264.ナイスバディな、迷宮。

『ダンジョンマスタールーム』に案内したいという族長に連れられ、集落の奥に入っていくと、大きな広場があった。

 その中央に『ミノタウロス』の銅像が置いてある。

 族長はその前で止まり、俺たちもそこに近づいた。


 すると、また視界が揺らぎ……転移した。


 どうも地下三十五階層に移動したようだ。


 そこにはパルテノン神殿のような建物があり、入ったすぐの場所にテーブルと椅子が置かれていた。


 俺たちが足を踏み入れると……


 突然、目の前にグラマラスな女性が現れた!


「わー、びっくりなのだ! 綺麗なお姉さんなのだ!」

「かっこいいお姉さんなの〜! 強そうなの〜」


 リリイとチャッピーが驚いて俺の後ろに隠れた後、改めて顔を出しながらそう言った。


 そして俺とニアとサーヤは、露出度が高いある一点から目が離せなくなっていた。


「な、なんなのよ! あの大きさ……」

「か、完全に負けました……」


 ニアとサーヤはそんなことを呟き……顔に斜線が入った感じになっているが……


 呆然と一点を見つめる俺に気が付くと、二人は突然我に返り、ニアは俺の頭をポカポカ叩くし、サーヤは俺のお尻をつねった……解せぬ……。


 グラマラスな女性は、純粋な人族ではないようだ。

 見た目は人族の女性だが、頭には『ミノタウロス』のような角が生えている。

 そして肌はピンク色をしている。角もピンクだ。

 赤髪のサラサラロングヘアーで、胸の谷間が強調される体にぴったりとフィットしたシルバーの服を着ている。

 丈が短く、胸同様に美脚も強調されている。


 もしやこれは……ボ、ボディコン……伝説のワンレンボディコン……?

 俺の元いた世界のバブル期の夜を彩る女性のような出で立ちではないか!

 そしてなぜか……フサフサした扇子を持っている……完全にそれじゃないか!

 てか狙ってんのか!


 そしてナイスバディーなのに、それでいてアスリートのような筋肉質な体で……もう……意味不明……。

 てか……ついつい見ちゃうんですけど……そしてニアとサーヤの視線が突き刺さる……トホホ。



「ようこそおいでくださいました。強き王よ。私は『ミノタウロスの小迷宮』です。お気軽に『ミノショウ』とお呼びください」


 女性はそう名乗り、妖艶な笑みを浮かべた。


 自分を『ミノタウロスの小迷宮』と名乗ったが……


 『テスター迷宮』の迷宮管理システムのダリーのようなものなんだろうか……


「はじめまして、グリムです。あなたは、この迷宮の管理システムなのですか?」


 俺は素直に疑問を投げかけた。


「いえ、私は、この迷宮そのものなのです。天然の迷宮というのは、生きているのです。あなたが『ダンジョンマスター』をしている人造の『錬金迷宮アルケミイダンジョン』の管理システムとは違います。『テスター迷宮』は、私を真似た模造品です。よく言えば、娘のような存在でもありますが…… 」


 一体どういうことなんだ……


 ニアとサーヤも、外見はともかく話の内容には興味津々のようだ。

 リリイとチャッピーは、ミノショウさんにまとわりついている。


 確かにダリーと違って、立体映像ではなく実態があるようだ。


 戸惑っている俺に妖しく微笑んだ後、ミノショウさんは話を続けた。


「それでは、基本的なところから説明を致しましょう」


 そう言ってミノショウさんは、この迷宮について説明をしてくれた。


 彼女によると……


 この『ミノタウロスの小迷宮』は、『特殊迷宮エクストラダンジョン』と位置づけられる迷宮のようだ。


 前に『テスター迷宮』管理システムのダリーからも聞いたが、迷宮には、神の手により作られたと伝えられる『始源の迷宮プロトダンジョン』と自然発生的に生ずる『自然迷宮ナチュラルダンジョン』、特別な条件で発生する『特殊迷宮エクストラダンジョン』があり、すべて、神もしくは自然の力により生ずるとのことだ。


