226.冒険者、パーティ。
ティータイムの雑談の中ででた話だが、最近隣国の『アルテミナ公国』やその周辺国から行商人が再び訪れるようになったとのことだ。
この『マグネの街』が無傷だったことと、安全であることが伝わっているらしい。
不可侵領域の街道も盗賊がでなくなり、以前よりも格段に安全になっているという認識が広がっているようだ。
俺が盗賊たちを一掃した成果だから少し嬉しい。
そして“妖精女神”と“凄腕テイマー”の噂が広がり、会ってみたいという冒険者なども訪れているとのことだ。
同席しているサーヤからの報告でも、『フェアリー薬局』と『フェアリー武具』に多くの冒険者が訪れているようだ。
『フェアリー薬局』は回復薬の種類が豊富なことと、値段がリーズナブルなことが評判になっているらしい。
『フェアリー武具』では俺が作った『マグネ一式シリーズ』の武具が、中堅以上の冒険者を中心に人気になっているようだ。
質の良さと値段の安さで、早くも評判となっているとのことだ。
相当数の在庫を入れておいたのだが、品切れ寸前らしいので後で補充しようと思っている。
また弓や斧などの購入希望者もいて、『マグネ一式シリーズ』に追加されるのはいつかと問い合わせが相次いでいるらしい。
弓はセイバーン公爵軍でもほしいと言われていたし、早めに作った方がよさそうだ。
冒険者には、斧や長柄斧を使ってる者が結構多いらしく需要があるそうだ。
斧や長柄斧も作ってみようと思う。なんか楽しそうだ。
サーヤが気に入って幹部として採用した『アルテミナ公国』出身の元冒険者サリイさんが、知り合いの冒険者たちに連絡をとって、呼び寄せてくれているようだ。
一緒にこの町に来ていた知り合いに、手紙を届けてもらったそうだ。
どうもサリイさんは、『アルテミナ公国』にある『冒険者ギルド』では、顔が広かったようだ。
サーヤが俺に合わせたい人というのは、実はサリイさんの知り合いの元冒険者とのことだった。
サリイさんを訪ねてやってきた冒険者の中に、引退を考えている者がいて、移住してもいいと言っているらしいのだ。
そこでサーヤは、閃いたようだ。
俺が新たに作ろうとしている『狩猟ギルド』のギルド長やハンターを育成する教官に適材ではないかと。
サリイさんと、その知人である候補者が一緒に来ているそうなので、俺は会うことにした。
サリイさんと共に現れた候補者は一人ではなかった。五人もいた。
引退を考えているだけあって、五人とも四十代後半といった感じだ。
男性二人女性三人だ。
サーヤの説明によると、五人でパーティを組んでいるらしい。
冒険者を引退して、新たな生活を始めようとしているとのことだ。
「シンオベロン閣下、お時間をいただき、ありがとうございます。私は『アルテミナ公国』を中心に活動していました冒険者パーティ『
そう挨拶してくれたのは、金髪の知的な感じの女性だった。
女性がリーダーのようだ。
他のメンバーも揃って俺に跪いてくれている。
冒険者というから、もっと荒くれ者的な感じかと思ったが……。
まるでセイバーン公爵軍の近衛兵のような精錬さがある。
「名前だけの貴族ですから閣下はやめてください。グリムと呼んでください。皆さんは本当に冒険者を引退されるのですか?」
「はい。もういい年ですし、そろそろ落ち着きたいと考えています」
「そうですか。それにしてもなぜ『アルテミナ公国』ではなくこの国に?」
俺は、素朴な疑問をぶつけてみた。
普通なら、引退して平凡な暮らしをするにしても、慣れ親しんだ国の方がいいはずだよね。
「『アルテミナ公国』には、規模は小さいですが迷宮が二つあります。魔物の領域も近いことから冒険者として活動するにはよい場所です。ただ今の公国は住みやすい場所とは言えないのです。 七年前に公王の弟がクーデターを起こし王位を簒奪してからは、酷い国情なのです。『冒険者ギルド』は、国とは独立した機関なので、ある程度は守られているのですが、最近は他国に移る冒険者も増えているのです」
なるほど……そういう事情もあるのか……。
俺は、領都で作る予定の『狩猟ギルド』の説明をした。
野生動物を狩る猟師たちのための『猟師ギルド』と、魔物を狩るハンターの『ハンターギルド』を合わせたものだ。
またハンターはより危険であるため、育成する学校のようなものを作る構想を話した。
「なるほど……それは面白いですね。ハンターを養成する学校を作るなんて……。生存率を高めるためには必要なことですね。私も冒険者を育成する学校が必要だと思ったこともありました。ギルドでは簡単な研修しか行いませんから」
ローレルさんは、大きく頷きながらそう答えてくれた。
「もしよければ経験豊富な皆さんに、教官をお願いしたいのですが。できれば『狩猟ギルド』のギルド長もお願いしたいと思っています」
俺は単刀直入にお願いしてみた。
ローレルさんが他のメンバーに視線を送ると、皆一斉に首肯した。
