447.ケニーの、諜報軍団誕生!

『聖血鬼 ホーリー・ヴァンパイアナイト』として変性した百五十三人の今後について話し合った。


 家族が生き残っていて、家族のもとに帰りたいという希望者は、四十五人いた。

 ほとんどはヘルシング伯爵領の出身のようだ。

 もちろん以前暮らしていた市町に戻って、普通に暮らしてもらって構わないのだが、これから復興するイシード市に移住しないかという提案をしてみた。

 今までやっていた仕事があるならその仕事についてもいいし、仕事がないなら『フェアリー商会』に入ってもらってもいい。


 俺のそんな提案を、皆前向きに考えてくれるとのことだった。

 家族と相談して、移住してくれるつもりのようだ。


 この人たちは、サーヤの転移でそれぞれの市街に送ってもらうことにした。

 ヘルシング伯爵領内の全ての市町は、サーヤの転移ができるようになっているのだ。

 この人たちも含め、聖血鬼になった百五十三人については、いつものように偽装ステータスを貼り付けておいた。

 見た目は普通の人族と全く同じなので、偽装ステータスを貼っておけば、万が一『鑑定』などをされても問題ないだろう。

 普通に暮らすことができるはずだ。


 残りの百八人については、俺のもとでというか……多分ケニーのもとで働きたいらしい。


 そこでケニーと相談の上、いくつかのチームに分けることにした。


 まず一つは、『フェアリー商会』の従業員として、行商を行なってもらう者たちだ。

 他国や他領に向けての行商をやってもらおうと思っている。

 ピグシード辺境伯領を早く復興させるには、特産品が評判を呼んでくれることが重要だが、今の時点ではまだピグシード辺境伯領まで訪れるものは少ない。

 そこで、こちらから行商に行って特産品を販売しようと思っているのだ。

 商品が評判を呼べば、おのずと行商人たちがピグシード辺境伯領に集まるはずだ。

 その呼び水としても、行商は重要なのだ。


 ただこの世界においての行商は、かなり危険である。

 盗賊に襲われたり、魔物に遭遇する可能性もある。

 普通なら避けるべきだが、聖血鬼となった彼らなら、余程のことがない限り問題ないだろう。

 基本的に不死だし、超回復能力あるし、俺の仲間になっているので、共有スキルも使えるからね。


 後でいくつかの行商団を作って、行商をスタートさせることにした。

 本来は、飛竜船を使った航空行商が一番効率がいい。

 安全だし、スピードも段違いだからね。

 だが、途中の市町をゆっくり巡り、周辺の情報を得るために通常の荷馬車での行商をすることにしたのだ。

 ケニー曰く……隣国や他領の情報も一緒に拾えるので、ゆっくりと荷馬車行商をする方がいいとのことだ。

 確かに言われてみればその通りなので、ケニーの案を受け入れた。

 別に国取りをするわけではないので、諜報活動などは無理にしなくてもいいと思っている。

 ただ『正義の爪痕』も完全に壊滅させたわけではないし、他にも悪い組織などに虐げられている人を助けるために、情報はあった方がいいかもしれない。


 一度取引を成立させた後の継続取引などは、飛竜船での航空行商が早くていいと思っているが、それは次の段階でいいだろう。

 家族と一緒に『イシード市』に移住してくる者たちに、航空行商を担当させてもいいかもしれないね。


 そしてこの行商団にはもう一つ役割があって、ピグシード辺境伯領への移住者の募集もやってもらう予定なのだ。

 移住自体は、コウリュウド王国内では全く問題ない。

 他国では、もしかしたら問題になるかもしれないが、移住者を募集しているという噂を大々的に広げるだけでもいいと思っている。


 また、もし市町で、奴隷にされている子供たちや、浮浪児などがいたら救う役割も担ってもらう予定だ。

 この行商団がうまく機能してくれれば、子供たちも救えるし、移住者も増やせるというわけなのだ。


 ということで、この部門には六十人を配置して、十人の行商団を六つ作ろうと思っている。

 表向きは『フェアリー商会』の社員で行商団員だが、裏の顔はケニー直属の諜報部隊ということになるだろう。


 もう一つ『フェアリー商会』の警備部門で働いてもらうチームも作る。

 商会の各市町の支店に配属し、警備を担当してもらう予定だ。

 この者たちも、裏の顔としてケニー直属の諜報部隊として、配属された各市町の状況を把握してもらう予定だ。

  四十人を配置し、各市町の商会支店に分散して勤務してもらうことになる。

 今後支店が増える場合も、随時この四十人の中から人を送る予定だ。


 残りの八人は、ケニーが人選して、直属の隠密部隊としたいとのことだ。

 大森林や霊域の仲間たちは、人族の街ではなかなか活動しにくいので、人族の街で自由に活動できる実働部隊としたいとのことだ。

 この八人は、普段はこの地下街に残って、これから地上に作る温泉宿の警備もしてもらう予定だ。


 なんとなく……この地下街はケニーの作戦本部になりそうな気がする……。


 ということで、皆喜んで任務に就いてくれることになった。

 ケニーとサーヤが相談の上、行商先を決めて直ぐにでも始めるようだ。

 彼らは俺の『絆』登録メンバーなので、常に念話でやりとりができる。

 情報も瞬時に集まるし、すごくいいと思う。

 彼ら自身は、ケニーに心酔していてケニーの近くにいたいようだが、ケニーの役に立ちたいという思いから、快く任務についてくれるようだ。

 まぁ遠くに行商に行っても、話そうと思えば念話ですぐ話ができるしね。


 彼らが行く先々に、サーヤが転移できるように事前登録した転移用のログハウスをセットしてもらう予定だ。

 そうすれば、俺たちが行ったことがない場所でも、サーヤの転移でいつでも訪れることができる。

『共有スキル』に『アイテムボックス』がセットされているので、行商に行くメンバーには常に転移用のログハウスをストックしてもらう予定だ。

 こうした彼らの活動が広がれば、俺たちの転移での移動範囲もかなり広がるし、彼らが危機的な状況になったときに駆けつけることもできる。



 吸血鬼一歩手前の『適応体』状態の百三人についても、いつまでもこの地下街で暮らすというのも可哀想な感じだ。

 ただすぐには『適応体』状態を解除する方法を見つけ出せそうにない。

 今の状態で、元の生活に戻るのは少し危険だ。

 もし死んでしまったら、吸血鬼になってしまうからね。


 そこで一時的にではあるが、『フェアリー商会』の人間として『イシード市』の復興準備というか、移住者の受け入れ準備の仕事をしてくれないかという提案をしてみた。

 この地下街を出ても、集団でまとまってくれていれば、スライムたちを中心とした俺の仲間たちで守ることができる。

 それ故に、『イシード市』の復興準備の仕事なら、お願いしても大丈夫だと思っている。

 家族とともに移住してくれるなら、それが一番いいのでそんな話もしてみた。


 俺の話を聞いて、みんな『イシード市』で働きたいと言ってくれた。

 やはり地下街に隠れて暮らすよりも、体を動かして仕事がしたいとのことだった。




 

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