 この『ミノタウロスの小迷宮』は、『始源の迷宮プロトダンジョン』の一つである『ダイダロスの迷宮』の持つ強力な力により生み出されたらしい。

 強大なエネルギーで『迷宮種殻ダンジョンシード』が発生し、それにより生じた『特殊迷宮エクストラダンジョン』なのだそうだ。


 全ての迷宮には、その核として『迷宮霊魂ダンジョンオーブ』があり、それは意思を持つ生命そのものとのことだ。

 いわゆる魂を持っているということなのだろう。


 通常は『迷宮霊魂ダンジョンオーブ』は、『迷宮霊結晶ダンジョンクリスタル』の中に入っており、セットとして機能しているようだ。


迷宮霊結晶ダンジョンクリスタル』が器で、『迷宮霊魂ダンジョンオーブ』が中身という関係なのだそうだ。

 人間でいうところの肉体と魂の関係なのだろう。


 本体である『迷宮霊魂ダンジョンオーブ』の力で、『迷宮霊結晶ダンジョンクリスタル』を様々な形態に変えることができるそうだ。


 今の女性の姿の実態が『迷宮霊結晶ダンジョンクリスタル』で、その中身の人格というか魂が『迷宮霊魂ダンジョンオーブ』になるようだ。



 俺は、どうしても気になったことを訊いた。

 彼女は『テスター迷宮』のことを、自分の模造品もしくは娘のような存在と表現した。


 このことについて質問してみると……


「『テスター迷宮』が『始源の迷宮』の解析に成功して作られた人造の『錬金迷宮アルケミイダンジョン』と聞いているようですが、それは半分間違いです。正確には、私の協力で『始源の迷宮』の機能の一部の解析に成功し、『特殊迷宮』である私を真似て作ったのが『テスター迷宮』なのです」


「え、あなたが協力したんですか?」


「少しだけです。私がヒントあげて、あの人が解析に成功したのです。今から三千五百年以上前の話です」


「この迷宮は、一体いつからあるんですか?」


「私はまだ若いので、およそ三万年前です」


 三万年前で若いって……


「なぜあなたは『マシマグナ第四帝国』が人造迷宮を作ることに協力したんですか?」


「私は、『マシマグナ第四帝国』に協力したわけではありません。熱心だったあの人に、少しヒントをあげただけ……。あの人が自力で解析したのです。あの人は迷宮の恵みで、人々を豊かにしたいと言っていた。そして迷宮を争いに利用しないと約束しました。あの人は約束を守ってくれました。それに伴い、国も約束を守っていましたが……代を重ねていき……その約束は破られました。それ故にあの国は……自滅したのです」


 ミノショウさんが、悲しげに視線を落とした。


「『マシマグナ第四帝国』の人造迷宮がいくつあるかご存知ですか? 場所を知っていますか?」


「残念ながら詳しい情報は持っていないのです。あの人が最後に来た時に話した情報のみです。テスト用の迷宮を八つくらい作ったようでした。その後に本格的な迷宮をいくつか作ったはずです。『テスター迷宮』の近くに、個別機能のテストに特化したテスト用の迷宮をいくつか作ったようです。覚えているのは、ここ、ここ、ここ、あと……この辺りとこの辺りにもあると言っていたと思いますが……」


 ミノショウさんは、地図を広げながら、記憶の場所を記してくれた。


 一つは『アイテマー迷宮』の場所で、もう一つは白衣の男が潜んでいる迷宮遺跡の場所だった。

 やはりあそこも『テスター迷宮』の姉妹迷宮だったようだ。

 もう一つは驚いたことに……ピグシード辺境伯領の領都の近くだった。


「この辺り」と大雑把なエリアで記した二カ所のうちの一つは、ピグシード辺境伯領の東方の『タシード市』と『トウネの街』の中間くらいの場所だった。

 もう一つは、 そこを南に下ったセイバーン公爵領の中だった。



「他に迷宮や迷宮の遺跡について、ご存知ありませんか?」


「残念ながら、他の迷宮の場所については禁則事項となっていて、お教えできないのです。迷宮はこの星を維持するための重要な存在です。自然に判明しているものはともかく、敢えて存在を開示することはできないことになっています」


 おお……さらりと凄い重要なことを言った気がするが……


 もし迷宮の存在が、この星を維持管理するシステムのようなものならば、確かに天然の迷宮の情報については、なにかのプロテクトがかかっているのかもしれない。


 さっきの情報は、人造迷宮の情報だから問題なかったのだろう。


「ではヒントをもらえませんか?」


「迷宮は魔素の多い場所にあることが多いのです。魔素の多い魔物の領域や以前魔物の領域だった場所などに迷宮がある可能性が高いかもしれませんね」


 なるほど……そういうことか……。


 この情報が得られただけでも良しとしよう。


「わかりました。ありがとうございました。今いただいた情報だけでも、十分に助かりました」


 俺は感謝を告げて、頭を下げた。


 そして帰ろうと思っていると……


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