492.合体魔法の、練習。

 飛び出した五人の構成員も、『波動鑑定』の結果、『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』だった。


 なに! ……なんと、奴らは、走りながら変性してしまった!


 『死人薬』を飲んだようだ……。


『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』に、変性してしまったのだ。


 前に見たサメの『吸血魔物』ではない……。

 象魔物の『死人薬』を飲んだようだ。

 胸のところに、象の顔が現れている。


『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』は、『吸血鬼』の弱点である『銀』や『ドワーフ銀』を克服している。

『死人魔物』が、人間部分の頭が粉砕されると倒されるという弱点も克服している。

 そして、超絶的な再生能力を有している。


 現状では、『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』を倒す方法は、灰も残らないほど燃やし尽くす方法しかわかっていない。


 そしてそれが可能なのは、現時点では……俺が持っている『魔力刀 月華げっか』の『浄化の炎』と、『魚使い』ジョージが持っている『炎盾ホタテ』の“まとわりつく炎”しかない。


 『共有スキル』にセットしてある『火魔法——火弾ファイアショット』でも、燃やせるだろうが、灰も残らないほど燃やし尽くせるかはわからない。

 もう少し威力の高い火魔法がほしいところだ。


「奴らは、燃やし尽くさないと倒せない! 俺の『魔力刀 月華げっか』とジョージの『炎盾ホタテ』で倒す! 他のみんなはフォローを頼む!」


 俺は、みんなに指示を出して『波動収納』から、『魔力刀 月華げっか』を取り出した。


「一体は、リリイにやらせてほしいのだ! 多分、燃やしちゃえると思うのだ!」


 突然、リリイがそんなことを言った。

 リリイの方から言ってくるなんて、珍しい……というか、余程自信があるか、やってみたいことがあるのだろう。


「わかった。いいよ、リリイ、先頭の一体を攻撃してみて!」


「ありがとなのだ! 多分、大丈夫だと思うのだ!」


 リリイは、笑顔を見せて軽いフットワークで前に出た。


 リリイは、両手の平を天に掲げている。


 あれは……


 右手に火の玉が形成されていく……、左手にも渦巻く空気の玉ができていってる……。


 もしかして……『火魔法——火弾ファイアショット』と『風魔法——風弾ウィンドショット』をすぐに発射せずに、止めているのか……。

 てか……そんなことができるのか……?


 そしてリリイは、天にかざしていた手のひらを、先頭の『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』に向けて振り下ろした!


 すると……バレーボールぐらいに膨らんだ火の玉と風の玉が、同時に発射された!


 そして『吸血魔物』に近づくと、二つの玉は合わさって巨大な炎の玉になった!


 火の玉に風の玉を合わせることで、大きく燃え盛り爆発するような勢いになった。

『吸血魔物』は、その爆風で減速し、そのまま炎玉の直撃をくらった。


 そして、激しく燃えている!


 リリイはそこに向かって、今の『火弾ファイアショット』と『風弾ウィンドショット』を合わせた炎玉を、追加で二発三発と打ち込んだ。


 もはや爆発に近い感じになり、砂浜に大きな穴を開けた。

 おそらく……『吸血魔物』は灰も残さずに蒸発したに違いない。


 単体では威力の少ない『火魔法——火弾ファイアショット』に、『風魔法——風弾ウィンドショット』を合わせることで、威力を激増させたようだ。


 それにしてもこれは……合体魔法じゃないか……。


 元冒険者パーティー『炎武』のリーダーのローレルさんが使う火魔法と風魔法の同時発動による合体魔法にそっくりだ。


「やったーなのだ! うまくいったのだ!」


「リリイ、すごいね! いつの間に、こんなことができるようになったんだい?」


「前に、ローレルおばちゃんから教えてもらったのだ! ローレルおばちゃんの使う『火魔法——火柱ファイアピラー』と『風魔法——風渦ウィンドボルテックス』と違って、『火魔法——火弾ファイアショット』と『風魔法——風弾ウィンドショット』は合わせるのが大変なのだ。でもうまくいってよかったなのだ!」


 リリイは満面の笑顔で、誇らしそうに話した。

 当たり前のように言っているが……この子めっちゃ凄いこと言ってると思うんだけど……。

 というか……めっちゃ凄いことやっちゃったよね……。


 ローレルさんに教えてもらったようだが……俺は練習してるところは見たことないし……多分、コツを聞いただけで、そんなに練習せずにできちゃった感じだよね……。

 やっぱり……天才だ! リリイ、凄い!


