273.復活の、掃除人。

 俺は、旅立ちの前に『商業ギルド』を訪ねた。


 これからしばらく領都を離れるので、ギルド長のウインさんに挨拶をするためと、ウインさんの商会にお願いしたいことがあったからだ。


  ウインさんの商会は、装飾品販売事業とガラス製品販売事業を手がけている。

 装飾品はアクセサリーなどがメイン商品で、ガラス製品は窓に使うガラスやガラス製のインテリアや鏡などが主な商品のようだ。

 どちらの事業も、工房があり職人を抱えていると前に聞いていた。


 そこで俺は、ガラス工房で炭酸水を保存できるガラスの瓶、それも大きめの物を作ってもらえないか依頼したかったのだ。


 早速話をしてみたところ、ウインさんのガラス工房では、ワインなどに使うようなガラス製の細長い容器は作っていないとのことだった。

 ただガラスの花瓶の細長いタイプは作っているとのことで、その応用で作れないか職人に話してみると言ってくれた。


 もしウインさんの工房で作れなかったとしても、他のガラス職人を知っているのでワインで使う容器なら作れるのは間違いないようだ。


 出来れば屋台で使えるように大きめの容器が良かったが、考えてみればワインのビンなら間違いなく使えるので、なんとかなりそうだ。



 俺はしばらく領都を離れるので、なにかあった場合は領都支店の総支店長のメリンダに連絡してくれるようにとお願いし、別れの挨拶をした。



 その後俺はギルド会館一階にある『狩猟ギルド』で、ギルド長のローレルさんとその仲間の元冒険者パーティー『炎武』の皆さんに挨拶をした。


 『猟師ギルド』と『ハンターギルド』を合わせた『狩猟ギルド』の存在や、狩った野生動物や魔物の買取などができる旨の告知、今後『ハンター育成学校』を開くことの告知は、吟遊詩人のアグネスさんにお願いしてある。

