493.南の楽園、聖血島。

 大型船を調べに行ってくれていたエレナさんとキャロラインさんが、戻ってきた。


 大型船の中には、危険な物はなかったようだ。

 食料品と、武器がいくつかあった程度らしい。


 大きな檻がいくつもあって、『吸血生物』たちのスペースが広く取ってあったようだ。


 俺たちは、無力化した吸血鬼たちを放置してきた洞窟に戻ることにした。


 まず最初に、ここで保護していた吸血鬼たちを仮死状態から解いて、『命令による服従状態』を『土魔法——土の癒し』で解除した。

 もっとも、ほとんどの人たちはニアの『種族固有スキル』の『高貴な瞳』で解除済みだったけどね。


 ここで保護していた吸血鬼たちは、全部で四十七人いた。

 若い人間が吸血鬼化する対象として狙われることが多いようで、見た目的には三十代くらいまでの人しかいない。

 一番若い見た目の子は、十代前半くらいだ。

 もっとも、吸血鬼は歳を取らなくなってしまうので、実際何年生きているのかはわからないが。


 エレナさんとキャロラインさんから『聖血鬼』のことを説明をしてもらい、希望者には俺の血を与えることを話してもらった。


 ここの人たちは、皆レベルが30以下で、『下級吸血鬼 ヴァンパイア』だ。

 太陽光に当たることもできないので、『聖血鬼』になることのメリットは大きいと思う。


 みんなもそう思ったようで、全員が『聖血鬼』になることを希望してくれた。

 代々保護してくれていたヘルシング家への信頼が大きく、エレナさんの話だから信用してくれたのだろう。


 そして、もしこの島を出て普通の街で暮らしたい場合は、『フェアリー商会』で支援するという話もしたが、みんな住み慣れたこの島で暮らしたいとのことだ。

 これからは日中も島を散策できるので、島での暮らしをより楽しめると考えているようだ。


 まだゆっくり見ていないが、俺が理想としているような南の島だと思うんだよね。


 澄んだ青い海があって、きれいな砂浜があって、陸地には山も森もある。

 自然の恵みも、豊かにありそうだ。

 俺がここに移住したいぐらいだ……。



 『聖血鬼』となり俺の眷属となった四十七人は、今まで通りこの島に住むが、今後は必要な物資などを届けてあげようと思っている。

 また、街に買い物に行きたい場合は、エレナさんとキャロラインさんが支援してくれるようだ。

 二人には転移の魔法道具『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を渡してあるから、この人たちを連れ出してあげることができるからね。

 それに俺の眷属となって『絆』登録メンバーになっているから、キャロラインさんとは念話ができる。

 いつでもやりとりができるので、出かけたい時には気軽に連絡することができるのだ。


 そしてエレナさんからの提案で、この島の名前が『聖血島』となった。

 島の名前は特に決まっていなく、今までは通称で『吸血島』と呼んでいたらしい。


 『聖血島』という名前は別にいいのだが……「別にグリムさんが好きだから、あなたの眷属の名前をつけるわけではありません! 『吸血島』よりは『聖血島』の方が、響きがいいからです! グリムさんが好きなわけではありませんから!」と逆ギレされてしまった……。

 なぜに……まぁいいけど……。なんだか慣れてきたよ。


 ヘルシング家が代々管理してきた秘密の島は『聖血島』という名前になり、俺の仲間たちも自由に使っていいということになった。


 俺的には、結構テンションが上がっている!

 なんといっても、南の島だからね。

 自由に遊びに来れる南の島ができたのだ!


 ここで、のんびり海を眺めて過ごしたいなぁ……。

 泳いだり、釣りをしたり、森のおいしい果物を採ったり、……そんなのんびりした生活がしたい。


 早く『正義の爪痕』を壊滅させてしまわないと……。


 でもその後は……吸血鬼の真祖の家系を探して、吸血鬼一歩手前状態の人たちが元に戻れる方法も見つけ出してあげないといけないしなぁ……。


 のんびり生活への道は、まだ遠い気がする……。

 でも、この二つを片付けてしまえば、のんびり生活ができるはずだ。

 いや、絶対のんびり生活をしてやるのだ!


