294.引き出した、情報。

 俺はサーヤと共に、エリンさん一家を大森林に連れて行って、『アラクネ』のケニーに今後のことを頼んだ。


 そしてすぐに『ナンネの街』に戻ってきた。


 サーヤとミルキーたちには、この『ナンネの街』での商会の営業開始の準備を始めてもらうことにした。


 亡くなった『死霊使い』のジョニーさんの妹弟であるギャビーさんとアントニオ君は、吟遊詩人のアグネスさんたちが来るまでの間、内勤の仕事を中心に商会の立ち上げ準備を手伝ってもらうことになった。


 なにか手伝わせてほしいと申し出てくれたからだ。


 『ナンネの街』の商会幹部として働いてもらう予定の人たちにも、吟遊詩人のアグネスさんたちと共に近々来てもらう予定だ。



 俺はこれから、この街の外壁の外側に作る荘園の構想をまとめてしまう予定だ。

 早く決めてしまわないと、準備が始められないからね。


 それをミリアさんに説明し了承を得たら、後の段取りはサーヤたちにお願いしようと思っている。






  ◇





 俺は、半円形の外壁と同心円状に荘園エリアを設定して、道を整備する場所も決めてしまった。


『ナンネの街』に至る街道から見て東側に同心円状に広がるエリアは、『フェアリー牧場』と『フェアリー農場』の用地とした。


 その中で一番南側のエリア……東西に伸びる領境の壁に近い部分が『フェアリー牧場』のスペースとなる。

 ここには以前『道具の博士』のアジトだった『アイテマー迷宮』で飼育されていた動物たちを飼育するスペースと、『シルクキャタピラー』の飼育スペースを作る予定だ。

 ちなみに『道具の博士』のアジトから保護した動物は……


 牛——超ロン毛で前髪があり、イケメンな雰囲気を出している『メガハイランド』という品種。毛の質が良く紡績もできる可能性がある。七十五頭。


 ヤギ——ロン毛の『カシミヤヤギ』だ。上質な糸が紡げる品種。六十七頭。


 鶏——トサカも含め全身が真っ黒な珍しい種類。卵は魔力を回復させたり上昇させる効果があるとされている。六十三羽。


 ガチョウ——卵用。五十七羽。


 同じく保護した動物の中に、荷引き動物の『走鳥』が八体いる。

 全身真っ白の珍しい個体だ。

 この子たちは牧場ではなく、荷引き動物として『フェアリー運行』に所属して、乗合馬車を引いてもらおうと思っている。



 この『フェアリー牧場』の隣の北よりのスペースは、『フェアリー農場』となる。

 一般的な野菜と何種類かの果樹を植える。

 特別区画として、チョコレート用のスペースを作る。

 ここが一番のメインとなる場所だ。

『カカオ』『カシューナッツ』の木を植え、ピーナッツ用の落花生の栽培面積もかなり広く取ってある。



 街道から見て西側にあたる同心円状のスペースは、ピグシード家直営の荘園スペースとなる。


 このスペースも基本的には、この街の守護である俺が管理することになっているのだが、実際は文官の人たちに運営してもらうことになる。


 東西に伸びる領境の壁に近い一番南側のエリアは、牧場荘園となる。

 元々いた動物たちを保護したり、他の市町で生き残っていた動物たちを移して飼育する。

 今までは、仮の飼育スペースを街中の更地に作り飼育していた。

 牛、羊、ヤギ、鶏という一般的な動物たちだが、この牧場荘園には他にはない馬の飼育スペースを作る予定だ。

 馬を繁殖して、領軍の騎馬にしたりするためだ。

 元々『ナンネの街』には、馬を繁殖させる荘園があったので、それを活かすかたちにした。


 この『牧場荘園』の北隣には、『野菜荘園』『穀物荘園』を作る予定だ。

 野菜と穀物は、この街の人たちへの供給用で幅広く色々な野菜を作り、穀物は小麦を中心とした麦類を作る予定だ。


 そして、その隣のスペースで街道に隣接する場所には『果樹荘園』を作る。

 ここは元々街に一番近い『果樹荘園』の村があった場所だ。


 一部の果樹が生き残っているので、そのまま利用することにしたのだ。

 そしてなんと……ここに残っている果樹とは……マンゴーなのだ!


 俺の大好きなマンゴー!


 もう実が成っている…………考えただけでよだれが……。


 そしてもう一つ、俺の好きな果物……パイナップルも生産していたのだ!


