413.必殺の、シャイニングフィスト!
『ヴァンパイアハンター』のエレナさんと『ヴァンパイアロード』との第二ラウンドが始まろうとしていた。
だが二人とも、睨み合ったままピクリとも動かない。
お互いの間合いを図っているのだろう。
『ヴァンパイアロード』は、やはりレイピアの切っ先をエレナさんに向けたが、今度はそのタイミングで仕掛けず……じっと待っているようだ。
張り詰めた空気の中、奴はニヤリと笑っている。
誘っているのだろう。
エレナさんもそれはわかっているようだが、あえて誘いに乗るつもりらしい。
エレナさんもニヤリと笑みを浮かべると、一気に加速した!
急加速で近づいたエレナさんは、一瞬視界から消えたように思えるほどの動きで、体を倒しながら回し蹴りを見舞った!
だがこれに反応した『ヴァンパイアロード』は、ジャンプして回し蹴りを避けると、手にしたレイピアをエレナさんに向かって投げ下ろした。
レイピアは、エレナさんの右の上腕を切りつけ、床に突き刺さった!
すんでのところで躱して、致命傷は避けたようだ。
そして素早く体勢を立て直すと、着地する『ヴァンパイアロード』の後ろに回り込み、右足を大きく蹴り上げた!
その一撃は、見事に奴の急所に命中した!
奴は、その場にうずくまってしまった。
そう……まさしく“急所”に蹴りが命中したのだ!
エレナさんが見舞ったのは、『金的蹴り』だったのだ!
『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』といえども、もちろん痛覚はあるようで、奴は苦悶の表情で動けないでいる。
俺は……同じ男として……伝染したかのように自分でも股間を抑え、前かがみになってしまった……。
『隠れ蓑のローブ』の機能で、見えない状態になっているのが幸いだった……。
グシャッというと鈍い音がしていたから……完全に潰れたと思うんだよね……。
いくら『ヴァンパイアロード』の超絶回復能力があるといっても……『ヴァンパイア』に特効を持っている『ヴァンパイアハンター』のエレナさんに蹴られたのだから、そうそうすぐには治らないようだ。
奴の額に、あぶら汗が浮かんでいる。
普通なら……ざまぁみろと思うところだが……なぜか俺は冷や汗を流していた。
そしてちらっとエレナさんを見ると、嗜虐の笑みを浮かべていた……。
そして満足そうに、苦悶している『ヴァンパイアロード』を見据えている。
なんか……ドSな女王様みたいな感じだ……。
これ絶対わざと金的に攻撃したよね……苦しませるために……そして恐怖を刻み込むために……。
まぁいいけどさぁ……恨みもあるだろうし……でも絶対この人……ドSだな……。
……ていうか、なんで俺に恐怖が刻み込まれているわけ!?
いまだに体がブルっとするわ!
だがそんなドSな女王様状態も一瞬のことで、このチャンスを逃す気は無いようだ。
エレナさんは、すぐに次の攻撃に移った。
——ゴンッ、ゴキッ
『ヴァンパイアロード』が、首を体にめり込ませ、そのままうつ伏せに倒れた。
金的攻撃でうずくまっている『ヴァンパイアロード』の脳天に、エレナさんの『かかと落とし』がクリティカルヒットしたのだ。
金的攻撃からの足蹴にするような『かかと落とし』なんて……ドMな男だったらご褒美かもしれないが……俺としては……いやこれ以上考えるのはやめよう……。
それにしてもエレナさんの繰り出す技は、どれも的確で威力がすごい。
素晴らしい実力だ。
エレナさんは、今度は二本の短棍を取り出した。
そして、何かの操作をしたのか短棍の先から尖ったパーツが飛び出した。
あれで刺すのだろう。
おそらく『ドワーフ銀』でできたパーツなのではないだろうか。
トドメを刺すつもりのようだ。
エレナさんはうつ伏せで倒れている『ヴァンパイアロード』を見下ろし、構えている。
背中から心臓の位置に『ドワーフ銀』を打ち込むつもりのようだ。
「ま、待て……領主夫人と子供が死んでもいいのか?」
首が体にめり込みうまく発声できないようで、すごく聞き取りづらいがやつは確かにそういった。
エレナさんにももちろん聞こえたようで、一瞬動きが止まった。
「残念でした! それは大丈夫! 私たちの仲間がもう救出済みよ!」
ニアがドヤ顔で言い放った。
もちろんニアには、『絆』通信のオープン回線で状況は伝わっているからね。
それを聞いて、エレナさんはニヤリと笑った。
バゴォーンッ——
バンッ——
バゴォーンッ——
バンッ——
え! ……エレナさんがとどめを刺そうとした瞬間、部屋のあちこちが爆発した!
本当に爆弾の爆発のような感じだ!
