300.国王からの、報奨金。

『イビラー迷宮』を後にして領城に戻ると、早速、アンナ辺境伯に呼び出された。

 まだ朝一番といっていい時間帯なんだが……会議室で話したいことがあるそうなのだ。


 会議室に行くと……昨日のメンバーが集まっていた。

 吟遊詩人のアグネスさんとタマルさん、それに元冒険者パーティのローレルさんたちは、昨夜は領城に泊まってもらった。

 そして、みんなで楽しく朝食をとったのだ。

 今は、中庭で子供たちと朝の稽古をしているようだ。


 ここにいるユーフェミア公爵を始め、昨日あんなに飲んだのに誰も二日酔いになってないとは……なんて人たちなんだ……。


 話というのは、ユーフェミア公爵からの俺に対する連絡事項のようだ。


「あんたに報奨金が出ることになった。これは王国から直接の報奨金だ。『道具の博士』を討伐したこと及びそのアジトの壊滅、構成員の大量捕縛、証拠品の確保、これらの功績に対して国王が直接報奨金を出してくださるということになった。まぁ……クリスティアが魔法通信に割り込んできて、直接嘆願したからだけどね」


 ユーフェミア公爵がそう言いながら、第一王女で審問官のクリスティアさんに視線を送る。


「そんな! 伯母様、その話はやめて下さい!」


 クリスティアさんが頬を赤らめ、手をバタバタさせている。


「あいつは、娘に弱いようで言いなりだからね。国王も何もあったもんじゃないよ! おまけにそれだけの功績を出したなら、爵位を上げるという話に対しても、クリスティアが必死で止めてくれたお陰で、あんたの爵位が上がらずに済んだのさ。普通なら陞爵は確実で避けられないところさ。もっとも嫌がる者などあんたぐらいしかいないけどね」


 そう言ってユーフェミア公爵は、俺をギロリと見据えた。


 俺は苦笑いするしかなかった……。


「はじめは国王も、陞爵を嫌がることを全く理解出来ないでいたからね。それをクリスティアが必死に言い含めたのさ。ただし……そのせいで……あんたには可哀想だが、別の意味で国王に目をつけられちまったけどね。クリスティアも分かりやす過ぎて……いかに鈍いあいつでも気づくわな……まぁそこは私が上手く誤魔化しといたけどね……」


 ユーフェミア公爵がそんなことを言って、ニヤけ顔をクリスティアさんに向けた。


 少し意味不明だが……国王に目をつけられてしまったって……どういうことなんだろう……。

 俺……悪いこと何もしてないと思うんですけど……。

 まぁユーフェミア公爵が誤魔化してくれたと言っていたから大丈夫なんだろうけど……

 話を聞いてる限り、どう考えても国王よりユーフェミア公爵の方が強そうだからね。


 そして報奨金の額を聞くと……なんと! 二十億ゴルとのことだった!


 幹部の討伐とアジトの壊滅だけでもこのぐらいの価値はあり、それに加え構成員の大量捕縛や証拠品確保の功績を考えれば、もっと貰ってもおかしくはないという話だった。

 ただ爵位を上げないなら、これぐらいにしといた方がいいという判断でもあったらしい。

 それ以上の報奨金を出すような功績なのに、陞爵しないのは筋が通らないということのようだ。


 まぁ俺としては厄介事に巻き込まれたくないので、爵位は今の最下級のままがいいからね。

 報奨金も二十億でも十分すぎる金額だ。


 今日はなんか……お金がもらえる日というか……お宝デーというやつか……。


 何か視線を感じて……顔を向けるとクリスティアさんが真っ赤な顔をしながら……もじもじしている……。

 なんか……ちょっと可愛いかも……。


 そうだ……お礼を言わないと……


「クリスティアさん、いろいろとご配慮いただいき、ありがとうございました。心より感謝いたします」


 俺はそう礼を言ったのだが……いつになく可愛い感じのクリスティアさんを見て……つい微笑んでしまった。


 そしてなぜか……次の瞬間、ニアに頭をポカポカされた……。


 そして何故か……シャリアさんたちセイバーン家の三姉妹が……ぶつぶつ言っている……。

 ちょっと怖いんですけど……。



 そしてもう一つ、ユーフェミア公爵から報告があった。


『道具の博士』の助手をしていた者たちについては、犯罪奴隷とした上で、上級研究員のドロシー嬢の下で働かせる事になったらしい。

 助手として働いていた知識を、設備の解明などに役立てるためのようだ。


 その他の構成員たちは、王都に送られるようだ。



 ちなみに、貰った報奨金は半分は事業資金に当て、残り半分は仲間たちの将来のための貯金にしようと思う。

 この前から、仲間たちのための家族貯金を密かに始めていたのだ。


 俺の『波動収納』のフォルダの中に仲間たちの名前のフォルダを作って、お金などを入れるようにしているのだ。

 それと共に、万が一俺が突然この世界から消えるようなことが起きたときに、仲間たちが困らないように、『霊域』の俺の家に秘密の地下室を作って、仲間たちの宝箱を並べて、そこにも入れるようにしているのだ。


