468.ジョージの握りと、リリイの炙り。

 この宴会のために特別に用意した十五種類の料理と釜飯と三平汁、そして飲み物はどれも大好評だった。

 絶賛の嵐で、すごく気持ちが良かったのだ!

 みんな、お腹が破裂するんじゃないかと心配になるくらい食べまくっていた。

『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんだけじゃなく、全員がフードファイターに見えるくらい本当によく食べていたのだ。


 第一王女で審問官のクリスティアさんと護衛官のエマさんは、今日ばかりは主従の別なく並んで楽しそうに一緒に食べていた。

 元々友人でもある二人は、若い女子らしいキャッキャした姿を見せていた。

 普段では見られない非常にレアな姿だった。

 これも温泉効果だろうか……。

 二人が特に気に入っていたメニューは、『イカの醤油焼き』だったようだ。

 やはり今まで食べたことがなかったようで、焼けた香ばしい醤油の香りと、イカの適度な弾力がやみつきになると言っていた。

 マヨネーズをちょっとつけて食べるのも美味しいと教えたところ、はまったようで、おかわりをしていた。

 あとトマトで割った『レッドビール』が気に入ったようで、ぐいぐい飲んでいた。

 イカ焼きは、酒のつまみとしても最高だからね。

 ビールが進んじゃう気持ちはよくわかる。


 ユーフェミア公爵は、『板わさ』が特に気に入ったようだ。

 最初、ワサビの適量をつかめず悶絶していたが……。

 いつも悠然としているユーフェミア公爵のあの姿は、これまた非常にレアだった。

 完璧な女性の一瞬の隙を見たようで、少しドキドキした。

 というか……あんな感じのユーフェミア公爵は、驚くほど可愛かったんだよね。

 パーフェクトな美魔女なのに……可愛さまで持っているなんて……。

 ワサビの適量を把握してからは、ツンとくる感じを楽しんでいるようだった。

『カマボコ』もあっさりとしていて、食べやすいと評価してくれていた。

 マヨネーズにワサビを混ぜた『ワサビマヨネーズ』を作って、『カマボコ』につけると美味しいという話をしたら、すぐに実践してくれて大絶賛だった。

 この『ワサビマヨネーズ』は、他の人たちにも好評で、特にワサビが苦手な子供たちでも美味しく食べれたようだ。

 ユーフェミア公爵は、お酒は希少な『ドワーフワイン』が気に入ったようで、浴びるように飲んでいた。

 やはり……めちゃくちゃ豪快な人だ。


 セイバーン家の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんは、『魚卵の塩漬け』と『ちくわ』を気に入っていた。

