265.ダンジョンオーナーって、何よ?

「強き王グリム様、お待ちください。私からもお願いがあるのです。あなたにこの私『ミノタウロスの小迷宮』のダンジョンオーナーになってほしいのです!」


 ミノショウさんが、突然そんなことを言い出した。


 ダンジョンオーナー……なにそれ……?


 ダンジョンマスターとは違うのかな……


「あの……ダンジョンマスターの族長さんがいらっしゃると思うんですが……」


「ええ、もちろんダンジョンマスターは、代々『ミノタウロス』のミノダロス氏族が受け継いできました。私がお願いしたのは、マスターではなくオーナーです!」


 苦笑いしながら質問する俺に、かぶせ気味にミノショウさんが答えた。


 やっぱ、オーナーか……はて……?


「あのよくわからないんですが……普通はオーナーというと所有者、持ち主を意味すると思うんですが……」


「はい……そうです。私を……あなたのものにしてもらってもいいんですよ……ふふ」


 要領を得ない俺の質問に、またもやかぶせ気味にミノショウさんは答え、そしてなぜか……めっちゃ色っぽく俺を見つめた……


 これは……どう考えても遊ばれてる気がするが…………


「ちょっと! なに言ってるのよ! いくら胸が大きいからってね……突然なんなのよ!」


 ニアがミノショウさんの顔の辺りに飛んでいき、猛烈にクレームを言っている。

 プンスカモードだ!


「冗談よ……ふふ。まぁほんとに私をものにしたいって言うなら……それもありだけど……ふふ。この周辺の最上位領域である霊域のマスターがオーナーになってくれれば、それだけで私は大きな力を得ることができるんです。霊域マスターの持つ力によって、霊域の守護力の効果が大きくなるのと同様に、ダンジョンマスターやダンジョンオーナーの力でダンジョンのエネルギーを高めることができるのです。『ダンジョンパワー』がアップすると、ダンジョンの規模を大きくしたり、機能を高めたりすることができるようになるのです。ゆえに……私を所有してください……ふふふ。元々上位領域である霊域のマスターは、その影響する領域全ての所有者とも言えるので、全く問題ありません……ふふふ」


 え……霊域のマスターってそんなに凄いの……


「なんとなく話はわかったけど……。俺がオーナーになって、このダンジョンを所有すると君がパワーアップするってことだよね?」


「はい。そんな感じです……」


 そんな感じって……


「義務とか……面倒くさいことが生じないならいいけど……」


「はい。もちろんです。義務はなにも生じません。権利は……そうですね……私を好きにしても……」


「ちょっと!」

「子供の前で止めてください!」


 ニアとサーヤが、すかさずクレームを入れた。

 ちなみに、リリイとチャッピーは長い話に飽きて、『ミノタウロス』の族長と遊んでいる。


「ふふふ……冗談よ、冗談。権利は、いつでもこの迷宮に来ていただいて構いませんし、迷宮が生み出す魔物を倒し放題、魔物素材や魔芯核も取れますし、アイテムも獲得できますよ! レベルアップも短期間でできますし、今ならお得な『合宿プラン』もあります!」


 今度は……やり手なOL風の営業トークを炸裂させている。

 この人って一体……


 てか……『合宿プラン』ってなによ!?

 もう……わけわからん!

 ……承諾して話を終わらせてしまおう……。


「わかった。いいよ。ダンジョンオーナーになるよ」


 いろいろ教えてもらったし……無碍に断ることもできないし……まぁそんな必要もないしね。


「ありがとうございます。本当に嬉しいです。あゝ……す、すごい! 熱いものが……はあ……ん……流れてきます……す、すごいエネルギーが……ああ……流れてきます……ハアハア……」


 お礼を言ってくれたのだが……途中から……なんかやばい感じになってる……

 身悶えしながら、色っぽく俺を見つめてるし……なぜに?


 そしてなぜかニアは俺の頭をポカポカ叩くし、サーヤにはお尻をつねられるし……

 俺……なにもしてないよね……?


