487.吸血鬼、救済計画。
『ヴァンパイアハンター』専用武器の構想を披露してくれた王立研究所の上級研究員ドロシーちゃんから、もう一つ報告があった。
王命が下り、ピグシード辺境伯領の領城に、王立研究所の特別研究施設が正式に設置されることになったとのことだ。
今までは、押収した物品や装置などの調査が主な役割だったようだが、今後は解明した『正義の爪痕』の技術を利用して、王国を守るための武器防具の開発や、『正義の爪痕』の各種薬に対抗する対抗薬の開発が任務になるらしい。
第一王女で審問官のクリスティアさんと護衛官のエマさんも、共に参加するそうだ。
特別研究施設の名称は、ドロシーちゃんの命名で『つぐないラボ』になったらしい。
というのは、ドロシーちゃんの配下となり、特別研究員として働くのが、『道具の博士』の助手だった三人と、一番弟子だった男と、古参の弟子四名だかららしい。
この者たちは、犯罪奴隷となっている。
三人の助手は、『道具の博士』の助手になって間もなく、しかも洗脳されて助手になっていた者たちである。
その洗脳状態はドロシーちゃんの『桃仁酒』により解除され、本来の自分を取り戻している。
洗脳されていたということで情状酌量の余地はあるものの、一旦は犯罪奴隷になったようだ。
ただ一生懸命に働けば、数年で犯罪奴隷から解放される約束になっているらしい。
一番弟子男と古参弟子四人は、洗脳されていたわけではないし、完全に改心したわけでもない。
犯罪奴隷の労役として、研究開発を行わせることになったらしい。
『正義の爪痕』の幹部に近い立場の者たちであるが、明らかに人を虐殺したような証拠もないので、極刑にはならなかったようだ。
ドロシーちゃんの下に、犯罪組織の構成員だったものを配属するのは少し危ない気がするが、奴隷契約により主人を傷つけることはできないので、直接危害を加えられる恐れは無いとのことだ。
クリスティアさんとエマさんも一緒にいる時間が多いようだし、ラボには近衛兵も配置してくれるようなので大丈夫だと思う。
そして非公式にではあるが、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんも協力してくれるようだ。
だがドロシーちゃんとミネちゃんの本当の研究施設は、俺たちの秘密基地『竜羽基地』の中に作ってある。
二人は『仲良しラボ』という名前をつけたらしい。
『ドワーフ』の技術力を活かした革新的なものは、こっちで密かに研究したり開発したりするようだ。
『つぐないラボ』には、拘束してある『薬の博士』『武器の博士』も所属させるという話も出たようだが、彼らの罪は重く、危険でもあるため見送られたようだ。
彼らの研究を解明する上で、今後も必要に応じて尋問するかたちにするらしい。
その必要がなくなるまでは、投獄しておくようである。
最終的には、公開処刑される予定のようだ。
ヘルシング伯爵領で拘束した『謎の博士』についても、『正義の爪痕』の研究を解明するために、今後も継続的な尋問が必要になるので、ピグシード辺境伯領の領城の牢獄に収監することになったそうだ。
ただ『謎の博士』は上級吸血鬼でもあり、かなり危険なので、名目上は領城の牢獄だが、実際には俺たちの秘密基地『竜羽基地』の『ヴァンパイア』保管施設に収容することになっている。
仮死状態のまま収容してある他の『ヴァンパイア』と同じように、『ドワーフ銀』を打ち込んで仮死状態にして収容しておくのだ。
尋問がする必要があるときだけ、覚醒させるという運用の予定だ。
エレナさんとキャロラインさんからは、もう一つ面白い提案があった。
それは秘密基地である『竜羽基地』に収容してある仮死状態の『下級吸血鬼 ヴァンパイア』三十五体と『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』三体に対しての実験の提案だった。
その実験とは……俺の血を与えてみるというものだった。
前に俺の眷属『聖血鬼』になった『ヴァンパイア』だった人たちは、捕まって無理矢理『ヴァンパイア』にされた人たちで、善良な人たちだった。
秘密基地に収容してある『ヴァンパイア』たちは、元は農民とか一般人だったようだが、『暗示』によらないで自ら悪に染まっていた人たちなのだ。
この人たちに、俺の血を与えてみれば『聖血鬼』になる過程で、心持ちも変わるのではないかとキャロラインさんが考えたようだ。
『聖血鬼』なったキャロラインさんの直感的なものらしい。
上手くそうなって、改心してくれればいいが……。
悪い心のまま『聖血鬼』の能力を得られるのは困るんだが……。
そんな話もしてみたのだが……キャロラインさんが言うには、おそらく大きな悪の心のままでは、『聖血鬼』に変質できないのではないかとのことだ。
直感的に、そう感じるらしい。
確かに言われてみれば、悪に染まった低い心の波動では、聖獣に類似している『聖血鬼』にはなれないかもしれない……。
まぁいずれにしろテストしてみたらわかることだ。
提案を受け入れて、やってみようと思う。
そしてこの提案をしてくれた裏には、もう一つ理由があったようだ。
エレナさんを含め代々の『ヴァンパイアハンター』たちが、仮死状態にして封印した『ヴァンパイア』を収容し保存している特別の場所があるらしい。
かなりの数の『ヴァンパイア』が保存されているようで、『ヴァンパイアハンター』や従者を育てるときの実戦訓練などで、その者たちを使ったりしていたようだ。
完全に極悪非道な『ヴァンパイア』で、悪に染まりきった者は、討滅していたようだが、それ以外の者は仮死状態にして無力化できる場合は捕獲していたそうだ。
それらの者が、もし心を入れ替えて『聖血鬼』となって、新たに生きる機会を得られるならば、画期的なことであり、そのためにも是非試してほしいとのことだった。
また、この実験の成否に変わらず、一度その場所に俺を案内したいとも言われた。
その場所には、代々の『ヴァンパイアハンター』たちが保護した善良な『ヴァンパイア』たちが暮らす村があるらしい。
前に前領主のバラン=ヘルシング伯爵が言っていたが、あちこちに善良な『ヴァンパイア』たちが隠れ住んでいる集落があるそうだ。
それとは別に、『ヴァンパイアハンター』が直接保護した善良な『ヴァンパイア』たちを住まわせる場所を作っていたようだ。
南にずっと下った海に浮かぶ孤島のようだ。
大きな洞窟があり、そこで暮らしているらしい。
仮死状態で封印した『ヴァンパイア』も、棺に入れてそこに保管してあるそうだ。
その孤島には、保護した『ヴァンパイア』しか住んでおらず、彼らは常に吸血衝動に苦しんでいるようだ。
島に人間はいないので、動物のまずい血を飲んでしのいでいるらしい。
俺の血を飲んで『聖血鬼』になれば、吸血衝動もなくなるし、より安全に自由に生きられるようになる。
それゆえに希望者には、俺の血を与えてほしいとお願いされたのだ。
そういう理由なら、俺に否やはない。
俺は、すぐに提案を受け入れた。
そして早速、秘密基地に行って実験をしてみることにした。
エレナさんキャロラインさんと共に、転移の魔法道具で秘密基地に移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます