470.ピンポン、大会。

 翌朝になって、俺はみんなに朝風呂というか朝温泉を推奨した。


 俺は元の世界にいたころは朝風呂派で、朝風呂に入っていたのだ。

 熱い風呂に入ると眠気が取れるし、体調がすごく良かった。

 夏場は仕事から帰ってきてシャワーを浴びて、風呂は朝に入っていた。

 場合によっては、朝夜二回風呂に入ることもあった。


 ということで、みんな元気に朝温泉に入ってくれた。

 眠気も取れるし、丁度いいよね。


 ちなみに、昨夜は宴会が終わった後、みんなで寝たいという子供たちの要望を受け入れて、女性陣は大広間に布団を並べて全員で寝ることになった。

 さすがに男性陣も一緒というのはまずいので、男性陣だけは部屋に移って寝た。


 ニアの話では、『ライジングカープ』のキンちゃんのお薦め行事として、『枕投げ大会』が開催されたようだ。

 もちろんキンちゃんは、こいのぼりサイズなので一緒にはいなかったが、やり方を事前にニアたちに説明していたようだ。

 間違いなく『固有スキル』の『ランダムチャンネル』から得た情報だと思うが……間違って伝わっていないことを祈るのみだ。

 聞くのが怖かったので、詳しくは訊かなかった。

 白熱バトルだったという話は……なんとなく聞いたが……。

 まぁ怪我人もいないし、宴会場も破壊されていないから、大丈夫だったのだろう……。

 てか……怪我しても回復魔法で治せるし、多少壊しても家魔法で直せるから安心材料にはならないけどね……これ以上考えるのはやめておこう……。


 朝温泉から出てきて、朝食前の腹ごなしをしようというリリイとチャッピー提案で、娯楽スペースに移って卓球大会が始まってしまった……。


 もちろんこの世界に卓球というスポーツは無いのだが……。

 一応、俺は『ピンポン』という名前の遊びとして、広めようと思っている。

 といっても、この旅館でしかやらないと思うが……。


 俺なりにシンプル化したルールを説明して、早速遊んでもらうことにした。

 卓球台……もといピンポン台がいくつもあるので、それぞれに楽しんでやれるようになっている。

 みんな初めてやる遊びだが、すぐにコツをつかんでくれたようだ。


 ここでも『魚使い』ジョージの使い魔ファミリア『スピリット・グラウンドオクトパス』のオクティがめちゃくちゃなことをしていた。

 八本の足というか腕で、ラケットを持ち無双状態で『ピンポン大魔王』として君臨してしまったのだ。

 オクティはピンポン台の上に乗り、八本の腕を縦横無尽に動かし、えげつないというか……大人気ないピンポンを繰り広げていたのだ。

 そんなオクティに、みんなが代わる代わる勝負を挑むという……ラスボス的な……魔王的な立ち位置に完全になっていた。

 全く意味不明な状態だったが……みんな楽しそうだったからスルーしておいた。


 もちろんオクティは、「我が漆黒の魔弾を受けるがよい!」と中二病発言をしていたが……。

 ボールは、綺麗な白ですから!

 なんで誰もツッコまないのよ!

『アラクネロード』のケニーが『種族固有スキル』の『糸織錬金』で作ってくれたボールは、普通の卓球のボールとそっくりな白色なのだ。

 ちなみにラケットも前に『ワンダートレント』のレントンに作ってもらっていたが、ラバーの部分には『蛇魔物』の皮を貼り付けた。

 ゴムっぽい感じで、いい感じにはなったのだが、衝撃吸収能力が高すぎるのがイマイチなのである。


 ユーフェミア公爵も、かなり熱中していた。

 オクティに触発されたのか、剣が二刀流だからか、ラケットも二刀流だった。

 もうルールとか……あまり関係ない状態になっていた。


 そしてリリイとチャッピーも凄かった!

