360.それって、バズーカ?

 俺は『波動収納』から、転移用のログハウスを出して設置した。


 これは事前にサーヤの転移先として登録してあるもので、サーヤたちを呼ぶために設置したのだ。


 近くで待機していたサーヤたちを、早速念話で呼んだ。


 やってきたのは、『ロイヤルピクシー』のニア、『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』のオリョウ、リリイ、チャッピー、『アメイジングシルキー』のサーヤ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルのはずだが……


 あれ……一人多い……なぜにミネちゃんが……


『大精霊ノームの神殿』の守人の一族である『ドワーフ』のノームド氏族の族長の孫娘のミネちゃんが、一緒に来ていたのだ。


「こんにちはなのです!」


 ミネちゃんが何事もなかったかのように、普通に俺に挨拶をする……。


「ミネちゃん……どうして?」


「遊びに来たのです。毎日遊びにくるって約束したのです! 昨日は来れなくて、ごめんなさいなのです。抜け出せなかったのです。でも、もう大丈夫なのです! いい方法を見つけたのです! これからは毎日来れるようにがんばるのです!」


 まぁ確かにそんな話をしたけど……やっぱり本気だったのか……。

 そして……絶対無理矢理きてる感じだけど……ご両親や族長は心配していないんだろうか……



「お父さんやお母さん、族長はちゃんと許可してくれたの?」


 念のため確認しておく。


「も、もちろんなのです。ちゃんとお出かけすると言って出てきたのです……」


 ミネちゃんはそう言って、なぜか視線を俺から外した……。


 怪しい……これ……ちゃんと許可とってないやつだよね……絶対……。


 しかも、こんな危険なところにきちゃって……


 ミネちゃんは、レベルが17だ。

 子供として見たらレベルが高いけど……

 犯罪組織のアジトに来ていいレベルではない……。

 まぁ全て拘束した後だからいいけど……。


「旦那様、すみません。ミネちゃんはついさっき来たのですが、一人で置いてくるわけにもいかず連れてきてしまいました」


 サーヤが申し訳なさそうに言った。


「いいよ。サーヤのせいじゃないし」


 俺が念話を入れたとき、すべての構成員を拘束して安全を確保したという話をしたから、連れてきたというのもあるんだろうしね。


 それにしても……どうしてヘルシング伯爵領にいたリリイたちのところに来れたんだろう?

 転移の魔法道具は、事前に登録してあるところにしか転移できないはずだが……


「ミネちゃん、どうやって転移してきたの?」


「リリイとチャッピーにあげた『転移の羅針盤 百式 お友達カスタム』を転移先の一つとして登録してあったのです! リリイとチャッピーのいる所には、いつでも行けるのですよ!」


 ミネちゃんはそう言うと、胸を張って鼻息を荒くした……。


 なるほど……そういうことか……。

 事前に転移先として登録してからプレゼントしてくれたわけか……抜かりはないわけね……。


 それにしても、そんなことができるのか……すごいなぁ。

 全員に欲しいなぁ……

 十二人分までは登録できるはずだから……仲間たちに渡しておけば、なにかあったときにすぐに駆けつけられる。


 それにミネちゃんなら、十二カ所という制約もすぐクリアして増やしてしまいそうだ。

 前にも思ったけど、サーヤの負担も大きく減らせるし、本気でミネちゃんに発注してみよう……。

 落ち着いたら、族長のソイルさんにもお願いしてみよう。



 ミネちゃんが来てしまったのは想定外だが、来ちゃったものはしょうがない。

 予定通り、アジトの探索にかかるか……


 そんな時だ……


 キュイイイインッ————


 突然、甲高い音が鳴り響いた!


 なんだ……この超音波……


 蝙蝠……?


 この超音波は蝙蝠からか……?


 蝙蝠が四体飛んでくる!


 ——なに!


 向かってくる蝙蝠に気を取られ気づくの遅くなったが、『暗示』にかかっていなかった根っからの構成員三十五人が起きて暴れだした!


 『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与していたが、この超音波によって目覚めたようだ。


 そして目が赤く光っている。


 やばい……


「みんな、今動き出した構成員は吸血鬼だ! 殲滅していいよ!」


 すぐに仲間たちに殲滅の許可を出す。

 そして……


「千手盾、ミネちゃんを守れ!」


 俺は『魔盾 千手盾』を出し、『ドワーフ』の少女ミネちゃんを守るように命じた。


 なに!