 そんなことを考えていたら……嫌なことを思い出してしまった。

 そういえば、ピグシード辺境伯領を悪魔と共に襲った白衣の男を、まだ放置したままだった……。

 今のところ、迷宮遺跡でおとなしくしているようだが、あいつの転移もピグシード家の伝家の宝刀なら防げそうだし、いずれケリをつけなきゃいけない。


 ふう……少なくとも三つやることがあるのか……少しゲンナリしてしまった。

 でも、のんびり生活を夢見て頑張るしかない。



 次に、ヘルシング家が代々ここに封印していた吸血鬼たちの仮死状態を解除した。

 そして、秘密基地『竜羽基地』でやったのと同じやり方で、全員に俺の血を一滴含ませ、変性可能な者だけを変性させた。

 変性できない者は、『ドワーフ銀』を打ち込んで、再度封印した。


 ここにいたのは全部で八十九体で、変性可能だったのは四十九体だった。


 思ったより多かったが、エレナさんによると、極悪な吸血鬼は戦いの中で消滅させてしまうので、封印して収容した吸血鬼はそれほど強くないし、悪の度合いも高くないとのことだ。

 それゆえに、半分以上の四十九体も変性できたのだろう。

 変性できず再度封印された四十体については、今まで通り『ヴァンパイアハンター』や従者の育成のための実戦相手として活用するとのことだった。


 変性して『聖血鬼』になった四十九体は、皆憑き物が取れたような顔をして、改心した状態になっていた。

 いろいろ説明してあげて、今後の話もしたが、みんな俺に従うとのことだった。

 かなり古い時代に封印された者もいて、いきなり社会復帰するのは大変かもしれないので、まとめて面倒をみることにした。


 男性の三十人は、『アラクネロード』のケニーの諜報部隊に入れることにした。

 もちろん表の仕事は、『フェアリー商会』の仕事をやってもらうつもりだ。


 女性の十九人については、キャロラインさんに預けることにした。

 キャロラインさん直属の秘密部隊にしてもらう予定だ。

 ヘルシング伯爵領の全体の動きを把握したり、特別任務を担当する部隊として活躍してくれると思う。


 キャロラインさんも温泉旅館でのイベントなどを通じて、ケニーと仲良くなっているので、やりとりをしながら、新しく仲間になった『聖血鬼』のみなさんを導いてくれるだろう。


 それから、新たに俺の仲間になった新種族である『聖血生物』の『聖血ホーリー蝙蝠ヴァンパイアバット』と『聖血ホーリーヴァンパイアモスキート』たちも、キャロラインさんに預けようと思っている。

 エレナさんやキャロラインさん、それにキャロラインさん直属の女性『聖血鬼』部隊の騎乗生物になってもらおうと思っている。

聖血ホーリー蝙蝠ヴァンパイアバット』は、飛竜のように騎乗することができると思う。

聖血ホーリーヴァンパイアモスキート』は、サイズ的に騎乗することは難しいだろうが、物を運んだり、航空戦力として活用することができるだろう。

 この『聖血生物』たちは、『ヴァンパイア』を含めたアンデッドに特効を持っているので、『ヴァンパイアハンター』のエレナさんとキャロラインさんに預けるのが一番いいと思う。



 ジョージが仲間にしたカジキの浄魔『マナ・ソードフィッシュ』は、俺の『使役生物テイムド』ではないが、ジョージの仲間なので『心の仲間チーム』メンバーとして登録してあげた。

 これにより、『共有スキル』が使えるので、かなり強くなったはずだ。


 今後、ジョージの助けになってくれるだろう。

 ただ、特訓とレベル上げをして、もう少し強化した方がいいとは思うけどね。


 『共有スキル』が適用され『空泳』スキルが使えるので、大森林で特訓することも可能なのだ。


 ちなみに、このカジキの浄魔たちは五メートル以上の大きさがあるので、普通にジョージが連れて歩くわけにはいかない。

 そもそも、魚系だから空を飛んでるのも不自然だし……。

 したがって、普段はこの『聖血島』の近海を巡回してもらい、島の周辺を守りながら過ごしてもらうつもりだ。

 そしてジョージの戦力として必要なときには、ジョージが転移の魔法道具を使ってこの島にきて、連れて行くというかたちにすればいいだろう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る