 念のため、自分のステータスを確認すると、『称号』に『ミノタウロスの小迷宮 ダンジョンオーナー』というのが追加されていた。


 どうも……正式に『ダンジョンオーナー』になったことで、なにかのエネルギーがこの迷宮に流れ込んでいるようだ……。


 霊域の守護力を発動させているなにかのエネルギーが、ここにも流れてきているのか……それとも霊域の霊素が流れてきているのか……

 まさか……俺のエネルギーが流れているってことはないよね……


 一応『魔力』などは、減っていないみたいだけど……

 生命エネルギーみたいなものが流れていたりするのかな……よくわからないが……。



「我ら『ミノタウロス』のミノダロス氏族一同、グリム様にお仕えさせていただきます!」


 今度は、リリイとチャッピーと遊んでいた族長が、俺のところに近寄ってきて膝をついた。


「え……頼まれてオーナーになっただけだから、私に仕えなくても大丈夫ですよ」


 俺は跪く族長を立たせながら、そう言ったのだが……


「いえ、何卒お仕えさせてください。長く生きておりますが、あなた様ほどの強者にお会いしたことはございません。何卒お願いいたします」


 族長はそう言って、深く頭を下げた。


「別に仲間になってくれるのはいいけど、今まで通りここで暮らしてもらえばいいから、なにも変わらないと思うんだけど……」


「はい。ありがたき幸せです。何かあれば遠慮なく、我々をお使いください。どこにでも駆けつけます。グリム様のお役に立てるように、より一層の修練をいたします!」


 族長がめっちゃ目をキラキラさせて、鼻息を荒くしている……

 そしてなぜかボディービルダーのような筋肉ポーズをとっている……

 なんか……わからないが……滅茶滅茶やる気のようだ……。

 とはいっても……今まで通りここで暮らしてもらうだけなのだが……。



 念のため『絆』リストを確認すると……やはり『使役生物テイムド』リストに『ミノタウロス』の一族が登録されていた。

 三百九十九体もいるじゃないか!

『ミノタウロス』の大軍団じゃないか……。


 ただ彼らは、今まで通りここで暮らしてもらうから、戦う軍団にはならないと思うけど……。



「グリム様、オーナーに就任していただいたお礼に、特別なアイテムをお渡しいたします。これは、赤の『バンクルストーン』です。『バンクルストーン』は、聖素を大量に浴びてできる特別な宝石で、この石の力を解放することができれば、石の聖獣を『使い魔ファミリア』として使役することができます。この石は、はるか昔に『石使い』という使い人が使っていたものです。『使い人』のスキルを持つ者たちを探して、保護していると聞きました。これもなにかの縁でしょう。どうぞお使いください!」


 ミノショウさんが、綺麗なケースを開きながら俺にそういった。


 なんと……『石使い』が使っていた特別な石とは……


 首から下げる短いペンダントになっていて、ピンポン玉くらいの綺麗な赤い宝石が埋め込まれている。


「『石使い』の方を知っていたんですか?」


「はい。少し縁がありまして。この石が必要になるまで、預かってほしいと頼まれたのです」


「そうなんですか……実は今、『石使い』の少女を保護しているんです」


「ふふふ……やはり偶然はないのですね。その『石使い』の少女にお渡しください。『石使い』なら確実に、この石の力を引き出すことができます。もし特訓をするなら、この迷宮に連れてきてください。私は実際に『使い人』の戦いというものを、この迷宮の中で見たことがあります。少しはアドバイスできるかもしれません。それから『石使い』というスキルは、石を自在に操るだけでなく、宝石など特別な石の力を引き出して利用することもできるのです。いろんな種類の宝石を集めてあげてください」


 おお……凄いアドバイスがもらえた!


 あの子たちの特訓……ここでやるか……。


 本物の迷宮で戦ってみたかったし……みんなで合宿やるかなぁ……。

 そういえば…… “お得な『合宿プラン』”って……なんだったんだろう……。


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