415.魔導砲、発射!

「面舵いっぱいなのです!」


「ラジャー! 面舵いっぱい!」


 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんの指示に、人族の天才ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが答える。


「艦首上げなのです!」


「ラジャー! 艦首上げ!」


「固定軸射出なのです!」


「ラジャー! 固定軸射出!」


 ドロシーちゃんがそう言うと、船体の左右の前後から長い槍のような固定軸が射出され地面に打ち込まれた。船体を固定したようだ。


「魔力充填完了! 魔導砲発射準備整いました!」


 ドロシーちゃんの報告に、ミネちゃんが振り向いて頷いた。


「了解なのです! ターゲットスコープオープンなのです!」


 ミネちゃんがそう叫ぶと、ミネちゃんのベビーウォーカー型の『機動司令室モビルコマンドルーム』に内蔵された円形のターゲットスコープが出現した!


「総員、対ショック、対閃光防御なのです! 魔力充填百二十パーセント、最終セーフティー解除なのです! ……魔導砲、発射!」


 ——ピカッ

 ——グオォォォォーーーー


 船首の魔導砲から赤い光線のようなものが、上空に向けて広範囲に射出された!


 そして……射線上の『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』が、一瞬で殲滅された!


 全体の二割くらいは、倒したのではないだろうか。

 凄い威力だ!

 まるで……俺が知っているアニメの……地球を救うために遠くの星まで旅する宇宙戦艦の最強武器みたいだ……。


「グリムさん、魔力の充填をしてほしいのです! 『大精霊ノーム』のノンちゃんが、グリムさんならすぐできるって言ってたのです!」


 魔導砲の威力に呆然としている俺に、ミネちゃんが叫ぶように言った。


 そうか……魔力を充填して再度発射するわけね。

 いいだろう!


 俺はすぐに浮遊戦艦に乗り込んで、魔導砲に触れて魔力を流し込んだ。


「魔力充填完了です!」


 ドロシーちゃんが叫んだ。

 あっという間に、充填できてしまったようだ。


「魔導砲、第二射いくのです!」


 ミネちゃんはそう言うと浮遊戦艦の固定軸を外し、方向を変えると再度固定し、魔導砲の第二射を発射した。

 これを三回ほど繰り返し、八割ほどの敵を殲滅してしまった。

 残った敵は、散り散りになって街で暴れだしている。


「ミネちゃんとドロシーちゃんは、この近くの傷ついた人たちを回復させて! この魔法カバンに回復薬が入ってるから」


 俺はそう言って、回復薬が大量に入った魔法カバンを渡した。


 浮遊戦艦は小回りがきかないので一旦ここに置いて、オケラ型虫馬ちゅうまの『ケラケラ』のケラリンに騎乗して街を回ってもらうことにした。

 念のため『魔盾 千手盾』を取り出して、二人を守るように命じた。


 俺は『浮遊』スキルを使って、上空から領都全体の状況を確認することにした。

『聴力強化』『視力強化』のスキル合わせて発動すれば、広範囲の状況を確認することができるのだ。


『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナと『竜馬りゅうま』のオリョウ、『ミミックデラックス』のシチミ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルが、広範囲に散開して、『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』を倒しながら傷ついた人々を助けて回復している。


