374.画期的な、容器製法。
『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが突然転移してきて、てんやわんやだった朝食会もようやく終わりを迎えようとしている。
後半は、ミネちゃんのフードファイト状態になっていたが、ミネちゃんはひとしきり食べて大満足したようだ。
「それじゃあ、屋台の器を作るすごいアイデアを教えてあげちゃうのです!」
おお……ミネちゃんは、さっきの話を忘れていなかったようだ。
お腹が落ち着いたところで、本当に教えてくれるらしい。
「型を作って、それに流し込んで乾燥させるっていう簡単な方法で、あっという間にいっぱいできちゃうのです!」
ミネちゃんは、鼻の下をこすりながら胸を張った。
人族の天才少女ドロシーちゃんも、興味津々で聞いているが、ハテナマークが浮かんでいる感じだ。
俺もまったくわからない……。
俺たちがあまり反応しないので……ミネちゃんも理解されていないことを察してくれたようだ。
「大丈夫なのです! これから詳しく説明するのです。『魔竹』を細かく削って粉末にするのです。それを『カミラの木』の樹液から作った溶液に混ぜて、型に流し込むのです。日光の下で乾燥させれば、あっという間に出来上がりなのです!」
ミネちゃんは、これでどうだと言わんばかりにニコッと笑った。
さっきよりはわかるけど……
『魔竹』と『カミラの木』がポイントのようだ。
「『魔竹』は知っています! 本で読んだことがあります。魔力を通しやすく、強くてかつしなやかなので武具の素材にもなる特別な竹ですね。そして『カミラの木』は、紙を作る原料になる木です!」
人族の天才、ドロシーちゃんが得意顔で言った。
「さすがドロシーちゃんなのです! その通りなのです」
ミネちゃんに褒められて、ドロシーちゃんも嬉しそうにニヤけている。
「私もその二つは聞いたことがあるけど……。それで器を作るやり方って、初めて聞いたわ。『ドワーフ』族の秘技じゃないの? 言っちゃって大丈夫?」
ニアが少し心配そうに、尋ねてくれた。
「大丈夫なのです! 『ドワーフ』族の秘技ではないのです。古い時代には、よく作っていたみたいなのです。忘れられているだけなのです。それに作り方を知っても、誰でも作れるわけではないのです! 魔竹を粉砕するのは、道具を作らないととっても大変なのです。でも道具を作るのは、もっと大変なのです。でも、ミネならすぐ作っちゃうのです!」
ミネちゃんは、任せてくれと言わんばかりに胸を叩いて鼻息を荒くした。
どうも作り方自体は、俺たちに教えても大丈夫な技術なようなので、より詳しく話を聞くことにした。
ミネちゃんの話によると……
『魔竹』を粉末にしたものに、『カミラの木』の樹液を綺麗な湧き水で薄めた溶液を加えて原液を作るのだそうだ。
そして、その原液をあらかじめ作ってある器の型に流し込む。
あとは型ごと天日干しで乾燥させれば、固まって器になるらしい。
型は木製でもいいらしく、乾燥すると型から簡単に剥がせるらしい。
そして型自体も、使い回せるそうだ。
ミネちゃんがベストのお腹の魔法収納ポケットから、現物を取り出してくれた。
ドワーフの里には、古い時代に作ったものがいくつも保存されているそうだ。
それは、軽くてある程度の強度を備えていた……まるで……プラスチックだ!
屋台なんかで使う持ち帰り容器にはぴったりだし、洗えば繰り返し使うこともできる。
素晴らしい!
これは……色々なことに使えそうだ!
俺的には……かなりの大発見だ!
ただミネちゃんの話では、問題が一つあり『魔竹』の確保が問題になるようだ。
『魔竹』は、魔素の多い場所にしか生育してないようだ。
魔素の多い場所ということは……それすなわち魔物の領域ということだ。
まぁ必ずしも魔物の領域になるわけではないだろうが、事実上、ほぼ魔物がいるはずだ。
もっとも俺たちなら問題なく、採取してくることはできるけどね。
現代では『魔竹』そのものが、少なくなっているようだ。
そういえば……『魔域』である大森林には、竹もあった気がする。
あれが『魔竹』だったのかはわからないが、大森林を探せばきっとあるに違いない!
