261.組織の、真の目的。
バーバラさんの商館を後にした俺は、領城に戻ってきた。
中庭に出て、『スピリット・オウル』のフウと『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラを呼んだ。
フウ配下の『野鳥軍団』と、トーラ配下の『野良軍団』に指示を出してもらうためだ。
昨日の悪徳奴隷商人と、保護した子供たちを奴隷商人に売り飛ばした親や親戚の身辺を探ってもらおうと思っているのだ。
悪い事をしてる証拠を掴んだら、守備隊につき出そうと思っている。
あのような奴隷商人は、のさばらせておくと被害者が出る可能性が高い。
子供を売り飛ばすような者も見過ごすことはできない。
安っぽい正義感かもしれいが、許せないのだ。
対象者などの指示を出しているところに、『スピリット・タートル』のタトルが走ってきた。
しかも猛烈な速さで……リクガメが凄いスピードで走ってくる……迫力が凄い……。
「マスター、わたくしにも協力させてほしいですわ。わたくしも軍団をつくりましたの!」
タトルが、貴婦人のような澄まし顔で、そんなことを言った。
猛烈に走ってきたことが嘘のような落ち着きだ。
詳しく話を聞くと……領都にいる爬虫類を仲間にして『爬虫類軍団』を作ったとのことだ。
ほとんどがヤモリやカナヘビのようだが、蛇や亀などもいるようだ。
フウやトーラのように、自分も役に立ちたいと思って『爬虫類軍団』を結成したようだ。
ヤモリなら窓などの隙間から家の中に侵入することも可能なので、潜入に向いてるとのことだ。
なるほど……タトルの『爬虫類軍団』ねえ……面白いじゃないか!
俺はタトルの『爬虫類軍団』にも、同じ任務を与えることにした。
タトル、フウ、トーラは早速、念話で指示を出していた。
そして俺は、『
タトルたちに任せておけばいいのだが、練習も兼ねて『使い魔人形』を使ってみようと思ったのだ。
蜂、スズメ、ネズミの三体を同時に稼働させることにする。
自律稼働モードで、監視対象を念話で指示し行動させる。
自律稼働モードのときに、事前に念話で設定した状況が発生した場合に、俺に通知が届くぐらいの設定はできるようだ。
その後に俺の方で『感覚共有』を使えば、状況を直接確認することができる。
使いこなせるようになれば、かなり便利だと思うんだよね。
三つ同時に起動すると、視界に小さなウインドウ画面が三つ表示されるので、視界が悪くなるし少し気持ち悪くなる。
これは慣れないと、かなりきつい。
念じてみると……ウインドウ画面を消すことができた。
ウインドウ画面は、任意に消したり出したりできるようだ。
自律稼働モードで稼働させているときは、ウインドウ画面を消したまま稼働させ、様子を見るときだけ出せばいいだろう。
そして特別な状況の通知がきたときに、『感覚共有』を念じれば視覚聴覚が共有できるので詳しい状況を確認することができる。
このアイテムを使いこなすためにも、少し大変だがしばらくは自律稼働モードで常時稼働させようと思う。
起動時に吸収する魔力で、しばらくは保つようだ。
どうも魔力が少なくなると、戻ってくるようになっているらしい。
この『
(ナビー、なにかいい方法ないかなぁ?)
困ったときのナビー頼み、やはり『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに頼ってみた。
(人形といえども『使い魔』として機能するので、『絆』リストの対象になるのではないかと考えます。通常の『使い魔』であれば無条件で『絆』リストに登録されます。確認してみてはどうでしょう?)
そうか……人形だから初めからダメと思ってたけど『使い魔』には変わりないから、条件に該当しているはずだよね。
早速俺は『絆』スキルの『絆登録』コマンドの『使い魔リスト』を念じて出してみる。
おお……入っている! ちゃんと、入ってるじゃないか!
