368.報告と、対策。

 家畜動物たちの移動も終わって、一旦の移動作業は終了した。


 あとは、現在構築中の個室などが出来上がれば、この地下街も完成だ。


 早くも大浴場は完成し、順番に温泉に入っているようだ。

 みんなさっぱりして気持ちよさそうだ。


 俺たちも入りたかったのだが……まだやることがある。


 一旦ピグシード辺境伯領の『領都』に戻って、アンナ辺境伯たちに報告を上げないといけないからね。


 この地下街の整備と管理は、しばらく『アラクネロード』のケニーに任せようと思う。


 今回領城に連れて行くのは、ニア、リリイ、チャッピーだけにする予定だ。

 ちなみに『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんは、俺たちが『ピア街道地下街』に移るときに、『ドワーフ』の隠れ里がある『大精霊の神殿』に転移で帰っている。

 族長とご両親が心配しているだろうから、一旦帰るように説得してなんとか納得してもらったのだ。

 若干駄々をこねていたが、今回の大活躍を褒めて、また来てもらいたいからご両親と族長を安心させてほしいと説得したのだ。

 そして吸血鬼についての情報があったら、聞いてきてほしいと頼んだことも大きかったと思う。

 頼まれ事をされるのが嬉しいようで、「任せてなのです!」と言って張り切って帰ったからね。


 領城から出かけるときは、『飛竜船』で出かけた体になっているが、一時的に『領都』に戻るときには『飛竜船』を使わずに、飛竜に騎乗して帰ってきたことにしようと思っている。


 いつものように『領都』近郊の転移用ログハウスに転移し、そこから飛竜に騎乗して領城に向かう予定だ。






 ◇






 俺たちは領城に到着し、早速アンナ辺境伯たちに『ヘルシング伯爵領』内の『正義の爪痕』のアジトでの顛末を説明をした。


 領城の会議室に集まってもらったのは、いつものようにアンナ辺境伯、セイバーン公爵家次女で執政官のユリアさん、第一王女で審問官のクリスティアさん、その護衛のエマさん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんだ。

 もうかなり遅い時間だが、早く報告したほうがいいと思って失礼を承知で集まってもらったのだ。


 今回も俺のあげた報告がめちゃくちゃすぎたのか……みんな、ただただ聞き入って呆然とするだけだった。


 特に構成員が吸血鬼に変性されていたこと、さらには吸血鬼が『死人薬』を使うと、弱点を克服した『吸血魔物』になるという話に衝撃を受けていた。


 そして本命の『血の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』には、遭遇できなかったこと及び、その手がかりが発見できなかったことも報告した。


 また『血の博士』直属の急襲部隊である『ブラッドワン』は、まだ別にいる可能性があるという俺の私見を付け加えた。

 今回保護した構成員たちは、あくまで拐われてきた人たちであり、元は農民とかで戦闘訓練をしていた状態だからエリート部隊とは思えない。

 吸血鬼として仮死状態にして封印している三十五人の構成員も、エリート構成員には見えなかった。

 後から現れた三人の『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』は、エリート急襲部隊の『ブラッドワン』である可能性はあるが、今まで見た急襲部隊とは服装が違っていた。

『武器の博士』の急襲部隊である『ソードワン』も、『薬の博士』の急襲部隊である『ドラッグワン』も、『道具の博士』の一番弟子男と一緒にいた急襲部隊『アイテムワン』も、多少の違いはあっても同じ基調の制服のようなものを着ていた。

