375.秘密基地へ、出発。
「お母様、私たちも一緒に行ってみたいです」
「私もみんなと行きたいです。お願い、お母様」
ピグシード家の姉妹のソフィアちゃんとタリナちゃんが、突然アンナ辺境伯に申し出た。
俺たちは、これからセイバーン公爵領内の竜羽山脈の西端の地下にある秘密基地『竜羽基地』に向かうのだが、それに同行したいということのようだ。
リリイとチャッピーに加え、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員であるドロシーちゃん、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんも行くことになっているので、一緒に行きたいという気持ちが強くなったようだ。
あまり強く主張することのない二人だが、今回はストレートに母親であるアンナ辺境伯にお願いしている。
リリイとチャッピーが、心配そうに見守っている。
「そうね……本当なら認めないところだけど……今回はお母様も一緒に行こうかと思っていたところなのよ。一度秘密基地も見ておきたいし、吸血鬼も確認しておいた方がいいから……一緒にいきましょう」
アンナ辺境伯がそう言うと、二人は一斉に破顔して辺境伯に抱きついた。
見ていたリリイ、チャッピー、ドロシーちゃん、ミネちゃんも嬉しそうだ。
ということで、ピグシード家親子も行くことになった。
そしてなぜか執政官のユリアさんも、一緒に行くことになった。
領主と執政官が領城を離れて大丈夫なのかと思いつつ、そういう視線を向けてしまったら……
「一日くらい問題ありませんわ。優秀な文官たちがおりますから」
との答えが、ユリアさんから返ってきた。
かなり人数が増えてしまったので、飛竜に騎乗していくのではなく、飛竜船でまとまって行った方がいいだろう。
最終的に同行するのは、ニア、リリイ、チャッピー、『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん、アンナ辺境伯と娘姉妹のソフィアちゃんとタリアちゃん、セイバーン公爵家次女で執政官のユリアさん、第一王女で審問官のクリスティアさんとその護衛のエマさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんの総勢十一名だ。俺を入れれば十二名となる。
出発の準備を整えて、みんなで厩舎に移動したときに、俺は魔法カバンから出す体で『波動収納』から飛竜船を取り出した。
あれ……みんな驚いてしまっている……。
魔法カバンから、ドデカサイズのものを出すのは、慣れてくれたと思ったのだが……。
ああ……そうか……ヘルシング伯爵領に出発するときに使った飛竜船は、ヘルシング伯爵領の港に置いてきたという話をしていたので、二隻目が出てきてびっくりしたのかな……。
『波動複写』でコピーしてあった予備を出しただけなんだけど……。
「これは、予備の飛竜船です」
「「「予備!?」」」
俺の一言に、アンナ辺境伯、ユリア執政官、クリアティア審問官、エマ護衛官、ドロシー上級研究員が、驚きと共にツッコミともいえる声を上げ、口をあんぐりとさせた。
「秘密基地に着いたら、ドロシーちゃんの改造用に、もう一隻出しますから」
少し開き直り気味にそう言ったら……
「「「もう一隻!?」」」
更にハモられてしまった。
その後、アンナ辺境伯とユリア執政官は苦笑いをしていた。
そしてクリスティアさんとエマさん、ドロシーちゃんは、なぜか俺をジト目で見ている……。
やばい……ジト目が流行ってきている……。
ちなみに、ソフィアちゃんとタリアちゃんは、あまり気にしていないようだ。
◇
俺たちは順調に飛行し、秘密基地に到着した。
途中、すぐ近くの『ナンネの街』によって、代官のミリアさんに今までの顛末を説明した。
それ自体は、簡潔に終わらせることができたのだが……
なぜかミリアさんが、おかんむりだった。
「まったくもう! やっと私のターンがくるはずだったのに……グリムさんたら! 『正義の爪痕』のアジトを探しに行ったきり、全然帰ってこないんですもの! ユリア姉さまのところには帰ってるのに! もう、ほんとにずるいですわ! やっぱり、私のものになりなさい!」
という感じで、キレられてしまった……。
まぁ本気ではないだろうけど……。
確かに帰って来なかったし、連絡入れなかったけど……領城に報告に行かなきゃいけないんだから、しょうがないよね……。
クリスティアさんとユリアさんがなだめてくれて事なきを得たが……。
そしてなぜか……
「私も秘密基地に行きますわ! 一番近くの街を預かる代官として、確認しておく必要がありますから。もちろん吸血鬼についてもです!」
という感じで、ミリアさんまで同行することになってしまった……まぁいいけどね……。
そんなこんなで、秘密基地『竜羽基地』に着いたのだ。
飛竜船が着陸できるスペースは、基地の秘密の入り口の近くにあるのだが、そのまま外に置いておくと目立っちゃうんだよね……。