 シャリアさんはキュウリを詰めた『キュウリちくわ』が気に入っていて、ユリアさんとミリアさんはチーズを詰めた『チーズちくわ』を気に入っていた。

 この三人は『ドワーフワイン』を炭酸で割った『なんちゃってスパークリングワイン』を、多く飲んでいたようだ。

 シャリアさんは、かなり飲んだらしく途中から目をトロンとさせて酔っ払っていた。

「グリムさんて何者ですの!?」とリピート状態で繰り返していたが、スルーしておいた。

 元祖大食い女子のユリアさんは、『ドワーフ』のミネちゃんにも負けない勢いで食べていた。

 この人も……フードファイターかもしれない。

 お酒は三姉妹では、ユリアさんが一番強い感じだ。

 相変わらず見た目のほんわか美人とのギャップがすごい。

 成人したばかりのミリアさんは、お酒を飲み慣れていないらしく、途中から眠ってしまっていた。

 あどけなさが残っていて、可愛い感じだった。


 アンナ辺境伯は、『フカヒレの姿煮』が美味しいと言っていた。

 独特の食感が気に入ったらしい。

 お酒は『レッドビール』を多く飲んでいたようだ。

 それと希少な『ドワーフチーズ』も、絶賛していた。

 実は、チーズ通のようだ。


 娘のソフィアちゃんとタリアちゃんは、『白身フライのタルタルソース添え』がお気に入りと言っていた。

 というか、俺が見る限りタルタルソースがお気に入りな気がする。

 野菜もほぼタルタルソースで食べていた。

 飲み物は『ドワーフコンコード』の『ブドウジュース』が気に入ったようだ。


 アンナ辺境伯たちは、親子三人楽しい時間を過ごしていた。


 ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんは、『ニシンの甘露煮』を絶賛していた。

 十三歳という年齢の割に、渋いところをついてきたが、「美味しい」と言いながらパクパク口に入れていた。

 そして、「これなら魚嫌いの子供でも絶対食べられる!」と力説していた。

 飲み物は、お酒以外は一通り飲んでいたが、研究者らしく牛乳を炭酸で割るという試みをしていたが、すごく微妙な顔で飲んでいた……あえてスルーしてあげた。


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんは、元祖フードファイターらしく凄い爆食いだった。

 俺は、ミネちゃんのフードファイターぶりを当然予想していた。

 ゆえに、大皿料理だけでなく御膳料理も、抜かりなくおかわりを大量に用意していたのだ。

 だが……俺の予想に反しユリアさんをはじめ、みんなかなり食べていたので、最後の方には底をついたメニューもいくつかあった。

 まんべんなく食べまくっていたミネちゃんだが、一番食べていたのは『鶏の唐揚げ』じゃないかと思う。

 飲み物もまんべんなく飲んでいたが、ドロシーちゃんのように、実験的にフルーツジュースと牛乳を混ぜたものを作って飲んでいた。

 割合がうまくいけば『フルーツ牛乳』のように飲めるのかなあと思って見ていたが……表情を見る限り、まだ完成はしていないようだった。


『虫使い』のロネちゃんと父親のトルコーネさんと母親のネコルさんは、他のみんなとは少し違った視点で食べていた。

 どのメニューを『フェアリー亭』の新メニューにしようかと、家族で話し合いながら楽しそうに食べていた。

 ちなみに『マグネの街』の『フェアリー亭』は、相変わらず大繁盛しているとのことだ。

 最近は『蛇使い』のギュリちゃんと『石使い』のカーラちゃんも手伝いに来て、楽しく働いているようでなによりだ。

『板わさ』『キュウリちくわ』『チーズちくわ』『白身フライのタルタルソース添え』『鶏肉の唐揚げ』を新メニューに加えたいと、早速申し出があったので、俺はすぐに了承した。


『蛇使い』のギュリちゃんと『石使い』のカーラちゃんは、今では姉妹のように仲良しになっている。

 二人が気に入ったのは、『川ハマグリのバター醤油焼き』と『浅漬け盛り合わせ』とのことだ。

 結構渋いメニューを気に入ったようだ。

 なんとなく……この二人、将来酒飲みになりそうな気がしてならない……。


『土使い』のエリンさんは、スイカとメロンが大好きなようで、「甘い、ジューシー!」と言いながらかなり食べていた。

 料理も普通に食べていたと思うのだが……やはりデザートは別腹らしい。

 父親ハンクさんと母親トルーディさんは、『冷奴と湯葉盛り合わせ』が気に入ったようだった。

 年齢的にも、さっぱりしたものが好みにあったのだろう。

 特にトルーディさんは、湯葉を絶賛しておかわりしていた。

 妹のキムさんは、トマトが大好きだったようで、今まで食べたことがない甘いトマトがいっぱいあると非常に喜んでくれていた。

 もちろん全種類制覇していた。

 弟のケビン君は、肉が大好きなようで、 一口サイズに切られている『バッファロー魔物のステーキ』を取り皿にてんこ盛りにして平らげていた。

『ワサビ醤油ソース』も、かなり気に入ってくれていたようだった。


 『植物使い』のデイジーちゃんは、港町である『サングの街』出身らしく『お刺身』を気に入ったようだ。

 とろサーモンのこってりとした味と、イカのさっぱりとした味が楽しめると目を細めていた。


 『魚使い』のジョージは、どれも美味しく食べていたが、途中から寿司が食べたいと言い出して、別途用意されていた白米に、お酢と砂糖を混ぜて酢飯を作ってしまった。

 そして、寿司を握り出してしまったのだ。

 ジョージにこんな才能があったとは……意外な発見だった。

 俺も密かに寿司が食べたいと思っていたので、実は俺が一番喜んだかもしれない。

 サーモンとイカという二種類の寿司ネタしかないが、それでもジョージはうまくバリエーションをつけてくれた。

 それぞれの『炙り』と『チーズ炙り』を作ってくれた。

 これで六種類の寿司ネタになったのだ。

 ちなみに、炙る際の微妙な火力を出せる魔法道具がないので、魔力調整の天才リリイちゃんが大活躍してくれた。

『共有スキル』に入っているが、元々リリイが取得してくれた『火魔法——火弾ファイアショット』を最小魔力で威力を調整し、寿司ネタの上を火の弾丸が通過して炙るという凄技を披露してくれたのだ。

 ある種の宴会芸のような感じにもなっていた。みんな大盛り上がりだった!

 ちなみに、火の弾丸の通過先には『エンペラースライム』のリンちゃんが待ち構えていて、『魔法吸収』スキルで吸収してくれていた。

 “ジョージの握り”と“リリイの炙り”が完全なパフォーマンス状態となり、握りの特設コーナーにみんな集まってきてしまった。

 そして俺がいつになく大喜びしながら食べているのを見て、みんなもお寿司を食べてくれていた。

 生食に抵抗がある人もいただろうが、美味しいと頬を緩ませていた。

 炙り寿司を見て思ったが、炙りなら生食に抵抗がある人でも比較的食べやすいよね。

 それにしても……寿司が食べれて本当に幸せだ。

 酢飯が大好きなんだよね。ジョージに大感謝だ!

 今度、ちゃんとした寿司カウンターを作っておこう。

 そしてジョージには、寿司職人が着ているような服も作ってあげようと思う!

 そうだ! 俺が元いた世界の江戸時代にあったような寿司屋台を作ろうかなぁ。

 刺身や寿司などの生食は、衛生環境や鮮度と衛生を気にかける習慣がないと危険だから、無闇に普及できないと思っていたが、屋台で提供する程度ならいいかもしれない。

 まぁそれでも、自分で真似して作ってお腹を壊す人が出ないように、注意を呼びかけながら販売した方がいいだろうけどね。

 当面はその危険を考慮して、炙りメニューだけで寿司ネタを考えてもいいかもしれない。

 天ぷらの寿司とかでもいいかもしれない。

 下手をすると本来の寿司ではなく、酢飯を普及させるだけになりそうな気もするが……まぁそれでもいいだろう。酢飯最高!



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