 今度は『暗示』状態を解除したはずの百五十三人の構成員が暴れだした!

 やはり目を赤く光らせる。

 さっきの超音波による影響か……

 せっかく『暗示』を解除したというのに……元に戻ったのか?


 この百三十五人は、倒さずに拘束しないと……


顕現誘導リアルナビ!」


 俺は『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーを顕現させた。


「ナビー、この構成員たちを無力化して拘束してくれ!」


「了解しました。空間魔法の巻物『不可視の牢獄』を使って、空間断絶結界に閉じ込めます! 」


 おお、さすがナビー。


 ナビーは『波動収納』から魔法の巻物を取り出し、すぐに広げた!


 俺は、なるべく一塊りにまとまるように、離れた場所に移動した構成員を高速移動でつかまえて、中心部分に放り投げた。

 リンとオリョウとトーラにも念話で指示して、協力してもらった。


「捕らえよ!断絶空間」


 ナビーがそう叫ぶと、構成員たちは不可視の牢獄に閉じ込められた。


 まだ『ヴァンパイア』化してない捕虜たちは、操られていないようだ。


 その間にも、暴れている三十五体の『ヴァンパイア』とニアたちが戦っている。


 『ヴァンパイア』たちは、レベル20前後なので全く問題にならないはずなのだが……


 倒せていない……。


 『ヴァンパイア』もアンデッドの一種であり、普通には倒せないようだ。

 すぐに再生してしまう。

 顔を吹き飛ばしても、しばらくすると再生してしまうのだ。


 確か……『ヴァンパイア』を倒すのは、太陽の光で燃え尽きさせるか、『銀』もしくは『ドワーフ銀』を胸に打ち込んで活動を停止させるという方法があったはず。


 そう思った時だ——


 バゴンッ——


 大きな発砲音が鳴った!


 え! ……なんと『ドワーフ』の少女ミネちゃんが、肩に筒状のものを担いでいる。

 なんとなく……バズーカみたいな感じだけど……


 そして前方にいたヴァンパイアたちは、体から煙を上げて苦しんでいる。


 そういうことか……。


 ミネちゃんは、散弾というか……拡散バズーカ砲を発射したようだ。

 しかもそれが全て『ドワーフ銀』でできた実体弾のようだ。

『ドワーフ銀』を拡散発射して、範囲攻撃をしたらしい。


 パチンコ玉ほどの細かな『ドワーフ銀』の雨が、真正面から『ヴァンパイア』たちを襲ったのだ。

 拡散発射されたことにより、適度に威力が弱まったために体を貫通することなくとどまっている。

 これにより『ヴァンパイア』に、継続ダメージを与えているようだ。


 運悪く胸の中央部分に弾丸を食らった『ヴァンパイア』は、活動停止してしまっている。

 それ以外の者は、煙を上げて苦しんでいる。


「リリイ、チャッピー、『ヴァンパイア』の胸に突き刺すのです!」


 ミネちゃんはそう叫ぶと、リリイとチャッピーにベルト状になった『ドワーフ銀』製と思われるダガーのセットを渡した。


 リリイとチャッピーはそれを受け取ると、腰に装着した!

 本当にベルトになっていたようだ。


 そして二人は、活動停止していないヴァンパイアたちの胸に向けて、ダガーを投げた!


『投擲』スキルの威力もあり、百発百中だ!


 すべての『ヴァンパイア』は、胸に『ドワーフ銀』のダガーを刺され活動を停止した。

 石のように硬直し、倒れている。


 よし! なんとか鎮圧できたようだ。


 それにしても、『ドワーフ銀』の効果はすごい!

 ある意味、ミネちゃんがいてくれてよかった。

『ドワーフ銀』がなければ、もっと手間取っていただろう。


 それにしても、あのバズーカ砲すごいな……

 小さな弾丸を拡散発射させるなんて……どうやって思いついたんだろう……。

 ……天才すぎる!


 異世界に、拡散バズーカ砲の知識なんてないと思うんだけど……

 自分で思いついたのかな……。

 まぁでも過去に転移者や転生者が来ていたみたいだから、伝えられている可能性もあるけどね。



「な、何者だ!? 貴様らいったい何者だ!? ……まさか『ドワーフ銀』を持っているとは!」


 今度は、宙を舞っていた四体の蝙蝠の目が赤く光った!


 やばい……まだあの蝙蝠が残っていた!




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