271.領都支店の状況、その一。
迷宮を捜索した日から三日後の午後、俺は旅立ちの準備をしていた。
大分遅くなったが、『ナンネの街』に出向き復興を進めなければならない。
名前だけとはいえ、一応守護だからね。
実務は全て代官であるセイバーン公爵家三女のミリアさんがやってくれるので、問題ないとは思うが……。
セイバーン公爵領内の迷宮捜索エリアで、仲間となってくれるスライムたちを集めに行っていたリンも、目的を果たし帰ってきている。
なんとリンは周辺で、二百体ものスライムたちを仲間にしたようだ。
そのスライムは、今後大森林でレベル上げをした後、元の場所に戻って迷宮の捜索に当たってもらう予定だ。
この三日間で、領都での商会の事業もそれなりのかたちを整えることができたし、準備が遅れていたものもかなり進めることができた。
サーヤとミルキーが手伝いにきてくれていることが非常に大きい。
そして、領都支店の幹部として人選した人たちが優秀で、仕事が上手く回り出していることが大きい。
商会の事業は、基本的に『マグネの街』で開始したものを領都でも稼働させることにした。
領都だけで始まった事業もある。
改めて商会の領都支店の事業を整理すると————
『フェアリー商会領都支店』
支店の総支店長————メリンダ
支店全体を統括する総支店長は、まだ若いがメリンダさんを抜擢した。
以前サーヤがリーダーに指名した女性で、元々『正義の爪痕』に囚われていた女性たちのリーダー的な役割をしていた人だ。
サーヤが選抜した他の幹部候補十二人も、順調に育成ができているようで、予定通り各部門の部門長候補として仕事に取り組んでいるようだ。
準幹部候補の二十人も、配属された部門で頑張っているようで、前にサーヤが言っていた通り、鍛えれば優秀な人材になるようだ。
どうも人材の心配は、あまり必要ないようだ。
一、支店統括本部————商会の本部ブロックに設置。領都支店の指令本部のようなものだ。
俺が商会の領都支店で仕事をするときも、この本部建物の執務室で行うことになる。
二、牧場事業————『フェアリー牧場』——『マグネの街』の『フェアリー牧場』から移した牛、羊、ヤギ、鶏に加えて、野生の『カシミヤヤギ』『アンゴラウサギ』『大王ウズラ』を新たに仲間にして、牧場に移り住んでもらった。
三、農業事業————『フェアリー農場』——ナス、トマト、ピーマン、キュウリなどの『マグネの街』から苗を移植した野菜が順調に育っている。
他にも種蒔きした多くの野菜類が順調に育っている。
葉物野菜などは成長が早いので、もう収穫しているものもあるのだ。
水田の稲も順調に育っている。
旧荘園から移植したレモンやシークワーサー、夏みかんも順調に育っている。
大森林で苗を作って移植した『マナウンシュウ』も、スキルを使ったのでかなり大きくなっている。
霊果にはならないと思うが、温州みかんとして美味しければそれでいいのだ。
この前発見した超お宝、『カシューナッツ』と『カカオ』も密かに木を移植した。
それから『アイテマー迷宮』の中の『正義の爪痕』の食料庫から没収したものの中に、落花生を発見したのだ。落花生は炒ってない状態だったので、種子として使える状態だった。
そこで俺は、早速落花生の種蒔きもした。
ピーナッツがあれば、ピーナツバターも作れるし、おつまみとしても美味しいし、なんといってもピーナツチョコレートが作れるのだ……ムフフ……。
ちなみにこの『フェアリー牧場』と『フェアリー農場』とは別に、俺がプロデュースしているピグシード家直営の各種荘園も順調だ。
『野菜第一荘園』——『フェアリー農場』から種や苗を分けて、多種多様の野菜を作っている。
元々の旧野菜栽培荘園で持っていた種で、俺が持っていなかったものを逆に分けてもらったりもした。
『果樹荘園』——ぶどう、オリーブ、リンゴ、プラム、ビワ、ライチ、オレンジ類が大量に栽培されており順調に生育している。
新たなワインやオリーブオイル作りの準備も進んでいるのだ。
『野菜第二荘園』——『野菜第一荘園』と同様に多種多様の野菜を作っている。
『牧場荘園』——牛、羊、ヤギ、鶏、馬などが飼育されている。
『穀物第一荘園』——もともと栽培されていたホップの生育が順調で、今からビール作りが楽しみな状況だ。ラガービールを作るためのラガー酵母はまだ発見できていないが……。
『穀物第二荘園』——各種麦類が順調に生育している。
『芋類荘園』——ジャガイモとサツマイモが順調に生育している。
これらのピグシード家直営荘園の運営は、文官三人衆とその配下の復興特命チームが行っている。
彼らは非常に優秀で、仕事の段取りもよく、人の雇用もスムーズにできたので、全てが稼働し軌道に乗っている状態だ。
このまま任せれば、俺がやることはあまりない感じだ。