まぁこの辺は、ほとんど人が訪れることはないから、心配しなくても大丈夫かもしれないが……。
ただせっかく秘密基地なんだから……地面が割れて地下格納庫に収納するとか……そんなギミックがほしいところだ……。
やばい……失われた中二心が疼きだしてきた……。
確か……今飛竜船を止めた真下は、広い空間になっていたはずだ。
そのまま格納庫にできないかな……地面を開閉もしくはスライドさせるギミックが実現できればなぁ……。
俺は『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんに相談してみた。
「多分……できるのです! いろんなやり方があると思うのです。考えてみるのです」
「私も手伝います!」
ミネちゃんが親指を立てたポーズでニコッと笑うと、ドロシーちゃんもそのポーズを真似してニコッと笑った。
今日のところは一旦そのまま地上に置いて、俺たちは機密の入り口から地下に施設の中に入った。
この中には、ドロシーちゃんの研究室、工作室、実験室も作る予定だが、ミネちゃんのもほしいという話になり、なぜかミネちゃんのスペースも確保することになってしまった。
別にここでやらなくても、ドワーフの里で今まで通りやればいいと思うのだが……。
まぁスペースはいっぱいあるからいいけどね。
いずれにしろ、それはあとでゆっくりやることにして、まずは封印してある吸血鬼たちに対する尋問をする準備をしなければならない。
吸血鬼は、胸に刺してある『ドワーフ銀』の武器を抜けば、活動を再開するので尋問ができるようになる。
だが、しっかり拘束しないと危険なのだ。
あの超高速での動きは、普通の人間ではなかなかついていけないはずだ。
いくらクリスティアさんたちがレベルが高いといっても、やはり危険が大きい。
みんなで相談した結果、今回も『隷属の首輪』を使用することになった。
封印状態ときに『隷属の首輪』をはめておいて、活動を再開した直後に様々な禁止事項を命令して、反抗を封じるという作戦だ。
『正義の爪痕』から没収した『隷属の首輪』はまだあるが、吸血鬼全てに使う分はない。
幹部と思われる『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』三体の分はあるが、『下級吸血鬼 ヴァンパイア』三十五体の分は足りない。
だが、尋問が終わり次第、再度『ドワーフ銀』を胸に刺し封印して、『隷属の首輪』を回収して使い回せばなんとかなるだろう。
一番危険なのは、胸から『ドワーフ銀』を抜いて、禁止事項を命令するまでの間だ。
この時に超高速で移動されたり攻撃されないように、強固な椅子に固定するとともに、『ドワーフ銀』を抜いた者がそのまま胸の前で『ドワーフ銀』を構えていることにした。
そうすれば、もし仮に吸血鬼が動いたとしても自分で『ドワーフ銀』を胸に刺してしまうことになるからだ。
この作業は、俺とニアと、クリスティアさんとエマさんの四人で行うことにした。
他のみんなは、この基地の中を自由に見て回ることになっている。
といっても……まだなにもないけどね……。
尋問ができるようになったら、アンナ辺境伯とユリア執政官も尋問に立ち会うつもりのようだ。
すべての吸血鬼というわけにはいかないが、中級吸血鬼の三体には立ち会うつもりらしい。
下級吸血鬼はクリステアさんたちに任せて、領城に引き返す予定のようだ。
そこで思ったのだが、よく刑事ドラマなんかである取調室みたいな作りの尋問室があるといいよね。
マジックミラーになっている窓があって、別の部屋から安全に尋問の様子を確認できるという作りになっていれば、すごくいいと思う。
まぁ今すぐにはできないけど……今後そういう部屋も作ってもみようと思う。
問題はマジックミラーだなぁ……
これもあとでミネちゃんやドロシーちゃんに相談してみよう。
俺が思いつくアイデアを、彼女たちに話すと勝手に作り上げてくれそうな気がしてきた……。
ここは開き直って、彼女たちに自由に作り込んでもらうか……
俺は実現したいアイディアだけバンバン言って、丸投げしちゃうのが一番よさそうだ。
どんなものが完成するかというワクワク感もあるしね。
決していつもの丸投げ体質になっているわけではない……決して……。
俺は、本当はそういう技術やスキルを身に付けて、自分で作り込むのが一番楽しいと思っているだ。
だけど……今はそういう余裕がないんだよね……。
のんびりとした旅、畑仕事、ものづくり……いつになったらできるのだろう……。
でも落ち着いたら、必ず実現するのだ!
その時こそは、自分で本当の秘密基地を作ろうかと思っている。
この『竜羽基地』は秘密基地といいつつ……あまり秘密でなくなってきてるからね。
まぁ知ってるのは俺の仲間たちと、信頼のおけるアンナ辺境伯やユーフェミア公爵たちだからいいけどね。公式秘密基地ということで……。
改めて考えると、霊域や大森林がすでに俺の秘密基地みたいなもんなんだけどね。
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