 もうほとんど領都中で、告知が行き渡っていると思う。


 『ハンター育成学校』については、一ヵ月間の短期集中訓練を全寮制で行う予定だ。


 その間の宿泊費や食事は全て『フェアリー商会』で負担するつもりだ。

 どのくらい集まるかわからないが、可能な限りは受け入れようと思っている。


 将来的には受講料を取ることも考えてはいるが、しばらくは慈善事業だ。

 学校事業としては赤字でも、ハンターが増えてギルドの買取に持ち込まれるものが増えれば、それを買い取って商売する商会の事業に役立つので、なんとかなるだろう。


 なによりもハンターが増えること自体、メリットだらけなのだ。

 自衛ができる者が増えること、いざというときの予備戦力になってくれること、普段から魔物の数を減らせることというメリットは、非常に大きい。

 これを考えれば、たとえ赤字でもやるべきことだと考えている。



 吟遊詩人のアグネスさんとタマルさんは、もうしばらく領都での告知活動や弾き語りを続けてもらう予定だ。

 その後、『ナンネの街』に来てもらうことになっている。


 『ナンネの街』でも広報活動というか告知活動が必要になる可能性もあるし、なによりもリリイとチャッピーの先生なので早めに合流してもらおうとは思っている。



 文官三人衆は、かなり優秀なので俺がいなくても荘園の管理運営は問題ないと思う。

 その他復興に関することも、復興特命チームが機能しているので大きな問題は発生しないと思っている。


 彼らがいるお陰で、安心して領都を旅立つことができる。



 それから審問官としてやってきている第一王女のクリスティアさんと護衛のエマさんは、もうしばらく領都に滞在するようだ。


 話によると、もうすぐ王都に行っているユーフェミア公爵とシャリアさんが戻ってくるらしい。

 そのときに、一緒に王立研究所の研究員もやってくるようだ。


 その到着を待って、俺が『アイテマー迷宮』で没収した『正義の爪痕』の様々な機材などの本格的な分析に取り掛かるらしい。


 『道具の博士』の助手だった者たちは、解析に協力させるために領都に残る予定で、再尋問を手伝うために審問官のクリスティアさんたちも残るようだ。


 他の一般の構成員たちは、セイバーン公爵領経由で王都に連行される予定だそうだ。



 ピグシード家の姉妹ソフィアちゃんとタリアちゃんは、リリイとチャッピーと別れるのをとても残念がっている。

 お互いにとても寂しそうだ。

 領都に来てからというもの、この子たちは毎日のように四人で過ごしていたからね。


 またリリイとチャッピーと一緒に、アグネスさんとタマルさんの指導を受けていただけに、二人にも懐いていた。

 リリイたちより少し後になるとはいえ、アグネスさんたちとも別れることになるので、やはり寂しいようだ。


 ちなみにクリスティアさんの護衛官のエマさんも、護衛の仕事の合間に子供たちに剣術などを教えてくれていた。

 エマさんは、子供たちはもちろんアグネスさんとタマルさんともすっかり仲良しになっていた。

  三人で時々模擬戦などをしていたようで、子供たちは目を輝かせてに見入っていたようだ。

 俺は見ていないが、クリスティアさん、ユリアさん、守備隊の副隊長マチルダさんまで入って模擬戦をしたこともあったようだ。

 さすがに、アンナ辺境伯は入らなかったようだが…………。


 もう……ちょっとした武闘会だよね……。

 ここの女性たち……強すぎる……。

 …………アマゾネス軍団か!