 あと人型メンバーについては、『フェアリー銀行』に口座を作って、そこにも入れるようにしている。


 俺が手に入れたお金のうち生活や事業資金に回す分を除いた貯蓄分を、俺を含めた仲間たちで均等に割って、かつそれを三カ所に振り分けてお金を貯めておくようにしたのだ。

 俺がいる限りは……俺の『波動収納』が一番安全なのだが……

 突然この世界に来たように、突然いなくなる可能性もゼロでは無いからね。


 『霊域』も俺がいる限りは、守護力が働いていて一番安全だが、俺がいなくなった時点で守護力も働かなくなるだろうから、一番安全ではなくなる。

 だが、それでも今のレベルが上がった仲間たちなら大丈夫だと考えたのだ。


 お金もやろうと思えば『波動複写』でいくらでも増やせるので、今後の状況次第では……俺が突然消えてしまった場合の緊急避難用として、いくつかの場所に『波動複写』でコピーした金貨などをストックしておこうと思っている。



 それと……人型メンバーについては、自分である程度自由に買い物ができるように、お財布がわりの硬貨袋を持たせて、お小遣いを渡している。


 アッキー、ユッキー、ワッキーなど未成年でも働いてるメンバーには、お給料が出るのだが、成人するまではサーヤとミルキーで管理してあげることになっているのだ。

 そのため、毎週お小遣いを渡すかたちになっている。


 リリイとチャッピーにも一応硬貨袋を持たせているのだが……今のところ自分では買い物はしていないようだ。


 なんか……凄いお金の使い方をしそうで……ちょっと怖いのだが……。

 まぁニアやサーヤが見てくれているので、大丈夫だろう。



 アンナ辺境伯からは、領城の防衛戦にで貢献してくれたアグネスさんとタマルさん、そしてローレルさんたち五人には、それぞれ一人当たり二千万ゴルの報奨金を出すという報告があった。


 そして『ナンネの街』を救った俺たちに対しての報奨金として、六千万ゴルを出して合計で二億ゴルを出すという話があった。


 名前だけとはいえ守護である俺が街を守るのは当然のことで、報奨金を貰うのはおかしな話だと思うので固辞したのだが……

『正義の爪痕』のアジトを壊滅した報奨金として、受け取ってほしいと言われた。


 今回新たに捕縛した構成員たち十人についても、すでに捕縛してある『道具の博士』のアジトにいた構成員たちと共に王都に送ることになった。


 この構成員たちについても、報奨金を国王から出させるとクリスティアさんが言っていたのだが……これ以上貰うのも申し訳ないので固辞しておいた。


 クリスティアさんはなぜか……凄く残念そうな顔をしていたが……。


 ただここで、王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんから提案があった。


 ちなみに昨日の食事会の席で、ドロシーちゃんから“ちゃん”付けで呼んでほしいと要望があったので、ちゃん付けになっている。


 構成員たちの中には、もしかしたら洗脳により構成員にされている者、もしくは『死霊使い』だった吟遊詩人ジョニーさんのように人格を書き換えられている者がいる可能性がある。

 それを確かめるために、王都に送る前にドロシーちゃんがいくつかテストをしたいとのことだ。


 ということで……領城の中に簡易的な王立研究所のラボを作り、テストをすることになった。

 問題なければ、その後に王都に送るというかたちになった。


 さすが……王国一の天才ドロシーちゃんだ。

 今までの資料を、しっかり理解しているようだ。

 男は洗脳して構成員にする場合があるという証言があったからね。

 今回捕まえた構成員たちも中にも、洗脳されている者が入っている可能性はあるからね。


 もし構成員たちの中に、洗脳状態になっている者がいて、それを元に戻せるなら……たとえ数人であってもそれに越したことはない。

 洗脳の状態であったとしても、無罪放免というわけにはいかないまでも、待遇その他が考慮される可能性が高いからね。

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