今まで『
確認することも思いついていなかった……。
ただ冷静に考えれば、『絆リスト』にはすべての対象者が入っているので、『絆リスト』で確認することもできたんだけどね。
ナビーの冷静な指摘のお陰で、問題解決のようだ。
『共有スキル』がセットされれば、そう簡単にやれることはなくなるだろう。
一応、『使い魔』たちを『波動鑑定』してみる。
…………良し! 『共有スキル』がセットされている。
ただ……よく見ると……<種族> が『
もし『鑑定』スキルを持った人間に鑑定されたらまずい……。
まぁ蜂やネズミを『鑑定』する人間もいないとは思うが……。
一応、偽装はしておいた方がいいだろう。
俺はいつものように、『波動』スキルの『波動調整』コマンドのサブコマンド『情報偽装』と『波動転写』コマンドを活用して、無難なステータスを作成し貼り付けた。
そういえば……さっき聞いたばかりの『爬虫類軍団』もまだステータス偽装をしていなかった。
『野鳥軍団』と『野良軍団』は前に済ませてあるが、『爬虫類軍団』についてはすっかり忘れていた。
ヤモリを見かけて『鑑定』する人はいないと思うが……一応やっておいた方がいいな……。
俺はタトルに念話して、『爬虫類軍団』を一旦集めてもらうことにした。
『爬虫類軍団』全てのステータス偽装が終わった。
五十三体いたので、結構大変だった。
でも…… なかなかに面白い軍団だった。
確かにタトルの言う通りヤモリやカナヘビが多いが、普通の蛇なども入っているし、イグアナも入っていた。
実は元の世界にいたとき、イグアナをペットとして買ったことがあるんだよね……。
意外に人懐っこかったりする。
イグアナはさすがに潜入任務には向かないと思うが、木の枝にずっと止まっての張り込みなんかは最高になじみそうだ。
◇
俺は会議室に移動し、第一王女で審問官のクリスティアさんから、『正義の爪痕』の構成員に対する尋問で判明した新たなの事実の報告を受けた。
今回は『道具の博士』は生きて捕らえることができなかったが、その助手たちを捕らえることができたので、新たな情報を得ることができたようだ。
まず一番の脅威と考えられるのが、『操蛇の矢』と『操蛇の笛』が相当数生産されていて、組織全体に配られていたということである。
そして相変わらず、他の部門の活動内容やアジトの場所については知らされていなかったようだ。
完全に各部門が独立していて、情報が漏れないように統制されているようだ。
そしてもう一つの脅威は『道具の博士』の跡継ぎともいうべき一番弟子がいて、その者は違う場所で活動を続けているということだ。
別のアジトで同様の研究がされている可能性が高い。
それから、より詳しい組織の目的も判明したようだ。
どうも『正義の爪痕』の真の目的は、『魔神である古の機械神の復活』と『古の魔法機械文明を再興しマシマグナ第五帝国を作る』ことのようだ。
なんと……ユーフェミア公爵が予想した通り、『マシマグナ第五帝国』を作ろうとしているようだ。
組織が人を拐うのは、実験に使うためや素材として使うためらしい。
最終的には、人を魔物化させることを目指しているようだ。
組織には『福音書』と呼ばれる予言書のようなものがあるらしく、それを成就させるためらしい。
『人が魔物化したとき、導き手としての機械神が復活し、全てを浄化して、魔法機械文明を復活させ、永遠の楽園を作る』という予言があって、その成就を早めるために人を魔物化させようとしているようだ。
人を魔物化させるのは、負の感情が引き金と記されているらしい。
だから騒動を起こし混乱を招き、負の感情を蔓延させようとしているようだ。
こうなると……もはや騒ぎを起こすこと自体が目的となっていると考えざるを得ない。
まったく厄介この上ない。
そして魔物を切り刻み、魔物と人の融合や人を魔物化する薬や装置の開発に力を入れているらしい。
その過程でできたのが、あの『死人薬』なのだろう。
だがこの話を聞く限り、おそらく『死人薬』は完成品ではないのだろう。
人が生きたまま、意識を持ったまま魔物化する薬を目指しているという話を助手の一人が聞いたことがあると証言したそうだ。
この薬の開発は『薬の博士』の担当であり、『道具の博士』の助手だった者たちには詳しい情報は与えられていなかったようだ。
各地の魔素が多いところにアジトを作り、人に魔素を浴びさせ、薬も使い、魔物化する実験をしていると『道具の博士』が話したことがあったようだ。
そう考えると……やはり組織のアジトは迷宮遺跡のような所にある可能性がより高くなったと言える。
遺跡になっているとはいえ、他の場所よりは魔素が多いと考えられるからだ。
もう一つ分かったことは、ピグシード辺境伯領で起きた悪魔の襲撃は、やはり『正義の爪痕』とは直接関係していなかったということだ。
ただ単にその騒動を利用し、人を拐ったり邪魔な公爵たちを暗殺しようとしたらしい。
この話から考えても、組織には四博士以外に全体を統制する幹部がいる可能性が高い。
やはり組織の他のアジトを早く見つけて、叩き潰さないとまずい……。
のんびり畑仕事がしたいっていうのに……まったく迷惑な奴らだ……。
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