412.ヴァンパイアロードVS、ヴァンパイアハンター。
「伸びろ! 如意輪棒!」
ニアは『スピリット・オウル』のフウの背中に立ち上がり、『如意輪棒』を伸ばしヘルシング伯爵の背中に付き当てた!
背中からの不意打ちを食らったヘルシング伯爵は、前のめりに吹っ飛び床に転がっている。
ニアはそのままの勢いでフウの背から飛び出して、ヘルシング伯爵に近づくと『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与し、すぐに拘束した。
よし! これでひとまずは、大丈夫だろう。
こっちの救出作戦を終わらせて、俺もすぐに駆けつけることにしよう!
俺は、既にスタンバイをしていたリンに合図を送る。
リンは『隠密』スキルと体色変化によるステルス機能で、音も気配もなく近づき軟禁フロアを守っている兵士たちを無力化した。
『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与したのだ。
そして俺は扉を開け、領主夫人と子供たちの下に駆け寄った。
「な、何者!?」
領主夫人のボニーさんが、子供たちをかばいながら誰何した。
「大丈夫です! 助けに参りました。私はグリムと申します。エレナ様とキャロライン様の友人です!」
俺は手を広げ、武器を持っていないことを示しながらそう告げた。
「エ、エレナ……キャロライン……それを信じろと!?」
ボニーさんは信じられないといった表情で、俺を睨みつけた。
「信じていただくほかありません! エレナさんは、この領の噂を聞き帰ってきたのです。そしてキャロラインさんも『暗示』にかけられていましたが、今は正気を取り戻しています。そして二人は、ヘルシング伯爵を救出するために、謁見の間で戦っています!」
「え……ダメ……エレナとキャロラインが危ないわ! 主人は、昔の主人ではないのです!」
「大丈夫です。わかっています! 私の仲間も共に戦っています。私もすぐに応援に行きますので、ボニー様たちは、ここで待っていて下さい。表の兵士たちはすべて拘束しましたが、念のため仲間のスライムをここに配置していきます」
俺はそう言って、すぐに部屋を出た。
そして窓から外に出て、『ハイジャンプベルト』で領城の謁見の間に向かった。
「これで終わりよ! 観念なさい!」
ちょうどエレナさんが、執政官になりすましている『血の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』に詰め寄っていた。
周りの近衛兵は、全てキャロラインさんが無力化したらしい。
その近衛兵たちには、ニアとフウが念のため『状態異常付与』の『眠り』を付与したようだ。
そしてニアとフウも執政官に対峙し、取り囲むようなかたちで追い詰めている。
「ハハハ、私を追い込んだつもりでいるのか!? ハハハ、『ヴァンパイアハンター』の力は認めよう……だが上級吸血鬼である私を倒せると思ってるのか?」
奴には、追い詰められている認識は無いようだ。
かなりの余裕だ。
俺は『隠れ蓑のローブ』の機能を発動し、姿と気配を消したまま少しずつ近づいている。
直接奴を見ることができたので、『波動鑑定』をしてみると……
『種族』は、やはり『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』となっている。
そしてレベルは……なんと65だ。
ニアでもレベル62なのに……そして『ヴァンパイアハンター』のエレナさんはレベル55だ。
いかに『ヴァンパイアハンター』といえど、レベル差が10あったら、厳しいのではないだろうか……。
だが俺のそんな心配をよそに、エレナさんが『ヴァンパイアロード』の方に歩みを進めた。
「ニア様、奴は私に任せてください! 『ヴァンパイアハンター』の名にかけて、必ず仕留めます!」
エレナさんが、一瞬ニアに視線を送りそう言った。
「いいけど……危なくなったら、介入させてもらうわよ」
ニアの答えに、エレナさんは黙って首肯した。