 コツをつかんだ二人は、楽しそうにラリーをしていたのだが、そのうち白熱してきて……常人では目で追うことが不可能な超高速ラリーをしていた。

 よくボールとラケットが壊れなかったと思う。

 ここでは『蛇魔物』の皮を使ったことが、プラスに出たようだ。

 もちろんケニーの作ったボールの強度もすごい。


 卓球……もとい『ピンポン』は、こっちの世界の人にも、楽しい遊びとして受け入れられたようだ。

 ただラバー代わりの蛇魔物の皮については、衝撃吸収能力が高すぎてボールがあまり飛ばない。

 普通の人が使うには、ちょっと問題があると思った。

 今後、改良が必要だ。

『蛇魔物』の皮でなく、普通の蛇の皮を三枚重ねとかにしたら、いいかもしれない。

 今度試してみよう。

 あとは……植物質な素材で、それっぽいものを探すしかないかなぁ……ゴムの木とかないかなぁ……。

 ゴムの木かどうかは別にして……粘性の樹液が取れる木は絶対あるはずだ……。

 ゴムの木も、実際はいろんな種類があったはずだからね。


 そういえば……前に『ドライアド』のフラニーがトランクスを作ってくれた時に、ゴムがわりに使った伸蔓のびつる という植物の蔓があった。

 その植物の樹液なら……ゴムの原料になりそうな気がするし、その系統の植物を探せばゴムのように使えるものが見つかるかもしれない。

 輪ゴムがあると便利だし、洋服を作る時などもゴムがあるとすごく便利だ。

 今度は、ゴムの木捜索司令を仲間たちに出しておくか……。


 楽しい『ピンポン』大会も終わって、みんなで朝食をとった。

 朝食はシンプルに『白米』と『わかめスープ』と、いくつかのあっさりしたおかずを用意した。

 本当は味噌汁を作りたかったが、味噌をまだ手に入れてないし、作ってもいないんだよね。

 味噌作りをしなきゃ……。


 おかずは、『焼き海苔』と『海苔の佃煮』昨日と同じ『浅漬け』、そして昨日気づいた温泉名物『温泉卵』も出した。

 あとは『紅マスの塩引き』を焼いたもの、『キュウリの酢の物』と『野菜サラダ』だ。


 それと特別メニューとして、『ドワーフ』のミネちゃんからレシピを教えてもらった『ナンパン』を用意した。

 これは『ドワーフ』族が主食にしているもので、最初に『ドワーフ』の里を訪れた時に、食べさせてもらったものだ。

 俺の知っているナンそのもので、凄く美味しかった。

 柔らかさとやさしい甘さに、リリイとチャッピーも魅了されていたし、みんなにも食べてもらいたかったのだ。

 本当は……俺が食べたかっただけかもしれないが……。



 朝食メニューも、みんなに大好評だった。

 特に受けていたのは、『海苔の佃煮』だった。ご飯に合うからね。

 もちろん原料は『川海苔』だ。

 川でも採っているが、『フェアリー水産』での養殖も順調なので、今後大々的に『海苔の佃煮』や『乾燥海苔』を普及させていこうと思っている。

 米食文化には欠かせないからね。

 それから『紅マス』を普通に焼いたのではなく、あえて塩引きにしたしょっぱい焼き魚を出したのだが、これもご飯が進むと好評だった。

 そして『温泉卵』は……微妙な感じだった。

 確かに食べ慣れないと、あのドロっとした感じは微妙かもしれない……。

『ドワーフ』族秘伝の『ナンパン』は、大受けだった。

 みんな別腹的な感じで、いっぱい食べていた。

 ロネちゃんが作っている蜂蜜や、ナビーが前に迷宮探索の時に採ってきた『蜂魔物』の蜂蜜も出したので、尚更食が進んでしまったようだ。

 蜂蜜をつけて食べると、さらに美味しいからね。



『ピア温泉郷 フェアリー旅館』でのプレオープンを兼ねた親睦会は、大好評で終了した。


 すぐにでも本格オープンをしたいが、俺はあと三回だけプレオープンを行うことにした。


 第二弾は、『フェアリー商会』のメンバーを集めた慰労会を兼ねたものにしようと思っている。

 全員集めるのは無理なので、とりあえずは幹部だけ集めてやろうと思っている。

 その後は、本格オープン後に部門ごとに交代で慰労会をしてあげてもいいと考えている。

 あと『マグネの街』の『ポカポカ養護院』の子供たちも、この回に招待しようと思っている。


 第三弾は、各市町の文官や衛兵長や知り合いの商人を集めた懇親会を兼ねたものにしようと思ってる。

 ピグシード辺境伯領の『領都』と『ナンネの街』の『領立シンオベロン養護院』の子供たちは、この回に招待しようと思ってる。


 第四弾は、『舎弟ズ』を集めた矯正合宿を兼ねたものにしようと思う。

 まぁこれは、俺というよりは、ナビーの要望だけど。

 この回には、ヘルシング伯爵領で保護した子供たちを招待しようと思ってる。


 このプレオープンを今晩から三夜連続で行い、その後本格オープンにするという段取りにした。



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