 とのことで……この『果樹荘園』はマンゴーとパイナップルをメインとした荘園にしようと思っている。



 街道から西側のピグシード家直営荘園を作るエリアには、川が流れている。

 これを有効利用し、同心円状の区画をもう一つ外側に拡大したエリアを作って、『水田荘園』も作る予定だ。


 また川に近いの一部のスペースは、『フェアリー水産』のスペースにさせてもらう予定だ。

 この街にも魚や小エビなどを提供してあげたいからね。川漁業用のスペースということだ。


 将来的に余裕ができたら、ピグシード家直営荘園スペースにもチョコレート用の荘園を作って、生産体制を拡大させたいと考えている。



 俺はこれらの計画をミリアさんに説明し、問題なく了承を得た。



 丁度そんな時に、クリスティアさんとエマさんがやってきた。


 捕縛した『正義の爪痕』の構成員たちの尋問を終えたとのことだった。


 そこで俺とミリアさん、クリスティアさん、エマさんは、飛竜を飛ばして一旦領都に戻ることにした。


 アンナ辺境伯に、尋問でわかったことを説明するためだ。


 今回はニア、リン、シチミ、リリイ、チャッピーと、新しく仲間になった飛竜の中から十体を連れて行くことにした。


 帰ってくるときに、吟遊詩人のアグネスさんたちや『フェアリー商会ナンネ支店』の立ち上げメンバーを乗せてこようと思っているのだ。






  ◇






 俺たちは領城に戻り、アンナ辺境伯に挨拶をして、共に会議室に向かった。


 最初にクリスティアさんから『正義の爪痕』の構成員たちから聞き取りした情報の報告があった。


 幹部構成員ではないため、大した情報は持っていなかったようだが、ある程度のことは判明したようだ。


 当初の予定は、やはり『土使い』の女性の力を使い『ナンネの街』の地下に秘密施設を作り、密かに街を支配する計画だったらしい。


 それが『道具の博士』のアジトが壊滅し、捕らえられたという情報が入って、『道具の博士』の奪還と押収された品を破壊する必要が生じ、急遽予定を変更して今回の行動に出たようだ。


 この事がなければ、『ナンネの街』の地下施設を拠点に、領都を含めピグシード辺境伯領全域に地下施設を作り、最終的には領自体を手中に収めようとしていたらしい。


 なぜピグシード辺境伯領を狙ったのかは、構成員たちではわからないようだ。

 悪魔の襲撃により混乱している状況を狙ったのか……

 もしかしたら彼らの目指す『マシマグナ第五帝国』の建国用地として狙ったのかもしれない……

 尋問に当たったクリスティアさんも、そんな見立てをしていた。


 それにしても……未然に防げて良かった。

 あの『土使い』の女性のスキルを使われて、領内に縦横無尽に地下道や地下施設を作られたら大変なことになっていただろう。


 まさに……神出鬼没のテロ組織になっていただろうからね。


 街の中に突然奴らが現れたら、大きな被害も出るだろうし。

 今回は交渉するための人質にする必要があったから敢えて殺さなかったようだが、初めから殺すつもりで攻めてきていたら大変な被害になっていたはずだ……。

 考えただけで恐ろしい。

 本当に地下施設計画を防げて良かったし、計画の核になる『土使い』の女性を保護できて良かった。



 それから、今回の事件の実行部隊は、本人たちも名乗っていた通り組織の急襲部隊『ソードワン』という実戦部隊だったようだ。


 転移で逃げてしまった『武器の博士』の居場所につながるような情報は、引き出せなかったらしい。


 まぁ今までの感じからしても……そこら辺の情報統制はしっかりしているのだろう。

 幹部構成員でもない限りは、情報自体を持っていないと考えるべきだろう。


 もう一つ……なぜこの領の伝家の宝刀である『守護妖精の剣ガーディアンソード』を要求したのかということについても、構成員たちはわかっていなかったようだ。

 ただ、『武器の博士』はかなりの武器マニアらしく、いろんな武器を収集し、研究したり開発したりしているとのことなので、その一環として伝説の武器を手に入れようとしたのではないかと考えることもできるようだ。


 以前に押収した『連射式吹き矢』も『武器の博士』が作ったものかもしれない……。



 若い女性たちを連れ去ろうとしていたことについても、構成員たちでは明確な理由はわからないようだ。

 ただ、組織はどの部門でも、若い女性たちを集めようとしているらしいという証言はあったようだ。

 そして組織の男たちには、若い女性に手出しをすることは固く禁じられていたらしい。


 この点から考えても、やはり『死人薬』の製造に必要な道具として集めているのではないかと、クリスティアさんは予想していた。


 他に女性たちの囚われている場所の情報や『使い人』スキルなど特殊なスキルを持った人たちの情報なども尋問してくれたようだが、有力な情報は得られなかったとのことだ。



 以上が、尋問により得られた情報のようだ。



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