494.ニアの猿軍団、誕生!

 俺たちが洞窟の外の広場に出ると、木々の間から俺たちを覗き込んでいる動物がいた。

 あれは……ニホンザル……?


 見た目がニホンザルだが……全身が真っ白な猿だ。

 三匹が、こっちの様子を伺っている。


 おおっと!

 突然、俺たち目掛けてバナナの皮を投げつけてきた。


「ウッキー!」

「ウッキッキー!」

「ウホウホッ!」


  三匹の猿がバナナの皮を投げながら、叫び声をあげて騒ぎだした。


 なんとなく……馬鹿にしている風だということだけはわかる……。


 それにしても、凄い数のバナナの皮なんですけど……。

 こいつら……いたずらするために貯めていたのか……?


 今度は、お尻を俺たちに向けて叩いている……これは……挑発しているんだろうか?

 俺的には、面白くて別にいいんだけどね……。

 ただ……無闇に刺激しない方がいい相手もいるような気がするが……


「はっはぁ……面白いわね……。誰に向かって、からかってんのかしら? まったくわかってないようね」


 ニアが鼻息を荒くして、すごく悪い顔をしている。

 やばいよ……これ……白ニホンザル終了だな……。


「サルは、私に任しといて!」


 ニアはそう言うと、悪い笑顔全開にして飛んでいってしまった。


 任せてもなにもないと思うんだが……。

 サルの悪戯ぐらいほっとけばいいのに……。

 この後のあのサルたちの運命を想像するに……不憫でならない。

 まぁ自業自得だけどね。


 俺たちも少しだけ森の中を散策することにした。

 サルが投げてきたということは、近くにバナナは絶対にあるはずだ!

 美味しいバナナが食べたい!

 他の果物もきっとあるに違いない!


 ……少し森に入っていくと、すぐにバナナの木があった。

 普通のバナナで、緑の実がいっぱいついている。

 熟した黄色の実は、少ないようだ。


 そして……お約束という感じでヤシの木もあった。

 ココナッツジュースを飲んでみたいな……。


 かなり高い位置にあるが、ヤシの実を取りに行くか……。


 そう思った時だ……


「大丈夫! 私に任せて!」


 ニアの声が響いた。

 もう帰ってきたようだ。

 そして……ニアの後ろには、白いサルの軍団がいる……。

 さっきの三匹だけじゃない。


 恐ろしいことに……ニアさんは、この短時間のうちに島の白猿の群れを掌握してしまったらしい。


 五十匹以上いるな……正確には……六十三匹いるようだ。

 可愛い子猿たちもいる。


 念のため『絆』リストの『使役生物テイムド』リストを確認すると……

 やっぱり仲間になっていた。


 正式な種族名は、『白島猿しろしまざる』というようだ。

 野鳥などと同じように、あくまで普通の生物である。


「あんたたち、食べごろのヤシの実を取ってきなさい!」


「「「ウッキー」」」


 ニアが命じると、最初に俺たちをからかった三匹が、体をビクッと硬直させた後に、返事をしてヤシの木に登り始めた。


 完全にニアにびびってる感じだけど……。

 多分……ボコられたんだよね……。

 さすがに回復魔法で傷は治したんだろうけど、目が怯えちゃってる気がする……。


 サルたちは、次々にヤシの実を落としてくれた。


「今日からこの子たちは、私直属の『猿軍団』よ!」


 ニアは、突然言い放ち、ドヤ顔で胸を張ると鼻息を荒くした。

 そして久しぶりに“残念ポーズ”……左手を腰に当て、右手人差し指を空に突き上げるという古臭いポーズを決めている……。


 ニアは『猿軍団』ができたと喜んでいるが……サルたちは……なんか……めっちゃ嫌そうな顔してるんですけど……。

 そして……この『猿軍団』って……果たして、組織する意味があるのだろうか……?

 白いニホンザルとか……目立ちすぎて……潜入任務とか全くできないよね。

 野鳥とか野良猫とかトカゲとかなら街に溶け込めるけど、白い猿って……全く溶け込めないと思うんですけど……。

 違和感しかないよね。


 ニアは、ただ単に自分の軍団が欲しかっただけだと思うんだけど……。

『エンペラースライム』のリンちゃんの『スライム軍団』、『スピリット・オウル』のフウの『野鳥軍団』、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラの『野良軍団』、『スピリット・タートル』のタトルの『爬虫類軍団』を、羨ましそうに見ていた時があったからなあ。

 絶対、何も考えずに軍団が欲しかっただけだな……まあ、ここはスルーしてあげよう。


 それにしても……サルたちのテンションが……だだ下がりな気がするが……。

『テイム』スキルは使っていないようだが、力でねじ伏せて、半ば強制的に仲間にしたのではないだろうか。

 上目使いでニアを見ているし……。

 まるで……街の不良に無理やり仲間にされたみたいな雰囲気だ。

 このサルたち……可哀想すぎる。

 特に不憫なのは……早速パシリ扱いをされているあの三匹だ。

 まぁあいつらが、からかって来なければ、群もろともニアに取り込まれることもなかったので、自業自得ではあるが……。

 三匹は、おそらく戦犯として、当分の間、ニアの『パシリチーム』になるに違いない。


 ニアは、名前もつけてやったようだ。

 ミザ、イワザ、キカザという名前にしたらしい。


 これって……見ざる、言わざる、聞かざるから来てるんだよね、きっと。

 多分……『ライジングカープ』のキンちゃんからの情報だと思うけど……。


 俺が言うのもなんだが……ネーミングのセンスが全く感じられない……。

 こんなチャンスはめったにないので、俺は思いっきりジト目をニアに向けてみた。

 いつもされているお返しをしたのだ。


 だが、そんな俺のジト目に気づいたニアは、顔を赤くしながら「何よ! 何か文句あるわけ!?」と逆ギレした……トホホ。


 ニアもさすがに、この白い猿たちを引き連れて歩くのは目立ちすぎるとわかっているようで、とりあえずこの島に置いていくようだ。

 そしてニアが必要とするときに、転移の魔法道具を使って迎えに来て働かせるつもりらしい。

 ニアが念話で『猿軍団』にそう伝えると、サルたちは少しホッとした表情を浮かべていた。

 でも……気まぐれな不良……もといニアさんに、いつ呼び出されるか分からないのは、かなりのストレスだと思うんだよね。

 安心して暮らせないと思うんだけど……本当に可哀想なサルたちだ……。


 そして『猿軍団』には、早速試練が待っていた……。

 ニアは、大森林で特訓させるつもりらしい。

 あくまで普通の生物だから……特訓したりレベル上げして無理に強くしなくてもいいと思うのだが……。

 戦闘要員にも使おうと思っているのだろうか……。

 まぁサルたちの安全を考えれば、特訓してレベルを上げること自体は悪いことではないけどね。



 そういえば……『パシリチーム』が採ってくれたヤシの実は、穴を開けて『ヤシの実ジュース』として飲んだ。

 俺はテレビなどで見ただけで、実際には飲んだことがなかったので楽しみにしていたのだが……

 思ったよりも、全然味がなかった。

 薄めたスポーツドリンクのような微妙な味だった。


 ただ……うろ覚えの知識だが、体には良かったはずだ。

 点滴の代用品になるような話も聞いたことがある。




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