 リリイ、チャッピーは、比較的領城の近くで活動している。


 ニアと『スピリット・オウル』のフウは、上空から広範囲に状況を把握して、危ない人々を助けているようだ。


 領城の中は、エレナさんとキャロラインさんで、ほぼ殲滅が終わりそうだ。

『エンペラースライム』のリンも、領主夫人のボギーさんと子供たちを守りながら遠距離攻撃でエレナさんたちの殲滅に協力している。


 それにしても……領軍が全く機能していない……


 領軍の兵士全員が『暗示』にかかっているとでもいうのか……


 ……誰一人動いていないところを見ると、そう判断せざるを得ない。


 俺は領軍の兵士宿舎に急行し、『土魔法——土の癒し』を発動し『暗示』状態を解除していった。

 そしてニアに連絡して、エレナさんとキャロラインさんを兵士宿舎に連れてきてもらった。

『暗示』が解けた兵士たちに、エレナさんとキャロラインさんから領民を助けに向かうように指示をしてもらうためだ。


 領城内の敵をちょうど殲滅し終えていた二人は、すぐに来てくれて俺の依頼通り、兵士たちの陣頭指揮をしてくれた。



 しばらくして領都に現れた『吸血蝙蝠ヴァンパイアバット』と『吸血ヴァンパイアモスキート』の殲滅を完了した。


「エレナ! キャロライン!」


 状況確認のために、俺のもとに集まっていたエレナさんとキャロラインさんを呼ぶ声が響いた。

 振り向くと、領主夫人のボギーさんが泣きながら走ってくる。


「「ボギー!」」


 気づいたエレナさんとキャロラインさんも、すぐにボギーさんに走り出した。


 三人は抱き合いながら、涙を流している。

 幼馴染で親友ということなので、深い絆があるのだろう。


 ボギーさんの後から、二人の子供たちも歩み寄ってくる。


「あの人は……バランはどうしたの?」


 不安そうな表情で、ボギーさんが尋ねた。


「大丈夫! 今は眠らせてあるわ」


 キャロラインさんがそう答えると、ボギーさんは安堵の表情を浮かべた。


「あの人は……昔のあの人ではなくなってしまったの……」


 ボギーさんはそう言いながら、言葉を続けられなかった。


「わかってるわ。おそらく洗脳か人格書き換えをされているらしい……」

「どうにかして、治す手段を見つけるから……。今は無事だったことを喜びましょう」


 エレナさんとキャロラインさんが、ボギーさんを励ますように言った。


「そうね……。キャロライン、あなたも元に戻ってよかったわ!」


 ボギーさんのその言葉に、エレナさんとキャロラインさんは少し悲しげな表情になった。


「今までごめんなさい……。あなたにも、多分ひどいことをしてしまったわね……。私は……吸血鬼にされてしまったの。そして『暗示』にかけられていたのよ……。許して……」


 キャロラインさんは涙ながらに、ボギーさんに頭を下げた……。


「え……吸血鬼に……そんな……」


 ボギーさんは、『ヴァンパイアハンター』でもあったキャロラインさんが吸血鬼にされたことに衝撃を受けて、絶句している。


「まずは、領民の安全を確認しなければ!」


 エレナさんがそう言うと、キャロラインさんとボギーさんが首肯した。


 エレナさんはすぐに、領民の安全確認の指示を兵士たちに出した。

 建物が潰されているところもあるので、下敷きになってる人がいないか確認するようにとの指示も出していた。


「それにしてもグリムさん、あの空の無数の敵を一掃した武器はなんですか?」


 エレナさんが、改めて俺にそんなことを尋ねてきた。

 あの時エレナさんは領城で戦っていたが、領城からでも十分に確認できたのだろう。

 上空に向けて真っ赤な光線が発射されていたからね。


「妖精族の友達が応援に来てくれたんです。おそらく妖精族に伝わる武器でしょう……」


 俺はそんな感じで、誤魔化した。

 まぁ嘘はついてないけどね。



 少しして俺のところに仲間たちが戻ってきた。

 ミネちゃんとドロシーちゃんも一緒だ。


「ミネちゃん、あの魔導砲すごかったけど……どうしたんだい? 作ったの?」


 俺はミネちゃんに訊いてみた。


「あれは『ドワーフ』族が大昔に作った魔法の武器で、今では禁じられた武器なのです。でも、『大精霊ノーム』のノンちゃんが、グリムさんのために使うように言ったのです。それですぐに装備したのです。でも即席だから、本当の力は出せていないのです」


 ミネちゃんは、そう説明してくれた。


 なるほど……『大精霊ノーム』のノンちゃんが、封印されていた強力な武器を俺のために解禁してくれたということなのか……。

 ありがたいことだ。

 あとで、ノンちゃんにお礼を言っておこう。


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