近くに『魔竹』の生息地がなければ、大森林で調達することはできそうだ。
ミネちゃんたち『ドワーフ』は、武具作りや道具作りにも『魔竹』を使うことがあるようで、生息地はいくつか知っているそうだ。
ピグシード辺境伯領内にも一つあって、そこは魔物の領域なので使っていないらしい。
だから教えても大丈夫とのことだ。
とはいっても、勝手に教えちゃって大丈夫なんだろうか……。
まぁ実際に教えてもらうときは、族長のソイルさんやご両親に確認はとるけどね。
そしてミネちゃんの話では、数回使う程度の耐久性でいいなら『魔竹』ではなく、普通の『竹』を使っても、同じようなものが作れるらしい。
その現物も出して見せてくれた。
これは……紙コップとプラスチックコップの中間みたいな感じだ。
屋台で使うのは、これで十分かもしれない。
行楽のお供にも大最適だろう。
『炊き出し』なんかでも、使い捨て容器としていいかもしれない。
ただこの『竹』を使った廉価版というか……簡易版でも製造するには、竹を粉末にする必要があり、いかに細かく粉砕できるかがポイントになるとのことだ。
それがしっかりできないと、ちゃんとした製品にならないそうだ。
その粉砕機を作るには、かなりの技術力が必要らしい。
俺が元いた世界でも、竹を機械に入れて細かく粉砕し、竹パウダーを作るというものがあった。
自治体などでも、竹林対策で導入しているところもあった。
おそらく、それと似たような装置なのだろう。
確かに、技術力が必要そうだ。
いくつもの刃を強力に回転させないと、粉砕して細くすることはできないだろうからね。
特に『魔竹』は、普通の『竹』よりも強くてしなやかということだから、相当な技術と工夫が必要なのだろう。
普通の『竹』は、ピグシード辺境伯領内の山などで確認されているようなので、すぐに見つけられるだろう。
ただ『領都』の近くには、ないようだ。確かに俺も見たことがないからね。
『マナゾン大河』沿いの都市『イシード市』の近くには、『竹』の生えている山があるらしい。
近くで見つからなければ、そこで調達すればいいだろう。
もう一つの材料の『カミラの木』は、比較的どこにでもあるようだ。
紙を作る材料となる木の一つのようだ。
『カミラの木』は、幹や枝が必ずきれいな三叉になるのだそうだ。
元の世界の和紙を作る原料になる『ミツマタ』という木に、性質が似ているようだ。
違う植物だとは思うが……もしかしたら、その系統の植物というか……異世界版といったところかもしれないね。
俺は教えてくれたミネちゃんにお礼を言って、改めて今度ゆっくりレクチャーしてもらうことにした。
そして、なによりも重要な『竹』や『魔竹』を粉砕する装置の制作をお願いした。
もっとも正式には、族長のソイルさんとご両親に話をしてからだけどね。
これでようやく長かった朝食会が終わりを告げた。
これから俺たちは、秘密基地で『竜羽基地』に出向いて、封印してある吸血鬼たちの尋問の準備をすることになっている。
行くのは俺の仲間たちと第一王女で審問官のクリスティアさん、護衛のエマさん、そしてドロシーちゃんだ。
「ミネも行くのです! リリイとチャッピーあるところ、ミネの姿もあるのです! もちろんドロシーちゃんの姿もあるのです!」
親指を突き出して握った右手を胸の前でクロスするという……“任せて”みたいな感じのよくわからない残念ポーズを決めている。
変なポーズでドヤ顔って……この残念感……誰かを思い出す……
妖精族の子供って、みんなこんな感じなんだろうか……。
まぁニアさんは、もう子供じゃないけどね……。
ミネちゃんには、大人になるまでに……残念感を払拭してほしいものだ……。
それにしても……やっぱりこういう展開になるよね。
ここで大人しくミネちゃんが引き下がるわけはないし……。
もう連れて行くしかない展開なのだが……。
「ミネちゃん、族長やお父さんお母さんには、ちゃんと許可を取ってきてるんだよね?」
時間が長くかかりそうなので、一応ミネちゃんに確認してみた。
「だ、大丈夫なのです。毎日行くとミネは宣言してあるのです!」
ミネちゃんはそう答えたが、その後俺と視線を合わせない……本当に大丈夫なんだろうか……?
いや、ダメなやつだろう……
心配しているといけないので、俺はサーヤに念話を入れて、俺の代わりに『ドワーフ』の里に行ってもらうことにした。
ほんとは俺が行きたいところだが、今みんなの前からいなくなるわけにはいかないからね。
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