 今回はそれとは、全く違う装いだった。

 まぁ服装が統一されている保証がないから、あの三人が『ブラッドワン』である可能性はあるが、それにしても急襲部隊が三人しかいないはずはない。

 他にいるはずだし、普通に考えれば『血の博士』の近くにいると思うんだよね。



 新たな情報を得る可能性は、封印した吸血鬼たちの仮死状態を解いて尋問するほかないとも告げた。

 そして、危険はあるがクリスティアさんに尋問をお願いしたいという話をした。


 もちろん彼女は二つ返事で了承してくれた。


 吸血鬼たちは封印しているとはいえ危険なので、 セイバーン公爵領内の『妖精女神の使徒』の秘密基地『竜羽基地』に移送したという話をした。

 ユーフェミア公爵とアンナ辺境伯公認の秘密基地なのだが、今回のように危険な取り調べなどを行う場所として最適で、使用許可をもらっていてよかったと改めてお礼を言った。

 アンナ辺境伯からは、確かに領城に直接連れてくるよりもいいと評価してもらい、素晴らしい判断だと褒められた。


 すぐにでも情報を得たいという気持ちはみんな同じようで、クリスティアさんと護衛のエマさんはすぐにでも『竜羽基地』に出発すると言ってくれた。


 他にも吸血鬼にされる寸前だった捕虜の百三人を救ったことと、すでに吸血鬼化され構成員にされていた百五十三人を保護したことも伝えた。


 ただこの合計二百五六人は、いろいろな懸念があるので今回は領域に連れてこないで、妖精族の秘密の施設に匿ってもらったと説明した。


 この件についても、アンナ辺境伯を始めみんな俺の判断を尊重し、賛同してくれた。

 そして、クリスティアさんによる尋問をする必要もないだろうということになった。

 一般構成員 であり『下級吸血鬼 ヴァンパイア』五十五人と、幹部と思われる『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』が三人いるから、その尋問で十分だろうと判断してくれたのだ。


 今回保護した者たちの今後の処遇については俺の判断を尊重するし、できる限りの協力はするとも言ってもらえた。


 俺としては、なんとか普通の生活に戻してあげたいと思っている。

 吸血鬼一歩手前の状態である『適応体』状態を元に戻す方法はないか、そして吸血鬼になってしまった状態を元の人間に戻す方法はないかということをみんなに投げかけた。


 みんなも同じことを思ってくれたらしいのだが……解決するような知識は誰も持っていなかった。


「一番吸血鬼に関して詳しいのは、やはりヘルシング伯爵です。あの家は代々『ヴァンパイアハンター』ですから、吸血鬼について最も詳しいはずです。ヘルシング伯爵に尋ねるのが一番かもしれません。ただ……今の評判では少し不安がありますが……」


 アンナ辺境伯がそう教えてくれた。


 やっぱりそうだよね……。

 代々吸血鬼と向き合ってきたわけだから、誰よりも知識があるはずだよね。


 やはりこの打ち合わせが終わって、秘密基地での尋問の段取りが済んだらヘルシング伯爵領にすぐに戻ったほうがよさそうだ。

 予定通りヘルシング伯爵領の領都に向かい、伯爵本人に面会をするしかないだろう。

 協力してもらえるといいんだが……。



 アジトの押収物についても、訓練がメインのアジトということで『階級』の低い武器や食料や家畜がほとんどで、目ぼしいものは無かったと報告を上げた。

 それらの押収品については、俺の方で処分して構わないと許可をもらった。


 アンナ辺境伯たちも、今回のアジトの壊滅については内密にして様子をみるかたちにしたいと考えていたようだった。


 だが、『吸血魔物』という極めて重要な情報があるので、さすがに王都に報告しないわけにはいかないという話になった。


 そりゃそうだよね……。


「大丈夫ですわ! わたくしがなんとかいたします。そうですわね……あまりおおっぴらに虚偽の報告はできませんから……押収した転移の魔法道具の登録先に転移してしまって、偶発的にアジトを壊滅させてしまったことにしましょう。普通なら誰も信じない話ですが、グリムさんがやったといえば……なんとかなるでしょう。それが他領であるヘルシング伯爵領であるとは、知らなかったということにしましょう。ヘルシング伯爵に礼儀を欠いたかたちになったが、決して意図したことではないということにして、しばらくは国王とその側近のみに留めてほしいと私の方からお願いいたしますわ。まぁとにかくお任せいただければ大丈夫ですわ!」


 クリスティアさんはそう言うと、俺にウィンクした。


 出た……リアルウインク……やっぱ流行ってるのか……?


 まぁそれはともかく、クリスティアさんに任せよう。

 クリスティアさんなら、上手く辻褄を合わせてくれるだろう。

 情報を伝えないわけにいかないからね。

 それにしても、いつもながら見事な判断だ。

 そして審問官なのに……微妙に嘘と真実の狭間というか……まぁぶっちゃけ嘘なんだけど……うまく話を作ってまとめてくれる。

 俺にとってはありがたい話だ。

 全て丸く収めるためだし、悪い嘘じゃないと思うし……。

 国の中枢権力に一番近い人が、こんな感じで話が分かる人だと、本当に助かるんだよね。

 ありがとう! クリスティアさん。


 そんな気持ちで、ついクリスティアさんの方を見つめてしまったら……


 なぜかまたウインクをされてしまった……。


 そして次の瞬間には……ニアに『頭ポカポカ』攻撃をされてしまった……どうしてよ……?


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