この感じは……『武器の博士』が、前にピグシード辺境伯領の『領都』に襲撃をかけた時に使った箱型の爆弾と同じだ。
おそらく……同様の爆破装置が仕掛けられていたのだろう。
エレナさんもキャロラインさんも、爆風で飛ばされたがかすり傷程度で大丈夫なようだ。
ニアと『スピリット・オウル』のフウもうまくガードしたので、被害はない。
ん! なに! ……爆発の煙の中から、大量の魔物が現れている!
なんだあれ!?
カラスくらいのサイズの……蚊なのか!?
それに人間くらいのサイズの巨大コウモリがいる!
翼を広げると、人間よりはるかにでかく見える!
それぞれ二十体以上いるようだ。
『波動鑑定』すると……
魔物とは違う……。
『種族』が『
おそらく『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』の『種族固有スキル』である『吸血眷属強化』によって強化された蚊と蝙蝠のなのだろう。
全く別の種族にしてしまうようだ。
もちろん『種族固有スキル』の『吸血眷属支配』で、支配されているのは間違いない。
そしてただの魔物と違って厄介なのは、『ヴァンパイアロード』の指揮命令に完全に従うということだ。
奴らは、エレナさんに向かって一斉に動きだした!
やらせないよ!
おっと! ……俺が瞬殺で片付けようと思ったが……その必要はなかったようだ!
『スピリット・オウル』のフウが宙を舞っている『
首を三百六十度動かせるので、全方位にビームを発射して一瞬で切り裂いてしまった。
目からビームを出したまま首を動かして、ビームの軌道を変え切り裂いていったのだ。
これやっぱりロボットアニメの武器か、赤いマントをつけたアメコミヒーローの攻撃と同じだわ!
迷宮合宿で身に付けた新しい『種族固有スキル』の『
『ヴァンパイアロード』の出した増援は、一瞬にして殲滅された。
そして、このタイミングをエレナさんは逃さない!
「烈風! 加速正拳突きぃぃぃーーーー!」
超加速で『ヴァンパイアロード』に迫ると、連続の『正拳突き』を浴びせ壁まで追い詰めた。
そして二つの短棍の先から『ドワーフ銀』のパーツを出し、奴の両肩を壁に縫いとめた!
『ヴァンパイアロード』は『正拳突き』の連続でボコボコにされ、その上『ドワーフ銀』で両肩を射抜かれているために、意識はあるが抵抗する力は回復できていないようだ。
そしてエレナさんは、両手を胸の前で合わせて拝むような形をとっている。
精神を統一しているようだ。
何か必殺技を出すっぽい……。
合わせた両手を解いて、拳法の構えに変化させ、『ヴァンパイアロード』に向け動き出した!
「私の
エレナさんがそう叫ぶと手刀が光り輝き、次の瞬間には両手の手刀が『ヴァンパイアロード』の体に突き刺さっていた!
「グ、ゴォ、バァ、ググ……な、なにを……お、おのれ……ガガ、グァ……」
『ヴァンパイアロード』は、もがき苦しんでいる。
体の中から焼かれているようだ。
そしてすぐに体全体が光の炎に包まれ、その光の炎に焼き尽くされて消滅してしまった!
なんと……『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』を完全に消滅させてしまった。
恐ろしい技だ。
おそらく『拳法——
かなり体力を消耗するようで、そのままエレナさんは片膝をついてへたりこんでしまった。
彼女を持つ『拳法——
手刀に纏っている光は、人間の生命エネルギーそのものの光のようで、太陽光と同種の光らしい。
太陽光をガードできている中級吸血鬼や上級吸血鬼も体内から焼かれると防ぎようがないのだろう。
下級吸血鬼なら手から出すこの光だけで、太陽光に当てたのと同じように燃やしてしまうことができるらしい。
ここまでの道中で少し聞いていたが、『ヴァンパイアハンター』に受け継がれる必殺技らしい。
自分の生命エネルギーや魔力を使って放出する技らしく、消耗が激しいようだ。
簡単には出せない技らしく、強敵に対するとどめの一撃に使うのだろう。
『通常スキル』ではあるものの、かなりのレアスキルであることは間違いない。
これはいわば『職業固有スキル』といえるようなものかもしれない。
『ヴァンパイアハンター』としての特別な訓練を積まないと、発現しないスキルのようだ。
できれば『ヴァンパイアロード』を生け捕りにして情報を引き出したかったが、まぁやむを得ないだろう。
これで領城は制圧できたので、あとは奴のアジトを攻略すればおしまいだ。
そう思った矢先……領城の外で待機してもらっているリリイたちから念話が入った。
(大変なのだ! 魔物がいっぱい出てきたのだ!)
(コウモリの魔物と蚊みたいな感じなの〜)
なに!
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