417.マナゾン大河からの、助っ人。

「ハッ、トォッ」

「ソイヤー!」

「まずい……このままではらちがあかない! 我らの力では持たんぞ!」


『サングの街』を襲う『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』を迎撃をしているのは、『闇影の義人団』のメンバーのジェマ、レオ、アシアだった。


 ジェマの表の顔は『商人ギルド』の受付嬢だが、今は『闇影の義人団』の装備で人々を守っているのだ。

 彼女が使う武器は、『ビーニードル』という手甲のパーツから針が飛び出しているもので、格闘戦用の武器だ。

 彼女のレベルは18で、完全に格上の相手に対し善戦しているが、有効打は与えられていない。


 レオの表の顔は、『商人ギルド』のギルド長で、彼も『闇影の義人団』装備に身を包み、ビーシリーズの武器『ビーランス』という槍で戦っている。

 彼もレベル18で、善戦はしているが倒すには至っていない。


 アシアの表の顔は、『アシアラ商会』の会頭でグリム専属の奴隷商人となったマダムバーバラの友人でもあるのだ。

 彼も『闇影の義人団』装備で参戦し、短剣『ビーダガー』を使っている。

 レベル20であり、やはり応戦できても、倒すことはできていない。


 そんな苦しい状況の中、彼らがやられずに戦えているのには装備の優秀さの他にも訳があった。

 彼らの周辺に集まってきたスライムたちが援護していたのだ。

 このスライムたちは、『エンペラースライム』のリンに集められたグリム配下の『スライム軍団』だった。

 ただ彼らは、最近集められたこの周辺のスライムたちで、まだ大森林での特訓を経ていないために皆レベルは3から5とかなり低い。

 それでも、グリムの仲間となっているために『共有スキル』による防御力と回復技能があるため、敵にやられることなく『闇影の義人団』のメンバーを援護できていたのだ。


 実はこの他にも、グリムの仲間たちが集めた『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』が、この街の各地で陰に日向に活躍していた。

 この三つの軍団は、もともと情報収集要員で、戦闘要員ではないので、大森林での特訓をしておらずレベルが低いが、やはり『共有スキル』によって強化されている。

 危ない人を防御したり、怪我人を回復したりとできることに全力を尽くしていた。

 もちろん場合によっては、攻撃系のスキルを使って応戦することもできる。

 ただ元のレベルが低いために、与えるダメージもそれほど大きくはならないのだ。


 ジェマたち『闇影の義人団』のメンバーは、次第に疲弊していった。


 そんな時、突然、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』が、急降下で突撃してレオを弾き飛ばした!


 そこに『吸血ヴァンパイアモスキート』二体が近づき、吸血針を突き刺そうとした。


 ——バンッ


 だが、間一髪のところで上空から舞い降りた鳥の体当たりによって、『吸血ヴァンパイアモスキート』たちは吹っ飛んだのだった。


 舞い降りて突撃したのは、『野鳥軍団』の鵜たちだった。


「お、おまえたち……あの鵜か……。なんと……魚獲りが俺より上で、戦闘まで上なのか……。……まぁでも……助かった! ありがとう! みんな」


 一瞬絶望的に落ち込んだレオだったが、すぐに気を取り直して、助けてくれた鵜たちにお礼の言葉をかけたのだった。

 彼は『商人ギルド』のギルド長に復帰する前は漁師をしていたが、魚を大量にとってくる鵜を見て落ち込みショックを受けた過去があった。

 そして変なライバル心に火がついて、ギルド長の仕事だけは鵜に負けないと意気込んで頑張っていたのだった。

 そんな彼が、今回のことでさらに対抗意識を燃やしてギルド長の仕事に邁進するのか、それとも仲の良い友となるのかは神のみぞ知ることである……。


 危機的状況は『野鳥軍団』の鵜たちに救われたが、状況的は改善されていない。


『闇影の義人団』のメンバーを取り囲むように、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』が押し寄せてきて、包囲される形になってしまった。

 地上付近には主に『吸血ヴァンパイアモスキート』、上空には『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』が囲んでいる状態なのだ。


 だがそんな劣勢を吹き飛ばす、思いもよらぬ援軍が現れた!


「な、なんだ! 川イルカが、空を飛んでる!」

「なんで川イルカが空を飛んでるの!?」


 アシアとジェマが驚きの声を上げた。


 救援に来たのは、グリムの仲間になった川イルカのキューたちだった。

 彼らは、マナゾン大河に暮らしているのでこの港町『ザングの街』の異変を察知して駆けつけたのだった。

 主人であるグリムから、何かあったときには助けるように命じられていたのだ。

 彼らは『共有スキル』にセットされている『浮遊』スキルと『空泳』スキルの合わせ技で空を自由に泳ぐことができるのだ。


 彼らは普通の生物だが、グリムの『使役生物テイムド』になってから、川を荒らしていた川サメを三十体以上も退治して、レベル20を超えていた。


 もっとも、それでも『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちより格下だが、川サメとの実戦によりスキルを十分に使えるようになっている。


 川イルカたちはリーダーのキューの指示の下、『雷魔法——雷撃サンダー』『風魔法——風弾ウィンドショット』などを駆使して、格上の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちを倒していった。


 統制のとれた見事な集団戦法であった。


 川イルカたちは、更に仲間を増やし、今では三十五頭の群れになっていた。

 彼らが仲間にした川イルカたちも、自動的にグリムの『使役生物テイムド』になっているので、同様に『共有スキル』で武装されているのだ。


 そして驚くことに、川イルカたちから遅れて巨大な川サメが三体空を泳いできていた!


 この三体は、今まで川イルカたちが川サメを倒したときに、運良く生き残り、命乞いをしたのを回復させて子分にしたものだった。

 川イルカたちは、テレパシー能力を持っていて、多種族ともある程度のコミニュケーションが取れるのだ。

 もっともこの川サメたちは、川イルカたちにボコボコにされ、恐怖に怯え子分になったというのが正解なのだが……。

 それでも忠誠を誓ったので、グリムの『使役生物テイムド』となり、仲間というか子分になることができたのだった。


 この川サメたちは、その巨体で街を破壊しないように注意しながら上空で待機し、川イルカたちの『風魔法——風弾ウィンドショット』などで上空に弾き飛ばされてくる獲物を喰いちぎっていたのだった。



 この『マナゾン大河』から現れた予想外の援軍によって、この中央広場付近の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』たちは、どんどん駆逐されていったのだった。


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