「私どものような者でよろしければ、協力させていただきます」
ローレルさんたちは即答してくれた。
少し考える時間が必要かとも思ったが、冒険者だけに決断は早いようだ。
俺は一人一人と握手を交わし、お礼を言った。
そして得意な分野についても少しだけ尋ねた。
勝手に『波動鑑定』でステータスを見ることは、緊急時以外はやっていない。自主規制しているのだ。
個人情報だからね。
みんなレベルは四十台後半という凄腕パーティーのようだ。
同席していたサリイさんの話では『冒険者ギルド』の中でも、トップランクのパーティだったようだ。
そしてサリイさんの師匠たちでもあるらしい。
冒険者パーティには役割というかポジションがあって、そのバランスも大事らしい。
このパーティは、オーソドックスなバランスのとれた戦闘スタイルのパーティのようだ。
『炎武』のリーダーローレルさんは、『魔法使い』というポジションのようだ。
魔法が使える人自体が貴重で『魔法使い』を組み込めたパーティは、それだけで戦力が底上げされるそうだ。
そういえば、人族でまともに魔法を使う人をまだ見ていない。
前にセイバーン家次女のユリアさんが魔法を使っていたが、魔法道具の杖から発動しているように見えたからね。
ただセイバーン家の人達なら、魔法も使えるかもしれないけどね。
レベル等は緊急時に『波動鑑定』させてもらったが、スキル等の詳細については見ていなかったから把握していないのだ。
ローレルさんは、『風魔法』と『火魔法』を使うとのことだ。
サリイさんによれば、腕前は達人クラスで二つの魔法を同時発動して、合わせることができるらしい。
炎の嵐を巻き起こすことから『
なんか……聞けば聞くほど……凄過ぎるだろ!
魔法の同時発動と合体とか……教えて欲しいし!
なんか……『狩猟ギルド』のギルド長をお願いするのが、申し訳ない感じになってくるけど……
国の騎士団や、あるかわからないが魔法師団などで好待遇で迎え入れられるような人なんじゃないだろうか……。
サブリーダーは、サラさんという女性だ。
銀髪のワイルドな感じの美人だ。
なんとなく……戦闘狂っぽい雰囲気をかもしだしてる。
剣の達人で、物理戦闘担当の『アタッカー』というポジションのようだ。
他の武器も扱えるし、体術も得意とのことだ。
サリイさんの話では、かなりの武器マニアでもあるらしい。
『斬鬼のサラ』という二つ名を持っているそうだ。
もう一人の女性フェリスさんは、茶髪の寡黙な感じの素朴顔の美人だ。
ちなみに三人とも違うタイプの美人というか美魔女で、俺的には少しドキドキする。
そんなことはどうでもいいが……。
『斥候』というポジションで、偵察や魔物の釣り出し、支援攻撃やアイテムでの回復と幅広い役割をこなすらしい。
魔法道具を含むアイテムの扱いにも精通しているそうだ。
『静寂のフェリス』という二つ名を持っているとのことだ。
背が高く筋肉マッチョの黒髪の男性は、ディグさんといい豪快に笑う脳筋な感じの人だ。
『タンク』と呼ばれる壁役を担当しているとのことだ。
二つ名は『不動のディグ』だそうだ。
もう一人の男性は、細身の茶髪で落ち着いた感じの人だ。
オリーさんという名前で、知的な雰囲気も醸し出している。
弓の名人で遠距離攻撃を担当する『ロングアタッカー』というポジションのようだ。
二つ名は『的中のオリー』だそうだ。
ローレルさん曰く、回復を担当する『ヒーラー』というポジションのメンバーがいれば、バランスとしてはより完璧になるとのことだ。
そしてローレルさんから、早くも一つの提案があった。
『ハンターギルド』を『マグネの街』にも作ってはどうかとの提案だった。
魔物の肉や素材を高く買い取るギルドがあれば、『アルテミナ公国』やその周辺国の冒険者たちも訪れる可能性が高くなる。
そしてギルドが整備されていれば、定着して活動するパーティも多くなるはずとのことだ。
金使いの荒い冒険者たちが集まるようになれば、街は潤うし活気づく。
冒険者に好かれる街になれば、有事の予備戦力としても期待できるとのことだ。
不可侵領域や『マグネの街』の近くの魔物の領域などで魔物を狩れるので、換金性が高ければ一攫千金を狙う冒険者は集まるらしい。
迷宮はなくても、十分訪れる可能性があるそうだ。
ギルドでの買取価格が評判になれば、『アイテムボックス』スキルを持っている者や魔法のカバンを持っている者は、迷宮で手に入れた戦利品を売りくる可能性もあるとのことだ。
人が訪れてくれれば、街の経済が潤うし……いい考えかもしれない。
『マグネの街』にも『ハンターギルド』を作ろうと思う。
『炎武』の人たちには領都に来てほしいので、他に良い人材がいれば紹介してくれるようにお願いしておいた。
『炎武』の皆さんは準備を整えてから、馬車で領都に向かうと約束してくれた。
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