 普通は、すぐに発射してしまう『火魔法——火弾ファイアショット』と『風魔法——風弾ウィンドショット』をしばらく留めて大きくさせて、それを同時に放って合体させるなんて……俺には絶対できそうにない。

 天才的な魔力コントロールができるリリイだからこその技ではないだろうか……。


「なるほど! それはいいアイディアね! 私もやってみようっと!」


 なんと、ニアさんがリリイの合体魔法に感心し、ぶっつけ本番でやりだした!


「チャッピーもやってみたいなの! すごくかっこいいなの!」

「我が魔の極み……今こそ見せる時! 漆黒の火炎を受けよ!」


 やばい……チャッピーもやりだしてしまった。

 そしてなぜか……陸ダコの霊獣『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティまで、やり出した。

 相変わらず中二病チックな発言をしている。

 ちなみに漆黒の火炎って言ってるけど、普通の赤い火の玉ですから!


『共有スキル』にセットされているから、みんなやろうと思えばできるんだよね……。

 もう完全に、合体魔法の練習場みたいになってしまった……。

 なにこのシリアス感が全くない戦い……。

 そしてなぜか……『吸血魔物 ヴァンパイアナイトモンスター』たちは、絶望の表情を浮かべながら攻撃を避けるために動き回っている。

 『死人魔物』と違って意識を持ったままだと……恐怖も感じちゃうわけだよね。

 ……砂浜がどんどん穴だらけになっているが……後でしっかり治しておこう……。


 俺は『吸血魔物』たちが逃げ出さないように、空間魔法の巻物『不可視の牢獄』を発動させ、空間断絶結界を張った。


 ニアもチャッピーも、すぐにはうまく合体できていないが、少なくとも二つの魔法を同時には発動することはできている。

 やっぱりこの人たちも、密かに天才だ……。

 なかなかできることじゃないと思うんだよね。


 さすがにオクティは、二つ同時に発動することはできないでいる。

 八本の腕それぞれで武器を操るのとは、わけが違うようだ。

 だが意外とオクティも頑張る子のようだ……。

 虫馬『サソリバギー』のスコピンに協力を依頼し、二人で魔法を発動して合体させる方法にチェンジしだしたようだ。

 オクティが『火魔法——火弾ファイアショット』を出し、スコピンが『風魔法——風弾ウィンドショット』を出して、合わせる練習をしている。

 もはや『吸血魔物』を狙うこともしていない……倒すことを完全に忘れ、普通の練習になっている……まぁいいけど。

 二人同時に発動し、タイミングを合わせて合体させるのは、かなり至難の業のようで全くうまくいっていない。

 でもこれを機会に、今後も練習すればいいんじゃないかな……がんばれ! オクティ、スコピン。


 ニアとチャッピーは、一応『吸血魔物』を倒すつもりで狙いながら練習しているが……それが自然と滅茶苦茶な攻撃になっていて…… 四体の『吸血魔物』は、恐怖の表情になっている。

 本当に絶望している感じで……今では攻撃を仕掛けることをせずに、ただただ逃げている感じだ……。


 俺の最初のあの心配は、何だったんだろうか……。


 ちなみに……本来、戦いを担当するはずの俺とジョージは、呆然と苦笑いしながら眺めているだけだ……トホホ。


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんは、この厄介な『吸血魔物』を倒す武器のアイデアを話し合っている。

 ぜひ有効な武器を考えてもらいたい。

 俺も途中から二人の話に入って、俺なりのアイデアを出した。

 火炎放射器みたいなものを作って、かつその炎が『吸血魔物』にまとわりつくかたちで、燃やし尽くせちゃえばいいんだよね。

 そんな武器ができたら、みんなが有効に戦えるんだけど。

 ジョージも途中から入って、『炎盾ホタテ』による“まとわりつく炎”を実演してくれた。


 エレナさんとキャロラインさんは、大型船の調査に行ってくれた。



 しばらくして……合体魔法の練習場と化していた戦場は……すべての『吸血魔物』を燃やし尽くして静かになった。

 ニアとチャッピーは、リリイほどではないが魔法を同時に発動して、合体させることができるようになっていた。

 やっぱりこの二人もすごい。

 そしてオクティとスコピンは、絶妙のコンビネーションで魔法を合わせるというすご技が、十回に一回はできるようになっていた。

 この短期間で、ここまでやれるとは……少し驚いた。

 今後練習を積めば、実戦でも使えるだろう。

 そして『サソリバギー』のスコピンの背に乗って、陸ダコのオクティが戦っている姿は……かっこいいようなユーモラスなような微妙な感じで……俺的には、すごくいい感じだった。


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