ニアは、エレナさんに任せることにしたようだ。
まぁ彼女の『ヴァンパイアハンター』としての矜持と、この領の領主の妹としての思いに応えてやったのだろう。
自分の手で、決着をつけたいだろうからね。
通常攻撃でも『ヴァンパイア』に対して特効を持つという『ヴァンパイアハンター』なら、10くらいのレベル差は何とかなるのかもしれない。
エレナさんは、『通常スキル』として『剣術』『格闘』『空手術』『双棍術』『拳法——
さすが『ヴァンパイアハンター』、すごいスキルの数だ。
これに対し『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』は、『種族固有スキル』として『血の暗示』『血の命令』『血の統制』『血の強制』『蝙蝠変化』『闇纏い』『吸血眷属支配』『吸血眷属強化』を持っている。
詳細表示を確認すると……
『血の暗示』は、下級吸血鬼の『種族固有スキル』で、血を吸った相手に対して、暗示をかけることができる。
『血の命令』は、中級吸血鬼の『種族固有スキル』で、下級吸血鬼に命令し従わせることができる。
『血の統制』は、上級吸血鬼の『種族固有スキル』で、下級吸血鬼、中級吸血鬼に暗示をかけられる。
『血の強制』は、上級吸血鬼の『種族固有スキル』で、下級吸血鬼を意のままに操ることができる。
『蝙蝠変化』は、中級吸血鬼の『種族固有スキル』で、蝙蝠に変化して飛行能力を得ることができる。
『闇纏い』は、中級吸血鬼の『種族固有スキル』で、体の周囲に太陽光を遮断する不可視の障壁を発生させる。
『吸血眷属支配』は、上級吸血鬼の『種族固有スキル』で、蚊、ダニ、ヒル、コウモリ、吸血フィンチという鳥などの吸血動物を使役することができる。
『吸血眷属強化』は、上級吸血鬼の『種族固有スキル』で、吸血動物を強化して巨大化させることができる。
……となっていた。
さすが上級吸血鬼だけあって、すごい『種族固有スキル』を持っている。
エレナさんが進んでくるのを向かい打つべく、奴は剣を抜いた。
細い剣で、レイピアのような剣だ。
エレナさんは、短棍を使わず素手で勝負するようだ。
『ヴァンパイアロード』は切っ先をエレナさんに向けた瞬間、超加速で突進しながら突きを連続して繰り出した。
これを同じスピードで動いたエレナさんが、切っ先を左右に交わしながら『ヴァンパイアハンター』の胸に正拳突きを放った!
まともに食った『ヴァンパイアロード』は、大きく後ろに弾き飛ばされた。
時間にしたら一瞬だが、凄まじい攻防だった。
このスピードは、『ヴァンパイアハンター』としての能力だけでなく、『加速』スキルも使っているのではないだろうか。
そしてあの正拳突きは、まさに空手そのものだ。
激しい攻防の中で、『ヴァンパイアロード』のレイピアの切っ先がエレナさんの頬をかすめたようで、血を流しているが傷は浅いようだ。
エレナさん放った正拳突きは見事に炸裂したが、『ヴァンパイアロード』は当たる瞬間わずかに後方に体重移動をして衝撃を抑えたようだ。
すぐに立ち上がっているが、口から血を流している。
かなり効いているようだ。
最初の一本は、エレナさんが先制といった感じだろう。
やはり『ドワーフ銀』などを使っていない普通の攻撃でも、『ヴァンパイア』に対して特効があるようだ。
よくわからないが……『ヴァンパイアハンター』の体自体が『ドワーフ銀』のように『ヴァンパイア』に対して特攻を帯びているということなのかもしれない。
もしそうだとすれば、普通の剣などを使うよりも直接触れる空手技などの格闘戦法の方が有効なのかもしれない。
「フフフ……さすが『ヴァンパイアハンター』。私の動きに、ついてこれるとはな。少しは楽しませてくれそうだなぁ……」
『ヴァンパイア』の超絶回復能力ですぐに回復したのだろう、『ヴァンパイアロード』が嗜虐の笑みを浮かべながらレイピアを舌なめずりした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます