270.迷宮の、ビックリ機能。

 「この迷宮はなんのテスト用迷宮なんだい?」


 俺は判断材料の一つとして、この迷宮の機能についても訊いてみた。


「はい。迷宮に出現する魔物の再生産のテスト用迷宮です。この迷宮では、事前に登録されている魔物を指定した数だけ生産することができます。迷宮技術の中で、中核をなす重要機能です」


 なんと! なにそのビックリ機能!

 それ……メチャメチャ凄い機能じゃないか!


「その魔物は、本物の魔物と同じように魔芯核が取れたりするのかい?」


「はい。生産できる魔物は登録してあるものだけですが、複製生産しておりますので、元となっている魔物とほぼ同一といえます。魔芯核も発生します」


 おお、凄いな……

 魔芯核まで発生するのか……。


 まるで俺の『波動複写』が、魔物に対してできるようなイメージなんだが…………。


 ただ原理は違うんだろうなぁ……

 魂の複写はできないはずだから……。


 なんとなくクローン生物を作るような……そんなイメージなのかな……。


「どういう原理で複製してるのか、簡単に説明できるかい?」


「機密事項ですが、姉妹迷宮のマスターですし、我が迷宮のマスターにも就任していただく予定なので、問題のない範囲で開示いたします。ただ簡単に説明することは難しいですが……。『人造人間ホムンクルス』を培養する技術を生かし、魔物を培養再生産しているのです。培養個体がある段階になると魂が宿り、魔物として活動できるようになります。これはホムンクルスの場合も同様です。ただなぜ魂が宿るのかについては、明確には解明されておりません。精霊の働きが関わっていることは分かっていますが、具体的な作用については解明されておりません」


 やはり……

 なんとなくだが……培養して大きくなると、自然に魂が宿っているということなのだろう。


 そして……『人造人間ホムンクルス』を作れる技術があったのか……


 マシマグナ第四帝国……恐ろしすぎる……

 技術力が……凄すぎるな……。


 『人造人間ホムンクルス』にもいろいろなものがあるんだろうが、なんとなく話を聞く限り……クローン細胞を培養したクローン人間っぽい気がする…………。


 しかしこの迷宮の機能は凄すぎるな……


『ダンジョンマスター』なって正解だったようだ。

 他の者の手に渡ったら、大変なことになっていたかもしれない。


 なにせ魔物が作り放題ということなんだから……。


「この迷宮で作った魔物を外に出したり、解き放つことはできるのかい?」


「理論上は可能です。ただこの迷宮から魔素を十分に吸収して活動していますので、他の環境に移った場合には本来の力が発揮できない可能性があります。その意味では、完全に通常の魔物と同等というわけではありません。この迷宮の中では全く問題ありませんが、迷宮外で魔素の供給が低い場合は活動停止する可能性もあります」


 そういうことか……

 この迷宮限定の複製生物みたいなことなのかな……逆に少し安心したが……。


「魔芯核も、本物の魔物と同程度のものが取れるのかい?」


「はい。少し程度は落ちますが、本物の魔芯核と同様にエネルギーや魔法道具の素材として使うことが可能です」


 そうか……


 多少質が落ちる程度で、通常の魔芯核と同等に使えるなら凄いことだ……。


 この世界では、魔芯核はエネルギーでありレアメタルのようなものだから、この迷宮の存在は尽きることのない油田や鉱脈を持つのと同じことになる。


 ミノショウさんが、迷宮のヒントを与えたという『マシマグナ第四帝国』の人間も、元々は人々を豊かにするために人造迷宮を作ろうとしていたと言っていたが……ある意味ではその核になる技術なんだろう。


 この迷宮が悪用されずに、有効活用されれば人々が豊かになるのは間違いないが……。


 さて……この迷宮をどうするか……非常に悩ましい。

 安全を考えると、やはり休眠させた方がいい。

 だが上手く活用すれば、このピグシード辺境伯領も豊かになるし、『コウリュウド王国』も豊かになる可能性が高い。


 だが……この迷宮を巡って争いが起こることも考えられる。


 うーん、即決はできないな……少し考える時間がほしい。


 再起動だけで数日かかるようだから、その間にいろいろと考えてみよう。


 今は『ダンジョンマスター』に就任して、再起動だけさせてあげよう。



 俺はテスト用の二号迷宮であるこの『イビラー迷宮』の管理システムにダリツーという名前をつけ、ダンジョンマスタールームに案内してもらった。

 そして、『ダンジョンマスター』に就任し、再起動に必要な作業を行った。


 再起動が終了したら、俺に連絡がくるらしい。


 どんな連絡手段でくるのかと思って尋ねると、『ダンジョンマスター』とは念話が可能となるようだ。



 俺は、先程の入り口のスペースに送ってもらい、迷宮をあとにした。


 入り口の石の扉を再度閉めてもらい、その上には俺の『波動収納』に入れてある大きな岩を置いた。

 そしてカムフラージュのために、木の枝などを集めて周辺に配置し目立たないようにした。



 もう一つ、領の東地方の『タシード市』と『トウネの街』の中間あたりのエリアにも、テスト用迷宮があったという情報をもらっているが、その可能性があるエリアはかなり広範囲になっている。


 そこで俺はその周辺のスライムたちに念話を繋ぎ、迷宮の遺跡のようなものや入り口のようなものがないか探してもらうことにした。


 スライムたちから情報が入ってから、俺が探しに行けばいいと思っている。

 エリアが広すぎるから、ある程度有力情報があってから行った方が効率的と判断したのだ。



 そして更にもう一つ、情報をもらったテスト用迷宮があったと思われる場所は、そのエリアをそのまま南に下ったセイバーン公爵領内の森林地帯だ。


 ここもピンポイントの情報ではなく、かなり広いエリアから探さなければならない。


 そこで俺は一度領都に戻り、『ロイヤルスライム』のリンを連れて飛竜に騎乗し、ピグシード辺境伯領とセイバーン公爵領の領境に当たる大きな山脈を越えて、セイバーン公爵領側に降り立った。


 このエリアから野良スライムたちを集めながら、目的のエリアまでリンに行ってもらう。

 そしてリンに仲間にしてもらったスライムたちに、エリアをくまなく探してもらうことにしたのだ。


 幸運にも指定されたエリアは、森林地帯と草原が中心のエリアで人が少ない場所のようだ。

 万が一、人に遭遇しても、スライムたちなら問題ないだろう。


 先程の候補エリアと同様に、迷宮遺跡らしきものや入り口らしきものを見つけたという情報が入り次第、俺が調査に行こうと思っている。


 ということなので、しばらくリンにはセイバーン公爵領内でスライムたちを集めながら、目的のエリアを目指してもらうことにした。



 そういえば、『イビラー迷宮』の管理システムのダリツーに、再起動に入る前に、他の迷宮の場所について尋ねてみたが、情報を得ることはできなかった。


 やはり他のテスト用迷宮の情報が、芋づる式に判明してしまうことは危険なので、制限がかかっているようだ。

 そもそもそれに関する情報が記録されていないか、かなり厳重な制限がかかっているのだろう。


 まぁ当然といえば当然かもしれない。


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