新しいワイン、オリーブオイル、ラガービール作りなどは、中心となって頑張ろうと思っているが……。
四、薬局事業————『フェアリー薬局』——領都の四つのエリアの各広場に隣接する商会の所有地に作った施設棟に出店した。施設棟は三階建ての大きな建物で、いわば商業ビルのようなものだ。
薬が気軽に買えるように、各エリアに出店したのだ。
薬師の知識を持っている人が十分には雇用できなかったので、当面は『マグネの街』の『フェアリー薬局』で作った商品を販売するだけの形になる。
サーヤの話では、保護した女性たちの中で薬師になりたいという希望が多いようで、『マグネの街』の『フェアリー薬局』のハーリーさんの所に、既に何人か修行に行っているそうだ。
ハーリーさんたちが作ってくれているオリジナルの『薬草茶』や『ドライフルーツ紅茶』各種が、領都でも売れているようだ。
五、食品加工事業————『フェアリー食品』——食肉処理場の隣に作った、ソーセージなど肉の加工品を作る『食肉加工場』は既に稼動している。
そして『フェアリー牧場』の中にも『チーズ加工場』『バター加工場』『マヨネーズ加工場』『ケチャップ加工場』の四つを作った。
この食品加工部門は、工場を一つの場所に集約できずに別々の場所で稼働する状態になったが、領都は広いのでやむを得ないと思っている。
原材料のすぐ近くに、工場を作った方が効率がいいからね。
各製品は、まだ生産量が少なく商会内の屋台などで使用する分しか作れていない。
広く一般に売り出すことは、まだできていないのだ。
マヨネーズやケチャップは売れる予感しかしないのだが……。
早めに増産体制を整えたいと思っている。
六、食品販売事業————『フェアリー商店』——『フェアリー薬局』同様、領都の四つのエリアに作ってある商会の施設棟に出店をしている。
『フェアリー農場』や『フェアリー牧場』で作っている野菜や牛乳、卵などもここで販売している。
他の製品も『マグネの街』の『フェアリー商店』のメンバーが、仕入れの手配をしてくれて、取りそろえることができた。
七、家具調度品販売事業————『フェアリー家具』——商会の本部ブロックの中に一つお店を作った。領都には工房もないので、『マグネの街』の工房で作った物をサーヤが『アイテムボックス』で運んで展示販売している。
販売としては、『マグネの街』よりも領都の方が売れるかもしれないと思っている。
『マグネの街』の工房のモコザイグ工房長に弟子入りしている人たちが一人前になったら、領都にも工房を作ってもいいかもしれない。
八、乗合馬車事業————『フェアリー運行』——予定通り順調に運行できていて、既に軌道に乗っていると言っていいだろう。
この乗合馬車事業は、『マグネの街』同様に人だけでなく荷物も一緒に運ぶ物流事業にもなっている。
『フェアリー牧場』『フェアリー農場』『荘園』を繋ぐだけでなく、領都内全域を運行している。
人の動きがかなり活発になっている。
二階建馬車は見晴らしがよく、景色が楽しめると評判を呼んで、既に人気になっている。
『フェアリー運行』の黄色を基調にした馬車は、本当によく目立つんだよね。
九、不動産事業————『フェアリー不動産』——商会の本部ブロックの中に一つお店を作った。
『商業ギルド』のギルド長ウインさんの仲介で、土地の売却を希望する人からは、ほぼ全て買い上げたのでかなりの土地を所有してしまった。
ということで、不動産部門も始めたのだが、復興途中の現状では土地を購入する人は、ほぼいないのだ……。
まぁ長い目で見るしかないだろう……。
十、宿屋事業————『ホテルフェアリー』——宿泊施設については、まだ旅人がそれほど訪れていないので焦ってやる必要はない。
そのため『ホテルフェアリー』は、まだ開業していないのだ。準備だけは、進めているという状態だ。
今後各街道に繋がるメイン通りに作っていこうと思っている。
これとは別に、ギルド長ウインさんの義父のヤドルさんの強い要望もあったので、『フェアリー亭』だけはオープンすることにした。
トルコーネさんが領都にも出店してくれるのが一番よかったのだが、手を広げるつもりはないようで、『フェアリー商会』でやってほしいとのことだったからね。
『フェアリー商会』の本部ブロックの敷地内の通りに面した場所に、かなり広めの店を作った。
商業ビルのような建物を作ったのだ。
一階が『フェアリー亭』で、二階が喫茶店の『フェアリーキッス』と『フェアリー家具』、三階が『フェアリー不動産』が入っているのだ。
ただいまスタッフの調理研修中で、数日後にはオープンできるようだ。
普通なら調理研修はかなりの時間を要するだろうが、メニュー数を限定してオープンするのでなんとかなるようだ。
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