 今後はソフィアちゃんとタリアちゃんの先生は、エマさんが務めてくれることになっている。

 守備隊の副隊長マチルダさんも時間があるときは、剣術を教えてくれるようだ。


 それから二人の周辺には、常に護衛の『ペット軍団』がいる。

『マジックスライム』のプヨちゃんと、『オカメインコ』のピーちゃん、『リス』のモグちゃん、『アライグマ』のスリちゃん、『アルマジロ』のマルちゃんだ。

 この子たちは、領城の守備要員でもあるのだ。



 アンナ辺境伯とユリア執政官には、定期的に領都に戻ってくるようにと、何度も念を押されてしまった。

 飛竜を使えばすぐに戻れるので、頼みやすいのかもしれない。

 飛竜を手に入れたことが、逆に自分の首を絞めてしまった気がする……。

 そして『ナンネの町』の復興についても、全権委任するので思う通りにやってほしいと激励された。



 俺専属の奴隷商人となった気骨のあるマダムのバーバラさんも、情報収集に励んでくれているようだ。

 昔の伝手に幅広く連絡を取ってくれているようだが、今のところ有力な情報は入っていないようだ。

 なにやら気合が入っているらしく、領都の下町の顔役としても、より細かな情報収集をするとともに、チンピラに対して睨みを効かせているとのことだ。



 領都の治安維持活動では、フウの『野鳥軍団』とトーラの『野良軍団』とタトルの『爬虫類軍団』が完全に機能しだしている。

 この三日の間で、かなりの小悪党を捕まえているのだ。


 彼らは皆『共有スキル』の『状態異常付与』で『眠り』や『麻痺』が付与できるので、小悪党程度なら問題なく拘束できるのだ。


 もっとも、誰かが襲われているなどの緊急性がある場合以外は、実力行使はしていない。

 基本的には、悪事の詳細を探り、俺やフウたち各軍団長に連絡することになっているのだ。

 そして俺が宵闇に紛れて、その者たちを捕獲しに行く。

 そんなことを、ここ数日やっていたのだ。


 捕縛した者たちは、夜のうちに守備隊の詰所などに連行しておくというかたちにした。

 グリムとしてではなく久しぶりの……『闇の掃除人』として活動することにしたのだ。

『闇の掃除人』として、悪事の内容などをメモしたものを一緒に置いておくかたちにしている。


 今後も適宜悪い芽は潰しておきたいが、グリムとして活動するのは無理があると考えたのだ。

 表向き領都にいないときでも、サーヤの転移で戻ってきて悪党退治をする可能性があるので、グリムとしての活動では色々と問題があるからね。

 そこで、久しぶりに『闇の掃除人』として活動したのだ。


 正体不明の『闇の掃除人』として活動しておけば、俺がいないときに巡回のスライムたちや三軍団の仲間たちが小悪党を捕まえてもなんとかなるのだ。

 事前に『小悪党を捕まえた。あとは、よろしく! 闇の掃除人』というようなメッセージカードを仲間たちに渡しておけば、守備兵詰所に運んだときに、一緒にカードを置ける。

 それを見れば、詳細が書いてなくても、守備兵たちが調べてくれるだろうからね。


 この数日の『闇の掃除人』の活躍は、領城での会議の話題にも登場した。

 今のところ正体不明だが、街の治安維持に役立っているので、守備隊もしっかり対応するようにという指示がアンナ辺境伯から出された。

 アンナ辺境伯が、ニヤニヤしながら俺の方を見ていたが……あえてなにも言わなかった。


 あの人……気づいてるっぽい…………。


 そしてユリア執政官や、審問官のクリスティアさんからは、特にツッコミはなかった。

 逆に不気味な気もするが…………。

 クリスティアさんの『強制尋問』スキルを発動されて、問いただされたらどうしようかと思って少しびびっていたが……

 そんな状況にはならなかった。

 よかった……。


 『闇の掃除人』のスタイルは、この前手に入れた『隠れ蓑のローブ』を着て、腰には『ハイジャンプベルト』を巻いている。

 そして武器は『魔力刀 月華げっか』を装備した。

 一応、フクロウモチーフの仮面もある。

 『隠れ蓑のローブ』はフード付きで、その機能を発動すれば姿と気配を消せるので、極秘活動のときには最高に便利なのだ!



 この前保護した奴隷の子供たちを売り飛ばしていた親や親戚たちについても、仲間たちを張り付かせていた。

 やはり盗みや傷害などの他の悪さを見つけることができたので、拘束して突き出しておいた。

 限界突破したステータスをもってしても神様のような広い心は持てないので、悪い奴には報いを受けてもらいたいのだ。


 肝心の酷い方の奴隷商人についても、『正義の爪痕』に協力していた証拠を掴むことができた。

 奴隷売買だけでなく、一部の隠れ家を調達したり、武器の調達の協力もしていたようだ。

 特定の構成員と仲良くなり、おいしい汁を吸おうとしていたことが仇になったようだ。


 実は、これが明らかにできたのは、審問官のクリスティアさんのおかげなのだ。

 クリスティアさんにお願いして、捕縛している『正義の爪痕』の構成員に改めて尋問してもらったのだ。

 協力者について……というよりも、あの奴隷商人が協力していなかったかをピンポイントで尋問してもらったのだ。

『強制尋問』スキルに抗うことなどできるはずもなく、構成員はすんなり証言したようだ。

 これにより犯罪組織に協力した罪で、あの奴隷商人を逮捕できることになった。


 これから守備隊の方でも詳しく調べてくれるようなので、余罪も出てくるだろう。

 犯罪組織に協力していたことを考えれば、それだけでも犯罪奴隷となる可能性が高いそうだ。


 今まで食い物にしてきた奴隷に自分がなるというのは皮肉な話だが、全く同情するつもりはない。

 むしろ、奴にふさわしい報いだと思う。



 ちなみに奴の商館から買い上げて保護した奴隷の人たちは、予定通り『ナンネの街』に立ち上げる『フェアリー商会』ナンネ支店の幹部候補として、今サーヤが鍛えているところだ。

 俺が『ナンネの街』に行って、少し落ち着いたら呼び寄せようと思っている。


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