軽ければ、衛兵をクビになるだけで済むかもしれない。
かなり悪質な事例が多く出てきたら、犯罪奴隷として労役を課せられるのではないだろうか。
デラウエ騎士爵は、ユーフェミア公爵に改めて謝罪と感謝をして、公爵の話を肝に銘じると言って帰って行った。
ユーフェミア公爵は別室に、お茶を用意させて、行商団の人たちを案内した。
これからゆっくり行商団の人たちと話をするとのことで、俺たちも同席した。
この女性ばかりの行商団は、成人女性が五人と未成年の子供たち六人で構成されているようだ。
成人女性五人は皆二十代の若い女性ばかりで、代表の女性は色っぽい感じだが他の四人は、健康的なハツラツ美人という感じだ。
『花色行商団』という名前だそうだ。
商会としての店舗などは持たず、行商を専門にしているらしい。
未成年の子供たちは、全員亜人の子供たちだった。
一番年嵩の子が十二歳の女の子で、狸の亜人だ。
次が十歳の男の子で狐の亜人、八歳の妹も一緒だ。
犬の亜人の男の子は八歳で、猫の亜人の女の子も八歳だ。
一番小さな六歳の女の子は、虎の亜人のようだ。
子供たちは、すでにリリイとチャッピーと仲良しになっていた。
特にチャッピーは、ゲス衛兵を倒した活躍があるので、子供たちの憧れの存在になっているようだ。
体をクネクネさせながら、照れている姿が可愛かった。
そしてリリイも自分のことのように、ニヤけながら体をクネクネさせていた。
馬車三台の行商団のようで、行商団としての規模は小さいが、馬車は三台とも大型馬車だ。
荷引き動物は、走鳥が十二羽いて、四羽で馬車一台を引くようだ。
走鳥は、珍しいピンク色だ。
遠くから見たら、巨大なフラミンゴがいるんじゃないかと思うくらい鮮やかなピンク色だ。
もっとも、あくまで走鳥なので、フラミンゴのように首は長くはないし足も細くはない。
走鳥は、ダチョウの首を短くしたような感じの鳥だからね。
扱っている商品は多岐に渡るようだ。
その市町で特産品や掘り出し物を買って、次の市町で販売するのが基本のスタイルのようだ。
商会との取り引きが多いが、広場に簡易屋台を出すこともあるそうだ。
「改めて詫びるよ、あんたたちには迷惑をかけちまったね。今日はここに泊まって、ゆっくりしていきな。あまりかしこまらなくていいからね」
ユーフェミア公爵が、行商団の団長に声をかけた。
「はい。でもこのようにしていただいて、いいのでしょうか。我々でしたら、これからでも宿は取れるでしょうし、お気遣いいただかなくても大丈夫ですが……」
やはり落ち着かないのだろう。
女団長さんは、やんわりと断っている感じだ。
「まぁ窮屈で居づらいのはわかるけどね。せめてもの私の気持ちだよ。今日はここで、美味しいものを食べて、一泊していきな。それ以降は、解放してあげるからさ、ハハハ」
ユーフェミア公爵はそう言って、楽しそうに笑った。
「改めてご挨拶させていただきます。私は、『花色行商団』の団長をしています、ルセーヌと申します」
団長さんが改めて挨拶をすると、他の団員も次々に名乗ってくれた。
子供たちは、テーブルに座るとかしこまって可哀想なので、少し離れたソファーの周りでリリイとチャッピーと一緒に、焼き菓子を食べている。
ちなみに焼き菓子は、俺も食べてみたが美味しかった。
しっとりとしたソフトクッキータイプのお菓子で、守護屋敷の料理長のお手製らしい。
後でレシピを教えてもらえないかなぁ……。
「私は、ピグシード辺境伯家家臣のグリム=シンオベロン名誉騎士爵と申します」
「私はニアよ。よろしくね!」
俺とニアも改めて挨拶をした。
「やはり……妖精女神様と凄腕様でしたか。お会いできて光栄です」
ルセーヌさんは、笑顔を作った。
凄腕様って……やっぱ俺のことだよね。
“凄腕テイマー”と呼ばれていたのは知っていたが、最近では“凄腕様”と呼ばれているのか……。
どうも……妖精女神のニアさんとその相棒の俺の名前は、広範囲に広まっているようだ。
話によると、彼女たち花色行商団は、拠点らしい拠点を持ってなく、常に行商の旅を続けているらしい。
セイバーン公爵領に来る前は、マナゾン大河を挟んで西側に位置するコバルト侯爵領を一通り回ったそうだ。
コバルト侯爵領の北には、エレナさんのヘルシング伯爵領がある。
コバルト侯爵領は、ヘルシング伯爵領とは陸路でも繋がっているそうだ。
ルセーヌさんたちは、今いるセイバーン公爵領を一通り回った後は、ピグシード辺境伯に向かう予定らしい。
セイバーン公爵領の中では、すでに南西の端の港湾都市『ヨバーン市』、その北東に位置する『ナセセイの街』を旅してきたとのことだ。
この『セイセイの街』が、三つ目の市町になるそうだ。
「あんたたちは、よっぽど腕に自信があるんだね。あの衛兵が絡んでいたように、女性と子供ばかりの旅は大変だろう。今日のように絡んでくる者もいるだろうし」
ユーフェミア公爵が、感心したように言った。
「はい、私たちは武装もしていますし、訓練も積んでいます。それに、強い用心棒がいるのです」
ルセーヌさんはそう言うと、少し微笑んだ。
「え、あんたたち以外にもいるのかい?」
「はい。実は……今は怪我をしていて、馬車の中で休んでいるのです」
「なんだい、早く言いな! 怪我なら回復薬をあげよう。すぐに連れておいで!」
「あの……人ではないのです。実は……『メガピンクパンサー』という珍しい豹なのです」
「ほう、用心棒は人じゃないのかい!? しかも『メガピンクパンサー』って……確かピンク色の巨大な豹だね。かなり珍しい動物だね」
「はい。私の師匠が以前保護しまして、旅に出る時に、私に用心棒として預けてくれたのです。並の盗賊には負けることはないのですが、今回は魔物に襲われてしまい、なんとか倒したのですが、二頭いるうちの一頭が左前足を失ってしまったのです。手持ちの回復薬は飲ませたのですが、失った足までは治せないので休んでいるのです」
ルセーヌさんが、鎮痛な表情になった。
「それなら、私が治してあげるわ! 任せて! 連れてくるのが大変なら、こっちから行こうか?」
ニアがそう言った時だ……リリイたちと遊んでいた六歳の虎耳の女の子……たしか……ラムルちゃんという名前の子が駆けてきた。
「ルセーヌお姉ちゃん、生まれるよ! もうすぐ生まれる! ラックのところに行かなきゃ!」
女の子は突然そう言って、ルセーヌさんの手を引いて走り出した。
生まれる? ……何が? ……誰から?
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